蒼葉戸羽の独白。
オレは、生まれた時からずっと病院にいる。身体がかなり弱くていつでも予断を許さない状態だったから。
そんな身体に産んでごめんねと母様は泣きながら謝罪していた。大丈夫。大丈夫だよ、母様。オレ、母様と父様の子に産まれて幸せだから。
たまにしか会えなくても十分幸せだから。
オレが7歳の時に母様は弟を産んだ。遠夜という名前。
意味は、夜空は遠い。遠いけど広くて綺麗。そんな心を持った子になってほしいとの意味が込められている。
あ、オレは蒼葉戸羽っていう。意味は、戸など気にせず羽をもって羽搏いてほしいからとのこと。
遠夜の写真を見せてもらった。凄く可愛かった。
早く会って抱き締めてやりたい、そう思った。呪いを持ってても。大丈夫だからな。遠夜、母様と父様は愛してくれる。
14歳になった。それでも、退院はできない。母様達は来なくなった。爺様も婆様も来ない。
遠夜は元気か。母様もみんなも。それだけが心配だ。
大人になり、オレはようやく退院できた。八月はセミが鳴き空には入道雲が目立つ。
暑い夏の日。オレは、遠夜のいるシェアハウスに向かっていた。すべての荷物を持って。
父様と母様は大分前に亡くなっていたらしい。爺様も婆様も。
でも、寂しくない。大好きな遠夜がいるから。
「……早く、会いてぇな」
電車に乗り後はタクシーで移動。待ってろ、遠夜。今、兄貴が会いに行くから。
今まで寂しい思いさせてごめんな。