正体
死神を祓え
絶望の溜まった底なし沼から
亡者が這いだし迫りくる
ほんとうにはもう死んでいるはずの私に
骨に薄皮が張りついただけの暗い指を
繭さながらに巻かれた包帯の隙から滑り込ませ
貧弱な獣の首を絞めたおまえ
そうやって私を眠りから醒ましたのは、おまえだった
救いの手を払え
あらゆる影が閃光にかき消された白い街で
聖者がこぞって後ろ指をさす
黒い涎をこぼす私に
歪みも傷も指紋さえない輝く指で
包帯を優しく巻いて姿形を覆い隠し
畸形の獣を封じたおまえ
そうやって私を眠らせていたのは、おまえだった
闇の森へ逃げよう
光も雨も届かない、ただ暗いばかりの底を歩こう
次から次へと外から取り込みつづけても決して満たされなかった体を、
なおも空っぽにしながら
次から次へと内から湧きあがりつづける妄想をぬぐい去り、
なおも空っぽになりながら
先へ
先へ進もう
やがて森の果て、
やがて世界の果てまで行こう
葉音の無限のざわめきから、
波の音が聞こえる場所へ
ここから先は海、断崖絶壁に波濤が砕ける
あるいは荒野、風が砂塵を投げつける
あるいは宇宙、混沌が奏でる静寂に、耳鳴りがする
ここから先は、
地図に描かれていない場所
背後にはおまえの気配
正体の知れないおまえ
まだ正体の知れないおまえ
ずっと世界を相手に踊っているつもりでいたけれど
私の手を握っていたのは
ほんとうには、
おまえだったね
どこまでも背後についてくるがいい
いつまでも首を絞めているがいい
ずっとそばにいるがいい
これまでそうしてきたように
いずれ踏み出す一歩をともに
おまえを憎み
おまえを許している
おまえを恐れ
おまえに安堵している
おまえの正体は
おまえの正体は、いったい