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神が勇者になってみた  作者: The crank only knows
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情けと甘さと優しさと

 皆が闘技場から去り日もにわかに傾き始めた頃、その美しい夕日が俺たちのいる医務室の窓から差し込んでくる。

 そんな夕日とは裏腹に沙喜の表情は暗かった。

 雪は今カーテンの向こうでオリブェル先生に治療を受けている。雪は休むことなくカーテンの前で治療を待ち続けていた。

 俺たちは雪の様態と沙喜が無理をしてないかを確認しに来たのだが、声をかけられるわけもなく一旦医務室を離れ、すぐ外の廊下に出た。



「やはり相当落ち込んでいるようだな」

 無理矢理つれてこられて不服そうなノアは見たままのことを告げる。

「仕方がないよ戦いとはいえ友達をこんな状態にしちゃったんだから。あたしだったら多分お見舞いにもこれてないよ」

 確かにミルカの言うように沙喜の他人を思う気持ちは人一倍強い。ましてやそれが友達ともなればなおさらだ。

 だが、さすがにノアの考えはそう甘くなかった。

「いくら友達とはいえあの場で情けが出るようじゃ戦場ではと真っ先に命を落とすぞ」

「そんなこと言ったって友達なんだよ? 怪我させちゃったら心配するのが当然だろ!」

 たまらずアンが反論する。

「ならあの矢はどう言うことだ?」

 やはりノアも気づいていたのか。俺も気になってはいたが沙喜ならやりかねないとは思って見逃していたんだが......。

「は? 何のことよ?」

「あの矢には微量だが回復魔法が刷り込まれている。あれはどう見ても人為的に刷り込まれている」

 そう。沙喜はあの矢に常人には気づかれないように微量ながら回復魔法を乗せていた。

「あぁ、それなんだが......」

「あれは手を抜いているということではないのか? でなければなんだというんだ。俺はその甘さのことを言っているんだ」

 俺が理由を説明しようとしたところで被せるようにノアが畳み掛ける。

「それは......」

 アンが答えにつまる。とりあえずノアの誤解を解かないといけないな......。

「雪! 大丈夫なの!?」

 沙喜の声だ。雪に何かあったのだろうか。考えているうちにアンとミルカは医務室に駆け込んでいった。あわてて俺とノアが二人に続く。

「沙喜! どうしたの!?」

 ドアを開けてみると治療を終えた雪に沙喜が許しを乞いながら泣きついていた。どうやら無事に治療が終わったようだ。

「ごめんね。ホントにごめんね」

 雪はあっけにとられた様子でじっと沙喜を見つめていた。

「私は沙喜さんとの勝負中に意識が遠くなって......それで私はどうなった?」

 さすがにあれだけの戦闘をしたんだ。意識が飛ぶのも無理はない。

「あの後お前は沙喜の攻撃を受けて医務室に運ばれて治療を受けていたんだよ」

 それを聞いて雪は顔を曇らせうつむいた。

「そうか。私は負けたのか。もっと強くならなければ」

 こんな状況下でも強くなることを頭に置いている。自らの体の心配よりも向上心を絶やさない心。ここまでの強い信念を持った人間がいるとはな。

「とりあえず今日は安静にしてしっかり休養を取ってください」

 オリブェル先生の言葉に静かに頷くと立ち上がり

「私のせいで随分と暗くなってしまったな。これから帰ると家に着くのが遅くなってしまうだろう。良かったらお礼も兼ねて私の家に泊まっていかないか? ここから近いしな」

 沙喜のこの提案により総勢六人で雪の家に向かった。もちろんノアは嫌がったが俺に負けたことを相当悔いていたのか少しいじっただけで渋々ついてくることになった。



 夜道は多少暗かったが雪の家は歩いて五分とかからなかったこともあり無事に雪の家に着いた。

「ミルカさんの家みたいに大きな家じゃないがゆっくりしてくれ」

 そう言われて通されたいわゆるリビングはミルカの家には及ばないものの言われなければリビングだと気づかないような広さの場所だった。



 雪は当然のことながら独り暮らしで炊事、洗濯、掃除、そして鍛練と毎日多忙な日々を送っている。それだけに雪が振る舞ってくれた料理は久々の戦闘で疲れた俺たちにはこの世のものと思えないくらい美味しく感じた。

 食後は食器の片付けを終えた後雪の鍛練に皆で付き合った。

 一応安静にしろと言われていたが、そんなことで日々の鍛練を怠るようではあれほどまでに強くはなっていないだろう。

 今日戦闘で大怪我をしたことを感じさせないほど厳しいものだった。これを毎日やっているなんて沙喜にも勝てるのではないか? 不覚にも俺はそう思ってしまった。



 今は鍛練も終わり、入浴タイムである。沙喜達は念を押した後、先ほどの落ち込んだ雰囲気はどこにいったのかと思うほど意気揚々と風呂場へと向かっていった。雪の家は予想通り一般家庭に比べれば広い部類に入る広さの風呂だった。

 ということは今、俺はノアと二人の状況だ。色々話したいことはあるが、率直に言えば非常に気まずい。

 特に会話が無いまま三十分あまりが過ぎようとしていた。女子達は未だ出てくる様子はない。ついでに会話が始まる様子もない......というのは間違っていた。唐突にノアが口を開いた。

「今日の沙喜と雪の試合を覚えているか?」

「え? あぁ、覚えているが、それがどうかしたか?」

「あの試合、沙喜の実力が高いのは分かった。だが、あの試合の雪は何か変じゃなかったか?」

 いきなり確信を持って告げてくる。

「もしかして最後に雪が剣を落としたときのことか?」

 俺も気になっていたことを口にする。

「ああ、あの剣を落とすタイミング、明らかに不自然だった。あれほどの実力の持ち主が自分の得物をあんな風に手から放すはずがない」

 俺とほとんど同じ意見だ。だが、なぜかと問われると理由はわからない。

「それはそうなんだが理由が俺にもさっぱりでね」

 それきり会話は途絶えて再び沈黙がリビングを覆った。

 そうこうしてるうちに女子達がようやく入浴を終え、出てきた。となれば次は俺たち男子の番である。

 風呂場で話の続きが出来ればと思ったが今日の疲れからか風呂の気持ちよさにそんなことも頭から飛んでしまっていた。

 入浴後も雪の完璧なベッドメイクがなされたフカフカの布団でぐっすりだったので結局話の続きはできなかった。


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