十八話
レイを見つけた私は近づくと
「レーイ!」
と明るく呼びかけた。
「ベルティア様?」
「えい!」
そう言ってレイを抱きしめる。レイは少し驚いて暴れようとしたが背中をポンポンと叩けばすぐに大人しくなった。
「勝手に出てきてすみませんでした」
「いいのよ。誰だって辛くなったら逃げ出したくなっちゃうものよ」
よしよしと頭を撫でる。サラサラだ。
しばらく無言で寄り添っているとレイは口を開いた。
「魔法の練習も上手くいかなくて、ベルティア様にも迷惑かけて…」
レイはゆっくり自分の思いを口にする。
「それに比べてルミは色々な事が上手くいってる。それでどんどん焦ってしまって」
ルミに八つ当たりしてしまったと嘆く。
自分はどうしてこんなにも小さな人間なんだと私に縋るように言う。
「自分より上手くいっている人を見ると誰でもそうなっちゃうわ」
気にしないのと言う意味も込めて抱きしめる手に力を込める。
そうすればレイもおずおずと手をそえてきた。その手に力がはいる。
「ルミ…怒ったでしょうか?どうしたら…」
不安そうに私を見る。
「ルミはそれくらいじゃ怒らないわよ。だってルミってすごく優しいでしょ!」
そうレイに同意を求めるとそうですね…と返事をする。
「でもちゃんと後から謝らなきゃだめだよ?」
そう言うとはいと頷いた。
またよしよしと撫でた。やっぱりサラサラだ。
しばらく二人でそうしていると私はレイに問う。
「レイは辛い?」
「は…はい」
「なら、全部やめて私とどこか遠くへ逃げちゃう?」
そう言うと目を見開いて驚愕する。
その後すぐ我に返ったのか私を引き離す。
「だめです!ベルティア様がそんな事する必要ありません。あなたが辛い思いをするだけです」
必死にだめだと否定する。その言葉に私はやっぱりねと微笑む。
「レイは優しいわ。だって辛い時って自分の事でいっぱいになっちゃうでしょう」
「…」
「でもレイはちゃんと私の事を考えてくれた」
そんな優しいレイが大好きよと笑えば目を大きく開け涙をためた。
それを隠すように下を向く。
「辛いなら魔法の練習も頑張らなくていい。出来なくたって私はあなたの側にいるわ、いつだって私はあなたの味方でいる」
「ベルティア様、僕」
顔を上げたレイは涙を流しながら笑っていた。
なにかを決意したそんな表情だった。
「あの僕…もう一度やってみます」
目に輝きを取り戻していた。きっともう大丈夫。辛くなった時は無理をせずにねと伝えた。
そんなレイは…
「ただ、絶対に側にいてくださいね」
それだけで頑張れます、そう言った。
もちろんよと返すと嬉しそうに笑った。とても綺麗な笑顔だと思った。
 




