開戦
リーベさんと少し話をした後、避難に人手が必要そうなら手伝おうかって聞いたんだけど、それをしてたら防衛戦に間に合わなくなる可能性があるってことで固辞された。
だからそこで別れて歩き出し、アタシ達は後少しでツヴァイトに戻れるってところまで歩いてきてる。
「ねえ、ルーちゃん」
「はい。何ですか、フィーさん?」
「このイベクエって間違いなくリアルの深夜だよね~? 生活リズムとかそういうのは良いの~?」
言われてみればそうだった。よくよく考えなくても朝の時間帯から三日後って思いっきり深夜じゃん。自分が原因でこうなったってところに自責の念を抱いて色々やってたのに肝心なことを失念していた。
「今回のは仕方ありません。私とお姉ちゃんが原因なので、さすがにこれを放置するっていうのは……」
「早めにログアウトして二時くらいに起きれば何とかならない?」
「そうだね。今日は仕方ないから徹夜覚悟で時間を区切って寝よっか」
「フィーとリリスはどうするの?」
「私もステラちゃん達と同じようにしようかな~」
「寝ずにゲームは辛いので私も少し寝てきます」
「それじゃあ、街に着いたら一旦解散しましょう。で、深夜の二時にログインして集合」
アタシの言葉に三人が頷く。その後、ツヴァイトに着くなり四人同時にログアウト。数時間だけ睡眠を取ってから予定通りに集まった。
ゲーム内時間的には午前七時ってところかな。
イベントクエストの内容には詳しい時間は書かれてなかった。記載してあったのは三日後という日数だけ、もういつ来てもおかしくはない。
早めに防衛の戦線へ加わった方が良いと思って亜人の森方面に走っていく。本来なら昨日からいた方が良かったんだろうけどね。
門を出たら既に鎧を装備した集団と思い思いの装備に身を包んだ冒険者っぽい人達が防衛陣地を作り切っていて、役割分担もほとんど終わっちゃってるらしい。
「あ、おーい! ステラちゃーん!」
そこに近付いていくと、誰かと話してたクラリスがアタシ達に気付いて大きく手を振って呼んでくれたから、そっちに走り寄る。
クラリスと一緒にいたのはクララとパシアンさん。それから、他の騎士よりも多少豪華な鎧を纏った二人の騎士と如何にも魔術師っぽい服装の女の子(でいいのかな?)がいた。
「調子とかは大丈夫? 無理そうなら後ろに回って魔法使ってくれてもいいよ?」
「大丈夫よ。充分戦えるから。ところで、そっちの三人はどちら様?」
「あ、紹介しとかないとだね」
最初に紹介してもらったのは、この中で最もがたいが良い騎士。領主軍総隊長のイーガーさん。領主軍側の指示は基本的にこの人がするらしい。
もう一人の騎士鎧の人はリスペットさん。凛とした雰囲気を持つかなりの美人なんだけど、この人がクララ親衛部隊隊長。あっさりとクラリスが紹介してたことに驚いてた。やっぱりというか、陰ながら護衛っていうのは半分失敗してるね。
最後の魔術師っぽい服装の女の子。領主軍魔法部隊隊長のプリエールさん。小柄で小動物チックな見た目だけど、魔術師としての実力は国内トップクラスだとか。クラリスより小さいけど、五つ年上なんだとか。
「心強い味方でしょ?」
「まあそっち側を気にする必要がないってだけで集中力は変わるわね」
ちょっと一人、肩書き的に首を傾げちゃいそうな人いるけど、部隊長に抜擢されてるってことは統率力はあるんだろう。仮にも護衛の隊長みたいだし。
「ところで、騎士の成り損ないはしっかりと防衛できるのか?」
「あ゛? 喧嘩売ってんのかお高く留まった宮廷騎士の成り損ないさんよぉ?」
アタシがパシアンさんをナイスミドルとして見ることはもうないんだろうなあ。口開いて五秒もしない内に口喧嘩になっちゃったよ。見なさい。アタシの後ろにいる三人まで苦笑いになっちゃってるじゃないの。
「クラリス……」
「あの二人は気にしなくていいよ。いつものことだから」
「それはそれで結構問題よね」
クラリスとそんなやり取りをしてる間に、一気に言い合いが激しくなったパシアンさんとイーガーさんをリスペットさんとプリエールさんが真ん中に入って必死に執り成していた。
これから防衛のために命かけるかもしれないって時に何やってんだか。
