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神が勇者になってみた  作者: The crank only knows
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難儀な戦記と次なる指令

「うーむ。ダメだ」

「案外難しいものですね。レベルを高すぎず低すぎる位置にするというのは」

 ここは人気のない教室。俺と沙喜は窓から差し込んでくる夕日の眩しさに耐え兼ね、窓から一番離れているドアの付近に座りこの忌々しいノートとにらめっこをしている。

 完全に舐めていた。この数行を埋めることぐらい容易いことだと。仕方がなく沙喜にアドバイスをもらうために“アドバンス”の皆が帰るまで待ち、二人で知恵を絞ること数時間。未だにノートは空白のままだ。


 もとはといえば成績順に日直を決めるからいけなかったんだ。日直の仕事は主に授業の前に先生の代わりに授業の準備をするのとこの“戦記せんき”を書くことの二つだ。授業準備自体はそれほど難しいものではなく、魔法の授業ならば魔力を集め、あらかじめ練っておく。剣術の授業ならば人数分の剣を、弓術の授業ならば人数分の弓を用意する程度のことで“アドバンス”の生徒なら誰でも楽にこなせるだろう。

 問題は“戦記”のほうだ。これは今日一日の授業で学んだことや反省点を書き留め、それを皆で共有しよう! とか言う子供じみたことをこの学校は取り入れているのだった。

 まぁ、その子供じみたことに頭を悩まされているわけなんだが......。

 そして目立ちすぎてしまった故に初日から日直とはな。

 これが二番目、三番目ならば前の人のを参考に調節できるのだが、最初ではそれも叶わない。むしろ俺がお手本にされる側になってしまう。下手に高度なことを書きすぎると周りが困るだろう。そして目立つ。逆にレベルを下げすぎると特別階級としての面目が立たない。

 故にちょうどよいレベルに落ち着かせるのが良いのだが、それが一番難しい。

「調査ってこんなことするもんだったっけ?」

 俺は今まで考えていたことを口にする。

「そうですね。私たちが知っている調査とは全然違いますね」

 こんなめんどくさい調査はやったことも聞いたこともない。

 学校に行かされ、目立たないように必死にこなしているのにあの上司は何をやってるんだ! こんなときに送り込んだのはあいつなんだからあいつがどうにかするのが筋ってもんだろう。

「あいつは九古神のくせに何をしてるんだか」

 俺が誰にともなく吐き捨てるように呟き作業を再開しようとしたとき窓に何かが当たる音がした。

「今、何か窓に当たったか?」

 思わず沙喜に確認してみる。沙喜なら何か見ていたかもしれない。

「私もよく見てませんでしたが、何かが当たったのは間違いないですね」

 俺は頷き慎重に窓際へと歩いていく。ここは仮にも勇者の育成を進めている場所だ。悪魔からの奇襲と言うことも考えられなくはない。辺りに敵の気配はない。

 俺は窓に手をかけ、ゆっくりと窓を横にスライドしていく。

 今のところ何も起こらないがまだ油断してはいけない。俺は幾度となく油断に漬け込まれ苦汁をなめてきた。

 神でさえも完璧な者はいないとはいえこの調査を通して俺も何か変わらないといけないとこの数日で雪やノアに気づかされた。


 窓を開けきった。次に窓に当たったと思われるものの確認だが、当たったときの音からしてそこまで大きくはなく、勢いもそれほど強くはなかったと推測できる。ただ時限魔法が乗っていると厄介だ。

 俺は意を決して窓の外の手前を覗き込む。......とそこには見たことのある槍が転がっていた。そう、あの忌々しい自由人が放ったであろう槍である。もちろん手紙もくくりつけられているのだが、下界に降りてきたときもこんなことがあったな。

「何だ。またあいつか」

「またあの人ですか。次は何を言ってくるんでしょうか?」

 確かにそれはもっともだ。この期に及んでまだ新しい指示を出してくるのかと思うと頭が痛い。

 しかし、見つけた以上確認しなければならない。

 俺はしぶしぶ手紙を開きそこに書かれた文章を読み上げる。



『やあやあ、二人とも調査の方は順調かな? 君たち二人の動向はある程度は把握していたつもりだけどまさか勇者になろうとしているとはね。正直驚いたよ』


 いや、仕方がなかったでしょうが! 急に叩き落とされるようにこっちに来たんだから。


『まぁ、そんなことは置いといて、本題に入ろうか。君たちも気づいているかもしれないけど、今色々と面倒なことが起こっている。私が知っている限り二つある。どちらも私には手が出せないのでどっちの問題にも動きやすい下界にいる君たちに頼もうと思う。一つは悪魔たちのこと。そしてもう一つは......』


 ん? 面倒なことって二つもあんの? そんでもって何でそんな重要なところを書いてないのよ! 書き終わってから送ろうよ。

 というか不自然に字が雑な気がする。というより震えている? 最後まで書ききる前に何かあったのか? だから槍の勢いも弱かったのか? 

 疑問は尽きないが考えていても分かるわけがない。なぜならあの人のことを俺たちが理解できるはずがないからだ。

「とりあえず面倒なことが二つあるってことですよね。一つは今学校でも問題になっている魔界のこと。もう一つはわからずじまいと」

 沙喜がやや呆れぎみに手紙の内容をまとめた。沙喜にも俺と同じように疑問はたくさんあるだろうが口にはしなかった。


 その後手紙のおかげかどうかはわからないが上手く書き上げ無事に“戦記”も終わったのでライル先生のもとへ提出しに行った際に

「そうだ。言い忘れていたが特別階級の生徒はいつ出陣命令が下るかわからないからな。校舎の裏手に小さいが宿舎があるのでそこに泊まることも許可されている。お前たちは泊まるところもないんだったら丁度良いんじゃないか?」

 という提案をされたのでありがたく泊まらせて頂くことにした。

 早速宿舎に行ってみると豪華な家を持っている雪が先に自分の荷物を持ち込み整理を始めていた。

 俺は思わず聞いてしまった。

「お前は家に帰れば良いんじゃないのか?」

「いや、無駄に家が広いだけで一人でいるのは少し飽き飽きしていたところだったからな。丁度いいからこっちに来ようと思ったんだ」

 ということなのでしばらくは三人での生活になるだろう。なので、今日の手紙の件はさっぱり忘れ、来るときの戦闘に備えた方が良さそうだ。


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