表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/39

ルーチェ vs アマリリス

 アタシとフィーが戦ってたその場所では今、ルーチェとリリスがそれぞれの武器を構えてデュエルの開始を待っている。

 そして、アタシ達はさっきまでルーチェ達が立っていた場所で高みの見物と洒落込むことに。フィーがくれたポップコーンを食べながら。うん、塩加減が絶妙で口の中に香ばしい匂いが広がる。後で売ってるお店教えてもらおう。Lサイズを五つくらい買ってストックしときたい。


「ステラちゃん」

「うん?」

「どっちが勝つと思う~?」

「どっちだろうねえ」


 そもそもアタシは二人についてほとんど知らない。ルーチェの装備やエクイプメントスキルとか一部のスキルは予め聞いてたけど。他のスキルは全然だもん。

 それはリリスの方も同じで、こっちに関しては種族特有のエクストラスキルしか知らなかった。何せ、今日初めて盾と片手剣を使うって知ったくらいなんだから。まあ盾術と片手剣術は持ってるんじゃないかなぁ? って予想がつくくらいだね。


 件の二人は地面から数十センチ浮いて静かに決闘開始を待っている。空中戦する気満々だね。得物を構えてるのはリリスだけで、ルーチェは完全に魔法オンリーで行くのかな? どんな試合になることやら。


「おっ」

「始まった」


 カウントがゼロになり、デュエルがスタート。


「〈ファイアバレット〉」


 先手必勝。デュエル開始と同時に火弾を放つ。リリスはその攻撃を想定していたからか、盾を動かしてノーダメージで受け切った。そして、墨色の翼をはためかせてルーチェに肉薄する。ルーチェはその場から離脱して更に上空へと飛翔した。

 上昇中に一度だけ止まって火弾を撃ち、追おうとしていたリリスの動きを牽制して、更に上昇を続ける。


「ルーチェってもしかして〈詠唱短縮〉持ってる?」

「ルーちゃんに限らず、トップクラスのプレイヤーはすぐに取っちゃうよ~」

「面倒そうだから後回しにしようと思ってたんだけど、スキル取得の前提条件くらいは達成しといた方が良いかも」

「それが良いかもね~。ただでさえ、面倒な作業があるし~」


 詠唱短縮。パッシブスキルの一つで、マスタリーに応じて魔法のキャストタイムを縮めるスキル。βから今までで確認できた短縮時間は最大5秒。スキルマスタリーの百分の一が短縮時間じゃないかって予想がされてる。ちなみに、ルーチェやフィーが使ったバレット系の魔法は一秒で発動するらしい。

 取得条件として、知力値と精神値が共に70を超えている必要がある。アタシは知力を後10上げればこの条件は達成。問題は残り一つの条件。魔法スキルのどれか一つがマスタリー100以上であること。ぶっちゃけこれが一番の難題。


 SPの消費量が多過ぎるアタシは、魔法スキルなんて取る余裕がない。だから、条件クリアのためには星魔法を使うしかないんだけど。

 これまでのプレイを思い出しても白兎竜の時と、ルーチェとレベリングした時とを合わせて十回ちょっとしか使ってないんだよね。今のマスタリーは39。上昇値は多分一発3くらいだから、後二十一回使えば条件達成だ。


 普通の魔法スキルなら、MPの許す限り無駄打ちするだけでもマスタリーは上がっていく。実戦経験じゃないから上がり幅は減るみたいだけど。これがアタシの場合だと、できないんだよね。理由は行使できる魔法が単体攻撃限定のものだから。エイミングする対象がいなければ発動すらできないっていう。


 長い時間がかかりそうな状態に溜息を吐き、今は二人のデュエルをしっかりと見届けないと、と切り替えて上空に目を向ける。

 二人を見遣れば、ちょうど空高く舞い上がったルーチェの口から言葉が紡ぎ出されていくところだった。ってあれ? もう使っちゃうの?


「あれって炎天魔術の詠唱?」

「ええ。けど――」

「こんな序盤に使ったらすぐガス欠にならない?」


 そうなんだよね。いくらチョーカーの補正があるとはいえ、よっぽどMPが豊富じゃないと初っ端からそれを使うっていうのは躊躇うはずなんだけど……。


 それを阻止しようとリリスは翼を動かし、一息に詠唱を続けるルーチェに突進していく。そうさせないためなのか、水平飛行してルーチェは噴水広場の上をぐるっと旋回した。


「お~。ルーちゃん飛ぶの早いね~」

「あれ全力じゃないっぽいわよ」

「うへ~。戦う時大変そう……」


 そうして時間を稼いでいる内に詠唱を無事終わらせたようで、逃亡を止めた直後に炎の玉が二つ現れ、ルーチェの周囲を一定速度で回り始めた。さながら恒星の周りを公転する惑星のように。


「あんなこともできるんだね~」

「もうホントに自由自在ね」


 地面から火炎旋風出したり、炎輪を作り出したり、そこからレーザーを放ったりとやりたい放題である。

 けど、ああなったらリリスは迂闊に近付くことができない。懐に踏み込めば、間違いなく炎の玉に焼かれることになるだろうし。自在に動かせる以上、何が起こってもおかしくないもんね。