「冒険者は他人との連携なんてほとんどやったことないから遊撃ね。ステラちゃん達は私とクララちゃんと組んで」
「わかったわ。タイミングは誰が指示するの?」
「基本的にはパシアンさんが指示を飛ばしてくれるけど、いざという時は各自判断して動くことになるね。その時の指示はクララちゃんに任せようかなって」
「いけるの?」
「できる限り頑張ってみます。お姉様の期待を裏切らないように」
「よろしくね、クララちゃん」
「はい!」
目がキラッキラしてるよ。あんな輝いた目をしたクララは初めて見たなあ。
「ステラ殿」
「?」
いきなりイーガーさんに呼び止められ、イーガーさんの傍にはリスペットさんとプリエールさんもいた。
「何か?」
「ステラ殿がクラリス様を救ってくださったと聞いてな」
「ああ、そのこと」
「うむ。本当にありがとう」
「私達からもお礼申し上げます」
「ステラさん、ありがとうございました」
やめて、ちょっとむずがゆいから。
「おそらく、ご領主様からもお礼があることでしょう」
「…………え?」
「この防衛戦を無事に終えれば、もしかすると招待されるかもしれません」
ええっ!? ちょっと待って! その如何にも面倒そうなのは勘弁なんだけど!
「では、後ほど」
「ステラ様、失礼いたします」
「ステラさん。いずれまた会えるかもしれませんね。領主館で」
「………」
一礼して去っていく三人。避けては通れなさそうな感じだった。
「なるほど~。人脈チートってこういうところから始まるんだね~」
「ステラさんはたまにものすごい人脈を形成しますもんね」
「お姉ちゃんはそういうのに好かれやすい星の下に生まれてるのかもしれません」
そんな星の下には生まれたくなかった。ゲームの延長線上である作業感とかはそこそこ楽しいけど、それとほぼ無関係で面倒なのは好きじゃない。
「まあまあ、私と出会っちゃったことが運の尽きだと思ってよ」
「クラリス。それ自分で言うセリフじゃないからね」
「それよりも、定位置に移動しよう。今回は遊撃に割り当てられてるけど、側面からの攻撃もすることになってるから」
冒険者達、良いように使われてない?
「冒険者には規律行動なんてもの存在しないからね。好き勝手動く人が多い集団だから、騎士団とは連携しきれないんだよ」
なるほど。騎士団ってことは間違いなく日々訓練しているはず、そんな積み重ねが実戦で活かされるからこそ強い。
対して冒険者は、生き残ることを最優先に考えて力をつけていく。人それぞれにその方法は違って、だからこそ誰がどんな動きをするかがわからない。
うん。確かにそんな異物が足並みを揃えた集団に紛れ込んだら混乱するね。
「まあそうやって生きているからこそ、役目っていうのがそれぞれに与えられるのが冒険者」
「冒険者の強みは臨機応変さって感じね」
「そういうこと」
クラリスが言うには、今回の調査に行ってもらった斥候も冒険者しかいなかったってことだし、柔軟性では冒険者の方が上なのかなとも思う。
「今でも斥候が森の方に行ってるけどね。ゴブリン達が攻めてくるとしたら、どうくるかっていうのは先に把握しておく必要があるから」
「情報が大切なのはわかるけど。戦場が限定され過ぎじゃない?」
防衛線はツヴァイトの外壁から百メートル程度しか離れてない。防衛線をするにはあまりにも街が近過ぎる。
「まあ森の中で戦うよりはマシっていう騎士団の判断だからね」
「そういうフィールドで力を発揮するタイプもいるけどね」
「それは一芸に秀でた人が多い冒険者の十八番だから」
「どっちかっていうと、アタシも思うままに暴れる方が好きなんだけどね」
「ほとんどの冒険者はそうだね」
これから戦闘が起こるとは思えないような和気藹々とした空気が冒険者達の中に流れている。騎士は良い顔をしてないけど、わざわざ注意するほどでもないって感じで放置の構え。
けど、その空気は斥候が森から戻ってくることですぐに変わった。
「敵影! ゴブリン・キャバルリー三百! その後方にソーズマン二百五十! ソルジャー百五十!」
マジで軍隊レベルで攻めてきそうね。想定以上の大規模戦闘になりそう。




