15・前世の自慢。
アリィの兄君はケリィ様と言うそうだ。
長子なので当然跡取りとして教育されているのだが義弟となったアリィは中身が
十四歳だそうなので「変なヤツ」と認識されてるらしい。
前世で勇者と認定されてからとんでもない詰め込み教育をされたそうでそれが
そのまま消えずに今世に引継がれてるという。
それがチラチラ感じられるらしくて「面白い」と同時に「ライバル」と感じて
いるのがオレにも分かる。
ギリィ様が色々気を遣ってるのを気にしてるんだろうな。
侯爵様の一族で子爵のギリィ様が気を遣うなんてアリィの親ってもっと爵位が
高い貴族なのかもしれない。
まあ、庶子でも親がちゃんと将来の心配をしてくれてるなら安泰な人生だろう。
冒険者なオレなんぞは安泰な人生なんぞ夢のまた夢だ。
勇者・ガングみたいな実力者ならともかく……
そこまでの実力が今からつけられるとはとても思えないし。
冒険者以外の仕事をオレが出来るとも思えない。
なので今日も今日とてアリィと兄君の三人でダンジョンに潜っている訳だ。
ケリィ様はダンジョンは初めてだそうだ。
つまり初心者講習会って雰囲気だよなぁ。
アリィ、つまらなそうな顔なんてするんじゃあない!
お前だって初心者な時期はあっただろうが!
「えー……オレ、最初からオーガとやったんだけど。
基本な戦い方はお城の騎士達に仕込まれたんだよ。
ちょっとやったら見学! とか言いながら森の奥につれて行かれてオークとの
戦闘を見せられたんだよ。
ところがそれにオーガが乱入してきてねぇ。
逃げるに逃げられず戦うハメになったんだよ。
アレにはまいったね」
前世の自慢なんぞしてるんじゃあねぇよ。
ケリィ様も一緒に行動するなら基本的な知識は体感して覚えて貰った方が良い。
スライム相手に全滅したんだぞ。オレのパーティは。
オレだけなんとか勇者のパーティに助けて貰ったんだからな。
油断が一番危険だってことは分かって頂きたいんだよ。
「あー、でもアレって家よりも大きな特殊固体だったでしょ。
さすがにそんなヤツ相手に油断はしないと思うけど」
したんだよ! 図体がでかくてもたかがスライムと思ってたんだ。
だから今でもスライムはトラウマなんだよ。
お前が一緒に居るとそんなヤツにまた遭っちまいそうだしな。
「アリィが一緒に居ると……ってどうしてですか?
生意気だとは思いますけどタダの幼児ですよ。
まあ、魔法も使えるし瞬間移動もやってのけるから『普通』の基準からは
はずれてますけどね」
ケリィ様はアリィの家族だ。
関係も良好に見える。
でも、ギリィ様が教えていないことをオレが教えていいんだろうか?
ガキでも「勇者」だってことを。
悩んでいたらアリィがバラしやがった!
自分が「勇者」だってことを!
な! なにやってんだよ! 秘密にしといたほうが良かっただろうに!