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第1話

「あはははは!」

「なんだよ、それー!?」


教室に入ろうとドアへ伸ばした手が思わず止まる。


教室の中の入り口付近に男子が5、6人たむろしている。


嫌だな、どうしよう・・・

今更、後ろの方のドアへまわるって感じ悪いかな?

誰も私に気づいてないからいいよね・・・?


私は昔から人付き合いが苦手だった。

特に男子なんてとんでもない。

ろくに口をきいたこともない。



後ろの方から別の生徒がやってきた。

だめだ、もう思い切ってこのままこっちのドアから教室に入ろう。



ガラッ!


できるだけそっと開いたつもりだったけど、古いドアは予想以上に大きな音をたてた。



たむろしていた男子達が一瞬会話をやめ、こちらをみる。


・・・怖い・・・


でもみんな、「なんだ、山本か」という顔ですぐにおしゃべりに戻った。



私はほっとして、足早に自分の席へ向かう。



「美月、おはよう!」

「・・・相田さん・・・おはよう」

「もう!『相田さん』なんて堅苦しいからやめてって、言ってるでしょ?直美でいいってば」

「・・・うん・・・」


相田直美はこのクラスで唯一、私に話しかけてくれる人間だ。

とってもかわいい、小悪魔的な女の子。

ううん、「小悪魔的」じゃない「小悪魔」なんだ。


彼女が私に話しかけてくるのは、別に私のことを好きだからじゃない。

ちゃんと目的がある。


私はたむろしている男子達の方を見る。


その中にいる、廣野統矢の姿を。



スラッとしてかっこいい廣野君を、この相田さんは狙ってる。

だから、小学校・中学校とずっと廣野君と同じだった私に近づき、

廣野君のことを色々と知りたがってるんだ。


「そうそう!空手部のマネージャーになって正解だったよ!サンキュー、美月!」

「え?」

「美月が言うとおり、廣野君、入部してきたよ!先回りして入部して正解だった!」

「そう・・・よかったね」

「空手部のマネージャーなんて全然人気なかったのに、廣野君が入部決めたとたんに

希望者が殺到してさ。先輩達は『男目当てなんて、動機が不純すぎる!その点、相田さんは入学してすぐに入部してくれたもんね。本当に空手が好きなんだね』なーんて、言ってくれるし。もう、美月様様って感じ!」


相田さんに、廣野君がずっと空手をやってたことを教えたんだった。

・・・大丈夫かな、廣野君。相田さんが迷惑かけなきゃいいんだけど・・・



高校に入学して一ヶ月。

もうすぐゴールデンウィークだ。


中学に入学した時のことを思い出す。

あの時も最初の一ヶ月、廣野君の周りには人の輪が絶えなかった。

ちょっと斜に構えたところがあるけど、話も面白くってかっこいい廣野君は、

男子からも女子からも人気があった。


でも、ゴールデンウィークが明ける頃には彼の周りには誰も寄り付かなくなった。


どこからともなく、じわじわと広がっていくんだ。

彼の家のことが。




高校では部活に入る気はなかったけど、

「図書部」というのに惹かれた。

みんなで本を読んで議論したり、自分達で本を書いたりする部らしい。

議論は苦手だから参加したくないんですが・・・と勝手をいう私を、

先輩達は快く迎え入れてくれた。


今日も部活で大好きな作家の小説を読んでいて、遅くなってしまった。


足早に駅から家へと向かう。

すると、私の少し前に人影があった。


廣野君だ。


空手着を背負って、いかにも「疲れてます」って感じでのんびりと歩いている。

私は彼に追いつかないように、歩調を落とした。


私の右横にはずっと黒っぽい土壁が続いている。

これに沿って行って、角を曲がればものすごく大きな鉄の門が現れる。

廣野君の家の玄関だ。


でも彼は玄関からは入らない。

昔からそうだ。

門番の人たちに「お帰りなさいませ!」とか言われるのが嫌で、玄関は滅多に使わないらしい。

いつも小さな勝手口から出入りしている。


自分の家なのに、変なの。

思わず小さく笑ってしまう。


廣野君は、今日もいつも通り勝手口で姿を消した。


私はそのまま土壁に沿ってすすみ、角を曲がって廣野家の門を少し通り過ぎたところで

足を止めた。


廣野家の門の斜め前にある小さな家。

それが私の家だ。


ちらっと廣野家の方を振り返る。

今日も門番の人が5人。


そこは正真正銘、ヤクザのお屋敷だ。




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