三十三話
「レイ、おはよう!」
「ベルティア様おはようございます」
「昨日はごめんなさい。急に帰ったりして」
まずは昨日の事を謝る。それを聞いたレイは心配そうにする。
「どこか具合が悪いとかありませんか?」
「心配しないで。やっぱり勉強嫌!ってなっただけだから」
突っ込んでくれるなよ。苦しい言い訳だと私だってわかっているのだ。流してくれよと目で訴える。
「そうですか。では今度二人で昨日の分の勉強しましょうね」
「うん!」
そう優しく言ってくれた、嬉しい。
それに二人でという言葉にさらに嬉しくなる。好きだと気付いたら一言一言が私の胸に響く。
「私も仲間に入れて欲しいです」
「セルフィーナ様…」
そうだ。私セルフィーナ様に言わなくちゃ。もう協力は出来ないって。最初は了承したのにやっぱり無理なんて言ったら怒るだろうか。いや、怒るだろう。
でももう譲れないのだ。怒られたっていい。
私は覚悟を決めた。
三人で並んで歩く。セルフィーナ様は今日も必死にレイに話しかけている。だが今日は私も負けていられないのだ。
「レイ、今日はねまた魔法の授業があってね」
話そうと思うと話題ってなかなか見つからない。必死に探せば探すほどつまらないものになってしまう。
こんな事じゃなくてもっと気の利いた話題はないのか。というか今までレイとどんな話しをしていたんだ…。
「レイ様、今日のお昼休みご一緒してもよろしいですか?」
「ごめんね。今日はエドと約束があるんだ」
なんだ今日は一緒に食べれないのか。いつも一緒にお昼にしようと誘ってくれるから今日もそうなのかと思ったが駄目らしい。
レイにはレイの交友関係があるものね。
それにエドワルド様はレイのご兄弟になったわけだし。
「着きましたね、それではベルティア様。今日も頑張って下さいね」
そう笑って去っていった。
「ベルティア様!そろそろ二人にしてくれないかしら!レイ様あなたがいたから遠慮して私の誘いを断ったのよ!」
昨日だって笑ってくれたしと私に抗議するように言う。
いや、レイはエドワルド様と約束があると言っていたじゃないか。私は関係ないだろう、むしろ私だって悲しいわ。
それよりセルフィーナ様に謝らなくてはならない。
「あのお昼少し時間を頂いてもよろしいですか?」
セルフィーナ様と二人で話がしたいので時間を作ってもらう。どこがいいだろうか…。教室でも大丈夫かな。お昼休みはみんな教室から出ていってしまう為話を聞かれる事はないだろう。
「はあ、何?ま、わかったわよ」
「ありがとうごさまいます」
昼休憩になり教室に私とセルフィーナ様だけになるのを待つ。すると10分も経たずに二人だけになった。
「で、話って何?」
「レイとの仲を協力するって言いましたけどやっぱりできません。ごめんなさい!」
私は頭を下げた。レイは渡したくないのだ。
「今更なんなの」
「あの…」
「あなた最低ね。何も自分もレイが好きだとでも言うの」
「はい」
私の返事にフッと鼻で笑う。そして私を上から下まで見るとさらにバカにしたように笑う。
「顔はそこそこ良いけど、それ以外は全然駄目じゃない。スタイルも成績も全部私が勝っているわ」
私の方が相応しいのよと自信満々にセルフィーナ様は言う。
たしかにセルフィーナ様は綺麗だしスタイルも良い。成績だってすごく良い。Sクラスに入れる実力を持った方だ。
「レイを狙っている女で一番あなたが劣っているの、わかる?」
「でも!」
「まあ、いいわ。話はそれだけ?」
そう言ってセルフィーナ様は教室を出て行ってしまった。
その日からレイを狙う令嬢から会うたびに嫌味を言われるようになった。
「ああ、あなたが。身の程知らずのあのベルティア様ね」
「幼少の頃のことで未だに付きまとうなんて」
最初は気にしないようにしていた。でも、毎日毎日そんな事を言われ続けると流石に気が滅入る。もう嫌だ。
私はレイを諦めた方がいいの?
そんな思いが頭をよぎるがすぐに嫌だと思った。
レイもルミも私が元気がない事を心配してくれているが本当の事は話したくない。
これくらい自分でなんとかしたいのだ。
二人に頼ったらまた何か言われる。私は少しずつ追い込まれていった。
「ベルティアさん。そろそろ下級魔法くらい使えるようになった方がいいわ」
「すみません」
先生に注意されるが出来ないものは出来ないのだ。魔力はちゃんと足りているのに魔力を使うのが相当下手らしい。訓練はしてきたけど出来るかどうかはまた別の話だ。風を吹かせる事くらいは出来るが調節出来ないので訓練場以外では使うなと言われている。
「風の刃よ!」
そう言って魔法を発動しようとするものの途中で消えてしまう。
今日も結局上手くいかず帰ろうとするとセルフィーナ様をはじめとする令嬢達数人に囲まれた。
「本当にダメね」
「笑っちゃうわよね」
そうバカにされる。でも魔法が全然ダメなことに反論は出来ないので黙って聞き流そうとする。
「せめて下級魔法は使えないとねー」
その言葉に顔を上げて私は聞いてみた。
使えたなら?使えたならどうなるのか。
「使えたら少しは認めてくれるんですか?」
私は令嬢達を見る。使えたからといってレイが私を選んでくれるかはわからないが少なくともこの嫌味が減ってくれたら良いと思う。
「そうねー、少しくらいは認めたやっても良いわね」
「まあ、無理でしょうけど」
あははと笑う。やれるもならやってみたらと大きく笑うセルフィーナ様に私はまっすぐ前を向いて言った。
「やってみます。どんな手段を使ってでも」
こうなれば荒療治だ!少し、いやかなり危険だがやるしかない。
人間土壇場で力を発揮することだってあるじゃないか。
私はそう決めてセルフィーナ様達と別れてとある場所に向かった。
それは…学園の敷地内にある魔の森と呼ばれる場所だった。
そこは生徒たちが実践をするためにと用意された森だ。もちろん結界が張ってあるため魔物は外には出てこられない。森の奥に行くほど魔物も強くなる。倒したりするのはあまり好きではないが魔石や肉が手に入る。
「倒しても無駄にはしないから」
そう言って自分を納得させて森に足を踏み入れた。




