三十五話
魔の森に入ったはいいものの魔物に遭わない、何故だ。
あっ、そういえばさっきここに来る途中に他の生徒とすれ違った気がする。彼らはいっぱい倒したな!とかなんとか言っていた。そのせいで遭遇しないのかと納得する。なんてことをしてくれたんだ。
私は迷いそうなのでひたすら真っ直ぐ突き進んできたがもっと違う所も行った方がいいのだろうか。もちろん森なので真っ直ぐ進めない時もあったためその時は持ってきたナイフで木に印をつけてき…私はバカか。普通に全部印をつければ他の道も行けるじゃないか。
何をやっているんだ。
しばらくそうして印をつけながら移動してきたがやっぱり会うことはなくいつのまにか第二結界がはってあるところまでやってきた。
ここから先は少し強い魔物がいる。怖かったがここで行かなければセルフィーナ様達を見返せないと足を踏み入れた。
しかし運がいいのか悪いのか。それでも魔物に出会うことはない。少し空が薄暗くなってきたので今日のところは戻ろうと思い来た道を引き返そうとすると、ガサッと私以外の草を掻き分ける音がした。誰か来たのかと思いそちらを見てみると魔物がいた。
やっと会えたと喜んだが実際対峙すると怖い。それに遭遇した魔物は4足歩行で牙も持っているがどちらかというと爪で攻撃してくるタイプだ。そして素早さはないが持久力、そして力が強い。この第二結界の中にいる魔物の中では強い方に入る。
相手にとって不足なし!と言いたいが私は弱すぎるので相手的に不足大有りだ。やばいぞと焦りだした私に魔物は容赦なく爪を振り下ろしてくる。
間一髪で避けることが出来たが後ろにあった木がへし折れていた。気合を入れて来たものの自分も下手をすればあの木の様な事になってしまうと思ったら恐怖心が一気に湧いて来た。
「ど…どうすれば。そ、そうだ魔法だ」
必死に魔法を発動しようとするが体が震えて集中できず発動すらしない。
「発動してよ!」
これじゃあここに来た意味なんてないじゃないか、セルフィーナ様達を見返そうとしていたのにこの様ではもっとバカにされてしまう。
「あわわわ!」
魔物は私が考えているところに容赦なく次の攻撃を入れる。なんとか次も避けたがそう何度も上手く避けるなんて無理だろう。
もうなんでもいい、逃げるしかない!まだ死にたくないんだ!
私は急いで来た道を戻ろうと必死に走る。
しばらく逃げ続けていたが魔物も諦めてくれず追いかけてくる。
体力の限界が近づいて来たがもう少しだ、上手くすれば逃げ切れるかもしれない。
そう思った時、私は木の根に足を引っ掛けて転倒してしまった。すぐに立ち上がろうとするが。
「痛っ!」
足を挫いてしまったのか立てない。魔物も目前まで迫って来ている。
私、ここで死んじゃうの…?いや!みんなに、レイに会えなくなるなんて絶対にいや!
気持ちだって伝えていない。
いやだ、怖い。助けて……。
「レ…レイ…助けて…」
涙が溢れてきた、体がガタガタ震える。
魔物が爪を振り上げてくるのが目に入る。もうダメだと諦めた時…
「ベルティア様!!」
幻聴かと思った。でも違う、私を抱き寄せて魔物の攻撃を持ってきたであろう剣で防ぐ。ガキーンと音がしたかと思えばすぐレイは魔法を使い魔物の動きを止めて剣で刺す。
魔物は倒され消えていき魔石だけが残った。
「レ…レイ!」
私はレイに助けてくれたお礼をしようとしたが出来なかった。
「何でこんな所に来たんだ!」
「ひゃっ」
「死ぬつもりだったの!?」
レイは私の肩を掴んで怒鳴る。敬語だって忘れている。どんなに怒った時だって敬語がなくなることなんてなかったのに。
「一歩間違えれば死んでいたんだよ!」
こんなに怒っているのは初めてだ。
私の事嫌いになったのだろうか…呆れられただろうか…。いやだ、いやだよ。
「ご…ごめんなさい。だ、だって」
私は泣きながらレイの顔を見上げる。
「だって、レイの隣に居たかったの!」
「ベルティア様?」
私は必死にレイに縋る。
お願いだから私を見捨てないで、嫌いにならないで。側にいて…。
「私、何も出来ないから…せめて下級魔法くらい使えるようになって少しでもレイの隣に相応しいようになりたかった…私!」
「ちょっとベルティア様。まっ、待って」
レイが何やら言っているが私はそんなことに気にしていられなかった。もう、自分の事でいっぱいで何も考えられなかった。だから自分の気持ちすら口走っていたのだ。
「私!レイが好きなの!」
涙が止まらない。レイに自分の気持ちをこんな形で伝えるなんて…。でも一度言ってしまったら止まらない。
「好きなの!レイが。一緒にいたいの…お願いだから嫌いにならな…ん!」
嫌いにならないでと言おうとしたのに最後まで言うことが出来なかった。何やら柔らかなものが私の口を塞いでいたからだ。
目を見開いて驚くとレイの顔が信じられないくらい近くにあった。すぐには分からなかったが口付けられていた。
何でこんな事をするの?キスをするってことはレイも私が好きだと期待してもいいの?
