二十八話
レイが城に行って1カ月が経ったが帰ってこない…と心配になるが城から元気にしていると便りをもらったので大丈夫だと言い聞かせてた。寂しい…レイがいないとこんなに寂しいのか。しかしレイも頑張っているので私も頑張ろう。
そう思い魔法の練習を頑張った。もちろん勉学など他のものも頑張った、少しだけ。
それとルミの付き添いでお医者様の元へ行き光魔法の特訓にも付き合った。ルミの成長の早さにも驚きを隠せない。先日手を失ったという人の手を復活させていた。ただ魔力をとてつもなく使うらしくその日はだいぶ疲れている様子だった。おそらく一回に片腕か片脚くらいが限度だそうだ。それに1日二、三回しか使えないと思うとルミは言っていた。
魔力量最大のSランクのルミでそれならAランクなどの人たちは一回…もしくは再生させるのも厳しいだろうという事だ。
再生させるには光の魔力、Sランク級の魔力量が必要なのだろう。
本当にすごいなと思う。
それに比べて私はというと…。
風で髪を乾かせないかなと思いやってみるが不器用すぎて風の威力が調節出来ず凄まじい風を吹かしてしまって部屋の備品を破壊し母様にめちゃくちゃ怒られるというしょぼさ。
体を風で浮かせて飛べるんじゃないかと思い試せば勢い余って自分が吹っ飛び怪我をしかける。その時は幸いにも母様が見ていたので救ってもらえた。
その他にも色々あるが思い出したくもないのでやめておく。
いつか出来るようになってやる。
とまあそんな感じでそこそこ充実した日々を送っていたわけだが突然リズナール家を医者であるコナドさんが訪ねてきた。
「ルミはいますか!」
急ぎの用らしく門番に詰め寄っている。騒ぎを聞きつけた私とルミはコナドさんの元へ急いで駆けつける。
「ああ、ルミ!急いで来て欲しいところがあるんだ」
そう言って連れて来られたのが街にある普通の家だった。
中に促され入ってみると一人の少年が横たわっていた。
怪我をしておりひどく化膿している。熱も出しているのか呼吸が荒い。
「どうか…どうか息子を…」
母親らしき人がルミにすがる様に頼む。
少年は熱のせいか食事もできていない様でかなり衰弱している。薬を飲むのも厳しいらしい。
これは傷を治したとしても…。
「何故こんなになるまで放っておいたんだ」
コナドさんが攻める様に言う。たしかにここまで放置した母親にも多少なりとも責任はあるのではないかと私も思う。
「ただの怪我だったんです…。それがこんなになるなんて」
「小さな怪我もなめてはいけない。ルミできるか?」
「はい。傷を治す事は出来ると思います」
そう言いルミは少年の前に立ち魔法を発動させる。白く淡い光に包まれると少年の傷は綺麗に治っていた。
「ショウ!」
母親が駆け寄る。しかし少年の熱は引いておらずまだ弱っていた。
「私が治せるのは傷…なんです。その子は熱も出しているし衰弱もしている」
ルミは歯痒そうにそう言う。魔法は万能ではないのだ。
「後はお薬を飲んで食事で栄養をとって回復を待つしか」
しかし少年は体力が相当奪われているのか中々薬や食事を口にしようとしない。なんとか口に入れても飲み込めずむせてしまう。
このままでは本当に危ない。なんとか物を口にしてくれればいいのだが。
「体力は流石に回復させれませんけど、生きたいという気持ちを高める事は出来ますよ」
その場にいる全員が困りはてた時扉の方から聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると予想通りの人物が立っていた。
「レイ!」
私とルミはレイに近付く。レイだ、レイがいる。レイを見た瞬間すごくホッとした気持ちになった。ずっと会いたかったのだとそう思った。
「帰って来てたの?」
「はい。今日帰って来たんですけど二人がいなくて。それでこちらに来ていると聞いて来て見たんです」
レイに会えてすごくすごく嬉しいが今はそれどころではないと思い出す。
それにレイは言った。生きたいという気持ちを高めると。
「来て見たら大変なことになっててびっくりしました」
レイは少年をみると試してみましょうかと問う。
「精神を高めれば少ない体力を精神力で多少は補えるかもしれない」
その言葉にこの場にいた人間の目はレイに向く。たしかにそんなことができれば或いはと思う。
「そんな事が出来るのか…?」
「はい。闇の魔法なら…」
コナドさんは聞くが闇の魔法と言う言葉に驚く。闇の魔法はまだ世間では恐ろしいものと認識されているので誰もが恐怖している。
