1・ベビーキャリー。
「橋本治」大先生……ごめんなさいです。
オレはハゲだ!
頭の毛は一本も無い。
もっとも頭だけじゃあない。
眉毛もすね毛も脇毛も胸毛も無い。
肝心要の大事な所の毛まで無いんだ。
こんなヤツなんて需要は無いよなぁ……
元はちゃんと有ったんだ。
濃い茶色の頭髪・りりしい眉毛・胸毛だってすね毛だってチ〇毛だって
ちゃんと生えてたんだ。
それが……
事の起こりは仲間の負傷だった。
なのでリーダーが次の仕事は多分戦闘にはならない軽い調査依頼にしたんだ。
普通より大きなスライムが出たようだからちょっと確認してきて欲しいと。
軽い仕事だと油断してたのかもしれない。
いくら巨大でもスライムなんかにあんな目に遭わされるなんて!
取り込まれた仲間を助けようとしてみんな次々に飲み込まれた。
勿論、オレも……
気が付いたらギルドの治療室だった。
勇者のパーティが助けてくれたと聞いて驚いた。
でも体の毛が一本残らず無くなってたのにはもっと驚いた。
鏡の中のヤツが自分だと納得できず暫く呆然としたね。
オレだけ助かったのは護身の魔方陣の入れ墨のせいだそうだ。
同郷の見習い彫り師に練習代わりに入れさせてやった代物でオレも普段は
忘れてるようなモノだった。
「ソイツは大した効果が有る訳じゃあ無いがな。
お前の魔力を使ってほんの少し防御力を上げてたんだ。
まあ、それでもギリギリだったと思うぞ。
そこまで体中の毛を溶かされてたらな」
勇者が解説してくれたんだがちっとも嬉しい気分にはなれなかった。
仲間のことを思うとな……
だから勇者たちがくれた巨大スライムのコアの代金も全部仲間の遺産に追加して
遺言通りの処理をした。
皆万が一の時のことをちゃんと決めてギルドに遺言として預けてたからな。
一人になったが別のパーティには入れて貰えなかった。
験が悪い・お前だけまた生き残ってオレ達が死ぬかも・眉毛も無いヤツなんて・
等々といろんな理由を並べ立ててくれたよ。
だけどオレってソロで出来るほどの実力は無いんだ。
結局、勇者のパーティに泣きついた。
荷物持ちでいいので端っこに居させて下さい……と。
荷物……確かに荷物持ちだったよ。
でもその荷物が……普通の荷物じゃあ無かった。
一歳くらいの赤ん坊……なのに口は達者だし生意気だし。
そんなガキなのに『勇者』なんだと言う。
勇者……オレを助けてくれたガチムキのヤツが勇者じゃあないのか?
結局オレはベビーキャリーなるバッグのような背負子のような代物に
ガキ勇者を乗せて背負って運ぶ役目になった。
もう歩けるけど長時間は無理だし勿論戦闘も無理!
魔法は何でもござれだけどレベルが低いから威力も大したこともない。
でもなにかとガチムキ脳筋勇者に付いて行きたがる。
置いて行かれると転移魔法で追いかけて行こうとしやがる。
背負ってるオレごと!
しかも最近泣いてダダをこねることを覚えやがった。
勿論! ウソ泣きに決まってる!
だけどなまじ顔がカワイイ上にあの歳だ。
オレがイジメてるみたいに見えるそうだ。
お前が付いて行きたがる勇者は人外で規格外で最強なんだぞ!
タダのBランクのオレを付き合わせるんじゃあねぇ!
「泣く子と地頭には勝てぬ」と脳筋勇者の仲間がソイツの故郷の格言を言う。
意味まで解説してくれても納得出来ない「荷物持ち」なオレだった……
「泣く子と地頭には勝てぬ」
聞き分けのない子供は横暴な地頭〔役人〕と同じで、
道理で争っても勝ち目はない。
道理の通じない相手には、黙って従うしかない。