そうしていると唇が離される。
「あの、レイ…。わっ」
今度は強く抱きしめられた。痛いくらいだ。
「何でベルティア様は…」
「レイ?」
「僕だってあなたが好きだ。だからこそこんな危険な事はしてほしくなかった」
そう言うとさらに力を込めて私を抱きしめる。離さない…そんな風に言われているみたいだ。
レイも私が好き…?それこそ幻聴ではないのか。
「ずっとあなただけを愛していた。ベルティア様も僕のこと好きでいてくれるんですよね」
「好きよ…。レイこそ私に恩義を感じて好きと無理やり言ってるとかじゃないわよね?」
私はいつも不安に思っていた事を口にしてしまう。すると少し不機嫌そうな声でレイは言う。
「僕の気持ちを疑うんですか?」
「いや、そんな事はないです…」
いじけたように言うレイにこれ以上は何も言えない。でも一つ気になることがあり聞いてしまう。
「その、いつから…あの、好きでいてくれたの?」
私の質問にレイはそうですねと考えるとこう答えた。
「いつからだと思います?」
「分からないから聞いたの!」
「そうですね…まあ、一目惚れではないです」
……それ言わなくても良くない?一目惚れじゃないならそれは別にいい。むしろ少しずつ私を知って、それで好きだと言ってくれるというのはすごく嬉しいけど。わざわざ言わなくても良くない?
レイは若干不機嫌な顔になった私の髪を撫でる。
「ふふ、表情に少し明るさが戻りましたね」
「え?」
「ずっと不安そうな顔をしていたので」
私がレイの言葉を信じきれず不安に思っていたのを察して少しでも明るくしようとしてくれたようだ。
「あなたはいつも僕を気にかけてくれた。辛い時もずっと側にいて励ましてくれた。それで好きならないわけないじゃないですか」
そう言ってまた私を抱き寄せた。今度はそっと優しく。
「レイ…本当に私の事好きでいてくれるの?」
最後にもう一度だけ聞く。これが最後だから、確認させて。
「そう言ってるじゃないですか」
「取り消しとか今ならまだ間に合うよ!」
「しませんよ」
「じゃあ私もう二度と離れないし、離れていかないでね」
そう言って私はレイに腕を回した。しばらく抱き合っているとだんだん恥ずかしくなって視線を逸らす。すると足が目に入る。私は無我夢中でレイに気持ちをぶつけていたから忘れていたが足を挫いたんだった。
思い出すと急に痛くなる。痛みで涙目になっているとレイが異変に気付き急いで横抱きにする。
お姫様抱っこというやつだ。恥ずかしいんだけど…。
「すみません!怪我をしているのに」
「ううん。それより恥ずかしいので降ろしてください!」
「暴れると落ちますよ」
暴れていたが落ちるのは嫌なので大人しくする。しかしやっぱり恥ずかしいのでレイの胸に顔を寄せて表情をかくす。
帰りながら気付いたが魔物に全く遭遇しない。先程の魔物以来会っていないのだ。疑問を口にすればレイはなんでもないことのように言う。
「ああ、近づいて来ても魔法でこちらに来る気をなくしているんです」
なるほどと頷くがレイの魔法って本当に使い方が様々だなと感心した。




