十九話
さてそろそろ戻りましょうかと移動する。
「手繋いでいいですか」
「いいわよ」
そう言って二人で手を繋いで移動する。
ついでにアニマルセラピーと思い厩舎の横を通ることにした。馬に癒されよう。しばらく歩いていると目的の厩舎が目に入った。
馬って可愛いよなと思っていると馬の鳴き声と蹄の音がした。だれか馬に乗ってやってきたのかなと思う。それにしては荒ぶってそうな音だ。
確認しようと見ると驚いた。馬にだれかが乗っている状態ではなく馬単体だった。
後ろから「馬が逃げたぞ」と騒いでいる。
どうやら何かに驚いて興奮しているようだった。
どんどんこちらに向かってきている。
このままでは蹴られてしまうのではないかと焦り出したその時…
「ベルティア様!」
レイが私を守るように抱きしめた。
するとレイは目をつぶりそっと開けた。
「大丈夫。落ち着いて?」
レイがそっと言う。そうしたら驚くことに馬が止まった。
「そう、いい子だね」
私を抱きしめたままそっと馬を撫でる。
正直なにが起こったのかさっぱりわからなかった。
何故急に馬が?と思っていると真っ青な顔をした厩務員さんがやってきた。
「ベルティアお嬢様お怪我は?」
「え、ええ。大丈夫よ。レイが馬に声をかけたら落ち着いて…」
そう言ってハッとした。まさか…
「レイ!まさか魔法を?」
「はい、上手くいきました。もちろん失敗してもベルティア様だけはお守りするつもりでしたが」
練習の時は全然上手くいかなかったのにこの土壇場で成功させるとはすごくないかと興奮した。
「ど、どうやったの?」
私がそう聞けばえっとですねと説明してくれる。
「気付いたんです。練習の時は上手くやらなきゃって力が入っていたんです」
でもそれじゃだめだって気付いたとレイは言う。
えっと…よくわからない。
そんな顔をしているとこういう事ですとさらに説明する。
「相手を落ち着かせるには自分も冷静に、落ち着いていなきゃだめだと思ったんです」
「なるほど」
たしかにそれはある。お互い血が上っているとただの言い合いになる。
「さっきルミとぶつかった時はお互い興奮状態だった。だから話にならなかった。反対にベルティア様は優しく穏やかに接してくれた」
優しかったかわからないけどまあ、落ち着いてはいた。
「そこで僕も魔力に大丈夫だよってその気持ちを込めたんです。そうしたらなんていうか…」
説明が難しいからこの辺はまた整理できたら話しますと言った。
「とりあえず感覚的なものですけどね。これからもっと制御できるようにしていきます」
「うん。でも本当すごかったわ!」
そうレイを褒める。私は感動したのだ。
すると頬を赤らめながらレイは言った。
「ベルティア様のおかげですよ」
ありがとうございますと抱きしめる力に強くなった。自分からはいいけど相手からされると落ち着かない。ど、ドキドキするんだが…
「あ、あの…その」
とレイを見上げれば
「あっ!すみません」
急いで私を解放した。
 




