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第36話 NTR

「は?」


 乙葉の策略アルバイトから無事に帰宅した影人を迎えた私こと天堂星音は、安堵の息をつきながらいそいそと夕食を出しながら新婚気分と新妻気分と一人で勝手に味わっていた。仕事から帰ってきた夫を迎える妻……それっぽい! 最高! 夏休み最高! とはしゃいでいたのだけれど、影人から『次のバイト先』の話をされて、気分はどん底通り越して地獄冥界行き一直線の急降下急直下だ。


「えっ…………海羽みうって……四元院家の?」


「ええ。お嬢もよくご存じの四元院しげんいん海羽さんです」


「ば、ばいとって、具体的にはどんな……?」


「詳細はバイト当日に話されるとのことですが……海羽さんの身の回りのお世話だそうです。天堂家での経験を活かしてほしいとのことでしたので、もしかすると使用人のようなものかと」


「使用人~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!?????」


 影人えいとは!!! 私の!!!!! 使用人なのに!!!!!!!!


 こんなの実質NTRでしょうが!!!!!


 寝てから言えって? やかましいわよ! 私だって寝れるもんならさっさと寝たいわ! ああっ、もう! 自分で自分にツッコミをいれちゃった……!


 どうしてこんなことになってるの!? この夏休みは私と影人の『ラブラブあまあま夏休みライフ』になる計画はずだったのに……! ジャンル詐欺よこんなの!!!


 ダメっ! こんな現実に耐えられない……! 私の素晴らしい頭脳が破壊されちゃう……! こんなの世界にとっての損失だわ……!


「お嬢?」


「な、なんでもないわ……なんでもないの」


 なんでもないわけがないでしょうよ!


 やってくれやがった……! やってくれやがったわねあの泥棒猫……! 私とお嬢様属性被りしてるくせに、よくもまぁいけしゃあしゃあと……!


 歌姫を抱える超大手事務所程度なら私がちょっとあれしてこれすれば監視カメラの映像ぐらいは見れるし、特製ドローンを忍び込ませることは容易い。だけど四元院家となれば話は別だ。さしもの私もあそこのセキュリティを完全に掌握するのに三日はかかる。そして泥棒猫の魔の手が迫る今、三日という時間はあまりにも大きすぎるロスだ。


 四元院海羽はあんな御淑やかそうに見えて合コンなんかに参加する尻軽女(※個人の感性・感想です)だもの。何をしでかすか分かったもんじゃない……! 私も合コンに参加してたことは都合よく忘れることにしよう。流石は私。高度な判断。


「……バイト。バイトね。うん。がんばってね」


「勿論です。一時のアルバイトとはいえ使用人。お嬢の名に泥を塗るような真似はしないよう、全身全霊で頑張ります!」


「半死半生ぐらいの頑張りでいいのよ」


「それだと死にかけてることになりますが……」


 いけない。NTRショックが大きすぎて変なことを口走ってしまった。


「ち、ちなみになんだけど……明日はどこで働くの? 四元院家のお屋敷?」


「そのようです。そちらのお屋敷に来るように言われてますから」


 よし。居場所が分かれば何とかなる。いや、何とかしてみせる……!


     ☆


 次の日。

 私は新婚・新妻オーラ全開でバイトに向かう影人を見送った後、準備をしてから部屋を出て、ある場所へと向かった。


 目的地は勿論、四元院家のお屋敷だ。セキュリティの掌握はともかく、私一人だけならその身体能力を活かして潜入することは容易い。……が、相手は四元院家。万が一にも見つかってしまえば色々とややこしいことになる。それは最終手段にとっておきたい。


 なのでここは堂々と、正面から入ってみることにしたのだ。

 ずばり、『愛する夫に愛妻弁当を届けに来た新妻作戦』である。

 昨晩、影人にはあらかじめ「明日はお弁当を届けに行く」と伝えてある。理由は「温かいうちに食べてほしいから」だとか「影人あなたの主として様子を見てみたい」などとしているが、実際は正面から屋敷に入るためのものだ。


 正式にアポをとっているわけじゃないから断られる可能性もある、が……天堂家と四元院家は古くから関わりの深い名家同士。無下に断られることもないだろう。


 なにしろ私は天堂星音。あの天堂家の娘であり、その名を轟かせる才女にして令嬢なのだから!


「申し訳ありませんが、お嬢様より『天堂星音だけは通すな』と命じられておりまして……」


 …………………………………………このやろう。


「大した用事があるわけではないの。ただ、そちらで働いている『私の』影人にお弁当を届けたいだけで」


「『お弁当を届けに来た場合は、私どもで弁当を預かるように』と言われておりますが」


「大丈夫よ。『私が』『私の手で』『私の影人に』届けるから」


「『どうせ自分で届けるとか言い出すだろうからその時は追い返せ』とも……」


 こっちの手を読むなんてやってくれるじゃない泥棒猫風情が……!


「あの~……こちらとしても大変心苦しいのですが、お引き取り頂けないでしょうか」


「………………………………」


 数分後。

 私は最終手段をとり、四元院家の屋敷の中を歩いていた。

 具体的には四元院家の使用人の格好に変装し、セキュリティの穴をついて屋敷の中に入ったのだ。まぁ私の身体能力と一瞬だけ四元院家のセキュリティをハックできる私の技術力があればこれぐらいは楽勝だ。こんなこともあろうかと持ってきてて正解だったわね……四元院家のメイド服。


 そしてこれは決して不法侵入ではない。ただ私の使用人にお弁当を届けに来たのだ。それにあの泥棒猫とは元から付き合いがあったし、家同士も古くからの関わりがある。私は悪くない。あの泥棒猫が悪い。


「さてと……影人はどこかしら」


 四元院家の屋敷の構造は頭の中に入ってる。

 こんなこともあろうかと、あの泥棒猫が影人の頬にキッスをしやがった日から警戒して集めていた情報が役に立った。


 目星をつけて屋敷中の部屋を見回っているが、どこにも見当たらない。

 いや、それどころか……四元院海羽の姿すらもない。


「――――……」


「――――……」


 廊下を歩いていたら、近くから使用人たちの会話が聞こえてきたので気配を殺して身を隠す。メイド服を着て遠目からは目立たないようにしているとはいえ、四元院家の使用人たちもよく訓練されている。私の顔を見れば一発でバレてしまうだろう。


「海羽お嬢様は今頃、夏を満喫している頃合いかしら」


 ちょうどあの泥棒猫の話をしているようだ。それにしても……夏? 満喫? なんか嫌な予感がするわね。


「ですねー。時間的にはそろそろかと。それにしても、あの新入り君はラッキーですよねぇ。お嬢様と一緒に夏の海でバカンスですもん」


 新入り君……ってもしかして影人? 夏の海でバカンス!? どういうこと!?


「こらこら。バカンスに行くのはあくまでもお嬢様よ。あの新入りはあくまでもお世話するだけ」


「それでも羨ましいですよー。いいなぁ……夏の海。お嬢様も珍しく楽しみにしてたみたいですし」


「ああ、確かに。出かける時もかなり急かしていたし。よっぽど楽しみだったのね」


 出かける時……? ま、まさか……!


(や、やられた……! 影人をこの屋敷に呼び出したのは、私に対するミスリード! 本命は夏の海でバカンス!)


 はめられた! 影人とあの泥棒猫はもう……この屋敷にはいない! ここはもぬけの殻!



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