レイトショー
休日の前日の夜。私は映画を観に来ていた。観るのは今流行の映画で、友人や同僚の話題に乗り遅れない様に、一人観に来たのだ。だが……少し異様だったのは、私以外に誰も観客がいない事だ。確かに今日は平日の夜のレイトショー。いつもよりは少ないだろうけど、私が思っていたほど流行っていないのだろうか。まぁそれならそれで気兼ねなく観れるからいいかと思っていたが……
「………?」
映画が始まり、館内が暗くなる。だが……映画が一向に始まらない。非常灯と足元の明かりだけでスクリーンには何も映っていない。
「おいおい」
数分経ち、流石におかしいと思って立ち上がり、スタッフに声をかけようと座席を離れた瞬間。
「え」
何かが足につかまっていた。足元を見ると……赤ちゃんのような小さい塊が、私の足首をつかんでいた。
「わあああああ!?」
声を上げた瞬間、掴んでいた手は消える。直後、スクリーンに映像が流れ始める。
「な、なんだったんだ……!?」
まだいるのかと思い、スマホで座席の下を照らすが何もいない。もしかしたら暗いから
見間違えたのかも。気を取り直して映画を観ようと席に戻る。やがて映画が始まるが、どうにもさっきの出来事が頭に残って集中出来ない。もう今日は観ても頭に入りそうにないし、帰ろうかと思ったが。
「っ!?」
体が金縛りにあったかのように動かない。やがて視界の隅、入り口から背の高い人が入ってくる。右、左とゆらゆら揺れながらその人はゆっくり歩いている。そして、私の前に立つと、腰を屈めて私の顔を覗き込む。
「!!!」
叫ぼうにも声が出ないし、逃げ出せない。数分ほどだろうか、それとも数十分間だったのだろうか。時間の感覚が無くなるほどに恐怖を覚えており、半ば気絶していたようにも思う。その人は私から離れると再び揺れながら外に出ていく。
「っはぁ、はぁ……!」
体が動くようになる。さっきのは何だったのか。早くここを離れたいが、いま外に出るとあいつとまた出会うかもしれない。少し時間を置き、映画も終わらぬうちに外に出る。
「……よし」
廊下は明るく、まだ映画も終わってないためかスタッフもいない。私はとにかく早くここを離れたくて、廊下を走る。あの角を曲がれば出口だ。安堵しながら曲がると。
「っ!」
あいつが、いた。まるで待ち構えていたかのように、私を見下ろしており。
「あ……あああ……!」
さっきは暗く、逆光だったため顔は見えなかった。けど、今は……
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この映画館では、たまに心霊体験をする人がいるという。子供と背の高い人の姿を見たというもので、行方不明になった人もいる。ここが以前病院があり、その跡地であるためか、近くに墓地があるためか……未だ真相は不明である。
完