「い、嫌よ!そんな得体のしれない魔法なんて」
母親が拒否をするがコナドさんは少し考えるとたしかにと口にする。
「それが出来れば助かる可能性は出てくるかもしれない」
体力がない時強い気持ちが体力以上の力を発揮する事がある。それに賭けようじゃないかとコナドさんは言うとこの場にいる母親以外の人間が頷いた。
「ただ。この子に生きたいという気持ちがなければどうにもできませんが」
無い物は作り出せない。ある物を増やしたり減らしたりすることしか僕にはできないとレイが説明する。
「では頼めるか」
コナドさんはやはり一瞬迷う様子を見せたが少年が助かる可能性があるそちらに賭けたようだ。
「で、でも…」
母親はまだ躊躇しているがこのままでは精神力をどうにかしても取り返しのつかないことになってしまう。少しでも望みがあるのならばそちらに賭けた方がいいと私も説得を試みる。それにレイはすごいのだ、大丈夫と言える。
しばらくして母親が決心をしたように言う。
「わかりました、お願いします」
なんとか納得してくれた様なのでレイに任せる。レイは少年の側によると闇の魔法を発動させた。
「……」
難しい顔をするも少しすると「見つけた」と言いさらに集中する。
「君は生きたいんだろう。なら頑張らなきゃ」
声をかけ励ます。少し紫の様な闇色に光ると少年は口を開いた。
「生き…た…い」
「喋らないで。体力は食べることに使うんだ」
それをみたコナドさんは急いでスープを少年に食べさせる。そうすると少しずつだが飲み込んでくれた。
「やった…」
すごい、すごいよレイ!私は感動してレイに飛びつく。
「うわ!ベルティア様?」
「レイ!」
ルミもレイに飛びつく。二人に飛びつかれフラついたものの何とか受け止めたレイは微笑んだ。
「お役に立てたならよかったです」
レイがすごく格好良く見え少しドキドキした。あれ?と疑問に思っているとレイはそうだと口を開いた。
「このまま精神力も高めたままにしておくと精神面も疲労してしまうので食べた後は通常に戻しますね」
食べる時また必要なようなら魔法をかけるとレイは付け足す。しかし何回も上げたり戻したりするのは良くないので二、三日が限度だと言う。それまでに自力で食べられなければどうにもならない。
今食べれたからといって絶対良くなるとは限らない。
「すみません。何日もかけると魔法に頼らないと気持ちの制御ができなくなるかもしれないので」
「いや、ひとまず食べれたんだ。この魔法がなければ今日だって危うかった」
「いえ、僕の魔法を使わなくても彼の力だけでどうにかなったかもしれませんし」
「謙遜しなくてもいいじゃない」
ここは胸を張っておけばいいと思う。それに世の中絶対なんてないのだから何かあったらその時また考えるしかない。
それにしても闇の魔法は制限はあるのかもしれないが使用方法が多い。とんでもない魔法なのかもしれない。
次の日からレイは少年の元に行き様子を見る。薬が効いた様で熱も少し下がっていた。一日目はレイが魔法を使ったが二日目からは自力で食べれる様になった。
「これならきっと大丈夫なんじゃないでしょうか」
「そうだね。油断は禁物だが」
コナドさんも安心そうに言う。本当に良かった。これもルミとレイのおかげだと二人を褒め称えた。
本当にその通りなので私も心の中で拍手である。
「本当にありがとう」
母親は泣きながらお礼をいう。
よかった。人が不幸になるのは見てて気持ちの良いものじゃないからね。私は幸せな気持ちになった。
「それにしても闇の魔法にはあんな使い方があったのだな…」
コナドさんがふと思い出した様に言う。
精神を壊して人をおかしくする。それが今までの闇の魔法の常識だった。しかし今回レイが良い使い方をして認識を変えた。
「ベルティア様がそういう使い方も出来るんじゃないかって考えてくれたんです」
「君が…」
ここに来てようやく私という存在をはっきりと意識してくれた気がする。今まではなんかルミの側に張り付いてる貴族の嬢ちゃんくらいにか思われていなかっただろう。
「ベルティア様は僕たちに沢山のものを与えてくれんです」
レイはそういうが全部二人の努力あっての事だろう。それに私だってレイとルミに沢山のものをもらった。私は二人が大好きだ。
そう話して私たちは戻る事にする。
「また、病院にも来てくれ」
そう言って私たちを見送ってくれた。
それからレイの噂は広まり、さらに王が闇は危険ではないと宣言したため闇魔法の認識が変わっていった。




