一話
私は思い出した、前世の記憶というものを。
特に何かしらの切っ掛けがあった訳ではない。本当にふと思い出したのだ。
今回は綺麗な顔してるなと鏡を見て思ったのだ。そして今回?となり、あ、これ二度目の人生だと気付いた。
鏡を見たことが切っ掛けといえば切っ掛けか。
そう気付いた時には一気に前世の記憶が甦ってきた。
しかしなんか思い出したわ、くらいの軽い感じだった為倒れるだとかそういうこともなかった。
前世では日本という国に住んでいた。アラサーと呼ばれる歳で何か特別なこともなく生活していた。
悲しいことに恋人はいなかった。というよりいた事はあっただろうか。いや、ない。
悲しいからこの辺は思い出すのはやめておこう。
家族には恵まれていた。仲の良い両親に姉と弟。
仕事も普通だった。残業も多くなく人間関係も困った事はない。
私自身は二次元大好きなただの人見知りの普通の人だった。
人見知りには困ったが周りに恵まれていたのでなんとかやってこれた。結構幸せだと思う。
いや、幸せだった。
でも、さっき気付いたのだ、それは前の私であることに。いつ前の私がなくなったのかわからない。
多分どこかで死んでしまったのだろう。
そもそもこれが前世なのかもわからない。もしかしたら私のただの妄想かもしれない。でも楽しかったこと悲しかったこと全てではないだろうがとても鮮明に感じられるのだ。
そして寂しい気持ちになる。
この記憶の中の人達にはもう会えないと。
そう思うと泣きそうになった。
しかし泣く寸前の所で後ろの扉がコンコンとノックされた。私の意識はそちらに向き涙は引っ込んだ。
「ベルティアお嬢様、起きていらっしゃいますか?」
そう今世_いやそもそもあれが前世かわからない説明がつかないのでそういうことにしておく_では異世界の公爵令嬢だった。何故異世界と思ったかというと魔法がこの世界にあったからだ。
名前はベルティア・リズナール、七歳だ。
リズナール公爵家の長女だ。妹が一人いる。
茶色のふんわりした髪に少しタレ目気味の緑の瞳をしたとて可愛らしい顔をしている。
自分で言うのもなんだが。
ちなみにナルシストというわけではない、前世と比べて言っているだけだ。
「…さま、お嬢様!もう、開けますよ!」
「あ、はい!どうぞ」
いけない、思い耽っていたら声をかけられていたのを忘れていた。外の人は少しお怒りだ。
「もう、朝食のお時間です。着替えますよ」
「お願いします!」
庶民だった前世を思い出して他人に着替えさせてもらうのはちょっと恥ずかしいと思うようになってしまったが、今世貴族として生きてきた記憶もちゃんとあるのでなんとか普通にしていられた。
しかも思ったより元気な返事が出て驚いている。子供らしい無邪気な返事になってしまった。実は今まで落ち着いて語っているが結構ソワソワして落ち着かない。走り出したい気分だ。もちろんやらないけど。令嬢的にも駄目だろう。どうやら考え方などは前の影響も受けていそうだが、精神年齢と性格なんかは今世のものが結構出ているらしい。
これは前世で一番困った人見知りがなくなるかもしれない!
ふつうに他人と話せる気がする。
よし見た目もいいし性格は悪くなさそうだし今世はイージーモードか!
だと、いいな。
性格はこの前世が若干足を引っ張っている気がするが。まあ、いい。
「お嬢様、終わりましたよ」
「ありがとう!」
身支度を整えてもらい家族の待つ食堂に向かった。
それにしても広い。もはや城だ、城。
本物の城見たことないけど。
今度改めて探検しようと思う。
さすが公爵家!ちなみに我が家は権力も歴史も財力も充分な貴族らしい。使用人達が誇らしげにしていた。
全体的に豪華だ。といってもシンプルなものが多く白を基調に上品にまとめられている。よかった。ゴテゴテじゃなくて。
軽く確認しながら移動していたら目的地に着いたのだった。