結婚出来る気もしないので嫁ショップで嫁を買う事にした
34歳、恋愛経験なし、童貞。
中小企業勤務、年収500万。
金はあるが、結婚出来る気がしないので俺はついに嫁を買う事にした。
嫁を買うと結婚できなくなるぞと同僚に忠告されたが、俺はついに決心をした。
会社終わりの、そのままの足で近くの嫁ショップへと行く。
「いらっしゃいませ」
嫁ショップの自動ドアが開くと店員の弾んだ声が飛び込んでくる。
店内を見回すと、様々な種類の嫁がショーケースに入れられて売られていた。
「どんな嫁をお求めですか?」
「18歳くらいで大人しい性格の子がいいんですが」
「その条件ですとこちらになりますね」
店員が案内するショーケースの前へと移動する。
そこには18歳くらいの大人しそうな嫁がいた。
「血統書付きで、ワクチン接種済みです。こちらの嫁などいかがですか?」
「そうですね」
俺は迷う。
18歳くらいの大人しそうな嫁。
申し分ない嫁だ。
しかし、値札を見て俺は考え込む。
「しかし、35万もするのか」
嫁は高いとは聞いていたけど、やはり嫁ショップで嫁を買おうと思うと中々高い。
一応、嫁の譲渡会にも行ってみたのだが、譲渡の条件が持ち家で、家族持ちでなければいけないという条件だったので、嫁を譲渡してもらう事は出来なかった。
嫁を手に入れるには、嫁ショップで嫁を買うしかないのだが。
「もうちょっと、安い嫁はいませんか」
「もう少し安い嫁ですか」
店員はそう言うと、別のショーケースへと案内する。
「では、こちらの嫁などいかがでしょう」
店員が指し示したのは売れ残りなのだろう、育ち過ぎた嫁だった。
「35歳の嫁です。歳はいっていますがいい嫁ですよ」
「うーん、そうですね」
俺は値札を見る。
5万円だった。
35万で18歳の嫁を買うか、5万で35歳の嫁を買うか。
「じゃあ、この35歳の嫁を買います」
結局、俺は財布の奴隷となった。
売れ残りの嫁を買うと家へと戻る。
家に着くと、嫁は興味津々といった様子で室内を散策し始めた。
新しい環境に早くも馴染んでいるらしい。
嫁の中には中々、家に馴染んでくれない嫁もいるという事なのでその心配がなかったのはよかった。
家に嫁がいる。
何とも不思議な気分だった。
「ん、どうしたんだ?」
家の中を歩き回っていた嫁が俺の顔を覗き込んでくる。
何かと思うと、嫁のお腹がぐぅと鳴った。
どうやら、お腹がすいたらしい。
「困ったな」
そうは言っても、男の一人暮らしである。
料理などまともにした事もない。
「カップ麺でいいか」
俺はお湯を沸かすと、カップ麺を嫁の前に置いた。
嫁は割りばしを割ると、カップ麺をすすり始めた。
美味しそうにカップ麺をすする嫁を見ながら、これから俺はこの嫁をちゃんと養っていかないとな。と決意をする。
それからの俺は自分でも驚くくらい嫁中心の生活になった。
朝は嫁のご飯を用意する為に規則正しい時間に起きるようになったし、夜は嫁のご飯を用意する為に遅くならない時間に帰るようにした。
それまでした事もなかった料理も嫁の為に覚えた。
お風呂だって毎日沸かすし、退屈そうなら一緒に遊んだりもする。
仕事で疲れ切った体で嫁の世話をするのは大変だったが、嫁の笑顔を見ると疲れもどこかに飛んで行くようだった。
家に帰ると嫁がいる。
それだけで、俺の生活は色がついたように華やかとなった。
「先輩も、嫁買ったんですか?」
俺が嫁を買った事を聞きつけたのか、後輩が声を掛けてきた。
聞けば、彼も少し前に嫁を買ったらしい。
それまで、あまり話した事のない後輩だったが、思いのほか嫁トークで盛り上がる。
スマートフォンでお互いの嫁を見せ合う。
後輩の嫁は18歳だった。
しかし、俺の嫁の方が可愛い事は譲れない。
ある日、後輩が動画を見せてきた。
「うちの嫁、みてくださいよ」
そこに映っていたのは、料理をする後輩の嫁の姿。
また場面が移り変わると、今度は後輩の嫁が掃除をしている姿が映る。
「先輩の嫁は何か芸とか出来ないんですか?」
嫁に芸を教える。
その発想はなかった。
言われてみれば、嫁が芸をする映像はよくテレビでも目にする。
料理と掃除は嫁の芸の中でも基本中の基本である。
何より料理と掃除を嫁がしてくれたら、こんなにも楽な事はない。
早速、家に帰ると嫁に芸を教えてみる。
しかし、俺の嫁は全く芸を覚えなかった。
でも、可愛いからいいのだ。
俺は、嫁の可愛さを残す為に動画を撮った。
巷では、嫁動画と呼ばれる動画を動画配信サイトにあげる事が流行っていた。
なんとなしに、その動画を上げると大ヒットとなった。
俺の嫁の動画は10万再生を超えた。
次の動画を上げると30万再生になった。
そして次の動画では100万再生になった。
いつの間にか、嫁動画の収入が仕事の収入を超えるようになっていた。
俺は嫁動画で稼いだ金は全て嫁に使うと決めていた。
嫁の為により広い家に引っ越し、嫁にはブランド物の衣服を着せた。
そうして、そのまま続いていくと思っていた俺の嫁との生活は突然終わった。
ある日、嫁が死んだ。
嫁ショップに売られていた時から病気だったらしい。
あの時の店員がやってきて、謝罪と共に5万返金してくれた。
嫁は5万になった。
金は返ってきたが嫁は返ってこない。
もう、嫁の笑顔をみる事は出来ない。
もう、嫁なんて買わない。
俺にとって嫁はあの嫁だけだ。
自暴自棄となり、家も売り払いブランドものの服も全て捨てた。
それから俺はひたすらに働いた。
嫁の事を忘れるように。
しばらくして、俺は結婚した。
相手は俺と同じように婿を亡くした女性だった。
嫁を亡くした俺と婿を亡くした彼女。
二人が惹かれ合うのに時間はかからなかった。
「ねぇ、嫁を買おう」
婚姻届けを出した帰りに彼女が言った。
「それなら、婿も買おう」
俺も言う。
お互いに気づいていたのだ。
俺達はお互いに嫁と婿を求めていた。
俺にとって嫁はあの嫁だけだと思っていた。
しかし、俺にとって嫁のいない生活はありえない。
彼女にとっても、それは同じだった。
俺達は、それぞれの嫁と婿の墓参りをして新しい嫁と婿を迎え入れる報告をした。
「許してくれるかな」
「きっと許してくれるわよ」
きっとあなたの嫁も俺が前に進んでくれる事を望んでいると彼女は言った。
俺も君の婿もそう思っているはずだと言った。
嫁、ありがとう。
もし、嫁が居てくれなかったら俺は駄目なやつのままだっただろう。
結婚だって出来た。
嫁が俺を変えてくれた。
ありがとう、ありがとう。
嫁、ああ嫁。
俺は、今日新しい嫁を貰いにいく。
俺達は嫁と婿の譲渡会に行くと、寄付金を払って嫁と婿を迎え入れた。
それから二人の子宝にも恵まれ、俺はパートナーと嫁と婿と子供たちと幸せに暮らしている。
テーブルの上には35歳の嫁の写真が俺に微笑みかけていた。
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