三話
待ちに待った街に出かける日。私は浮かれていた。馬車に乗るとき躓くくらいには浮かれていた。
「父様!私どちらかというと街で暮らしている方が買うようなものが見たいです」
平民の使用人の子どもが持っていた首飾りが可愛かったのだ。聞いたら街で買ったと言っていたのでそれに似た物が欲しい。
ちなみに話しかけたら最初は固まってすぐに逃げられそうになった。
まあ、突然主人の娘に話しかけられたら驚くよね。ごめん。
でも三日くらいかけてみんなと仲良くなった。
「ではそれも見ようか。でも得意先でも何か買わなくてはね」
「わかりました」
貴族のあれやこれがあるのだろう、大変だ。
でも父様が平民のものなんて!的な事を言わなくてよかった。
「ティアは使用人の子どもたちと仲良くなったと聞いたがみんなと上手くやれているかい?」
「はい、最初はびっくりされましたけどめげずに話しかけたら仲良くしてもらえました」
どうやら父様達にも遊んでいた事が伝わっていたらしい。別に隠してはいないが。
もちろん遊んでばかりではない。
マナーレッスンや勉学、ダンスレッスンなどにも励んでいるという事だけは言っておく。
案外全部ふつうにやれたので私やるう!と自画自賛しておいた。
「そうか、これからも仲良くしなさい」
「はい!」
「彼らは私たちを支えてくれる大切な人たちだからね」
父様の言葉にそうですねと返す。
その後こんな事したと話しているうちに街に着いた。
馬車から降りるとそこには賑やかで活気に満ちていてとてもワクワクした。
野菜を売る人も肉を売る人みなとても力溢れている。
街についたらまず色々見て回りたいとわがまま言ってよかった。こんなに楽しそうな所を見られたのだから。
私もちょっと身なりのいいお嬢さん風にしているのでそこまで浮いていない。
街並みはあれだ。中世ヨーロッパ風だ。
前世を通して海外旅行に行ったことのなかった私はめちゃくちゃはしゃいだ。治安も良いとのことでもう止まらない。
父様が止めるのも聞いちゃいない。護衛もいて小さな子どもを追うのも大変そうだが浮かれた子どもの私はなかなか足を止められなかった。
しかし、優秀な護衛はなんとか数歩後ろをちゃんとついてきている。安全だ。
あっちへふらふらこっちへふらふらしていたらいつのまにか噴水のある広場のような場所に来ていた。
「嫌だわ…捨てられたのかしら?ボロボロじゃない」
「こんな所で死なれたら困るわ。どこか行ってくれないかしら」
通りすがりの人たちがヒソヒソと物騒な事を言っていた。
し、死にそうって何が?動物とかかな。
人だかりが出来なにかを遠巻きに見ている人たちの目線を追えば私はとても驚いた。
そこにいたのは犬などの動物ではなく私くらいのやせ細ってボロボロの薄汚れた男女の子どもだった。
噴水前で身を寄せ合ってうずくまっている。
前世今世共に恵まれた環境で育った私には衝撃的な光景だ。
「孤児だね、施設に連れて行こうか」
呆然としていたら父様がやってきた。
「この街は比較的豊かだが、完全というわけではない。あの子達のように恵まれない子ども達もいる」
父様の言葉が上手く頭に入ってこない。
「孤児院があるからそこに入れようか」
「良いところなのですか?」
「正直なところ場所によるよ」
父様の言葉にさらに驚く。
「全ての場所が良いところに。恵まれない子ども達がいなくなるように。そう努めているのだが現実的に厳しくてね」
悔しそうに言う父様をみて私は悲しくなった。
全て救うことは出来ない。ましてやこんな子どもの私には夢のまた夢だ。
私は考えた。あの二人だけなら?せめてあの二人だけでもどうにか出来たら…
それにはどうしたらいいか。
しばらく考えて私にはこうするしかない!
そう思った私は父様にこう言っていた「プレゼント決めました!」と。
父様が返事をする前に駆けだした私は二人の前に立った。二人は私を見上げたがすぐに下を向いてしまった。だが私は気にしない。
「二人ともまとめて我が家で働いてもらうんだから!あ、衣食住付きね」
異論は認めないと言わんばかりに私は宣言した。
自分のもとで働いてもらうしか凡人の私には思いつかなかった。