 というか、今思ったんだけど。ルーチェの炎天魔術って詠唱さえすれば良くて、その間は体も自由に動かせるんだよね? さっきも逃げながら詠唱続けてたし。

 これ、普通の魔法スキルより使い勝手良過ぎじゃない? しかも、自分の思う通りに操作することもできる。MP消費量がどれくらいかはわからないけど、かなりヤバいスキルだよね、あれ。


「〈フレンジーダンス〉」


 そんな言葉が聞こえてきたと思ったら、リリスの周りにふよふよと漂う黒球が現れた。炎玉には大きさこそ遥かに劣るものの、驚愕なのはその数の多さ。パッと見でも軽く三十は超える黒球群。

 突撃というように右手に持った剣の切っ先をルーチェに向ければ、全ての黒球が乱れ飛びながら襲いかかる。あれを使われたら、対処しきれずに何発も着弾するんだろうなあ。もしあれがアタシに向けて放たれた時、どう動けばいいのか。


 それを見ても空に浮かぶ熾天使は顔色一つ変えない。その代わりと言わんばかりに右手をタクトのように振るう。その指示に忠実に従った炎玉が公転を止め、多数のレーザーを照射し始めた。

 放たれた熱線は寸分違わず黒球群を迎撃し、たった数秒で全てを相殺する。なんて正確無比な狙撃だろうか。動作パターンが定まっていないような黒球を平然と撃ち抜くとは。


「ねえ、ステラちゃん。ルーちゃんってSTG得意だっけ?」

「そんな感じのゲームをしてたことはあったかな」


 まあシューティングゲームの経験は間違いなくある。ただ得意かどうかは知らなかった。あれだけの動体狙撃センスがあるなら、FPSとかでも活躍しそうだね。


 炎玉から放たれた一条の光がリリスに襲いかかる。さっき放った熱線よりもちょっと太くなったね。盾を構えて受け止めたけど、継続的に照射されているのか一瞬でガード成功とはならずに受け続けてる。

 そこを狙ってレーザーを放っていないもう一方の炎玉から、十二本の鞭のようなものが守り切れていない場所目掛けてカーブを描きつつ相手を焼き尽くさんと殺到する。


 リリスはレーザーを受け止め続けているせいでその場に縫いつけられてしまい、そこに更なる追い打ちがかかって余計に逃げられなくなった。絶体絶命と言えるような状況。あんな状態から抜け出すのは困難と言えるだろう。

 しかし、リリスは動くことはなかった。どう動くのかと興味津々で見ていたアタシは、一切抵抗することなく爆炎に包まれるリリスを目の当たりにして呆然としてしまう。


「まさか抵抗すらしないなんて」

「たまにやるよ~。どうしようもない時は全部受けて生き残ってやる! みたいな感じで~」

「それにしたってあっさりとし過ぎてるような気もするけど……」

「ここからだよ~」


 まあWINNER表示は出てないみたいだから、リリスのHPは残ってるんだろうけど。仮に良い装備で高防御を誇る防具だとしても、あれはただじゃ済まないと思うのはアタシだけかな?

 未だ空中に漂う黒煙が晴れず、まだ勝てていないことがわかってるルーチェは油断することなくリリスがいるであろう場所を静かに見据えている。


 しばらくして煙が霧散すると、そこにはまだ半分以上残ってるHPゲージと不敵な笑みを湛えている堕天使の姿があった。


「一筋縄ではいかないだろうなあとは思ってましたけど。さすがにダメージを受けてないどころかなぜかHPが増えるっていうのは予想してませんでしたよ」

「いえ、ダメージはかなり受けてましたよ」

「冗談はよし子さんですよ。そういうのは、自分のHP残量を見てから言ってください」

「冗談ではありませんよ。これに関しては、ちょっとしたズルというか」


 二人のそんな会話が聞こえてきた。余程動転してるのか、ルーチェが古寒いギャグを口から溢す。ビックリするくらい笑えない死語よ、それ。

 にしても、ちょっとしたズルか。βから今まで秘匿したか、もしくは新しく取得したスキルの効果かな。掲示板で見た限りでは、今の状況から条件の合致するスキルは載ってなかったし。


「フィーは知ってたの?」

「うん。一応ね~」

「教えてもらえたりは?」

「デュエルが終わってからリリスちゃんに聞けばいいと思うよ~」


 教えてはくれないらしい。いいけどね。後で聞くし。

 って言ってもある程度の予想はつく。リリスのHPを見れば、ルーチェの言う通り爆炎を受ける前より少し増えてるのがわかる。

 一応、このGOにも自動回復系のスキルはあるけど、HPが回復していく様子を見せない辺り、リリスはまだ持ってないみたい。あるいは持つ必要がないのか。

 いずれにせよ。からくりとしては、何らかの条件を揃えることによって発動する自己回復スキルの類だと思う。


「〈マッドネスシャウト〉!」


 リリスが魔法名を唱えると共に耳をつんざくような女性の悲鳴にも聞こえる噪音が辺りに響き渡る。アタシは聴覚保護の特殊効果があるイヤーマフラーをしてるから平気だったけど。周りの人達はそうじゃない。

 現にフィーなんかは可愛らしい三角耳を畳んだ上から手で押さえてるし。それ以外の人達も程度の違いはあれ、耳を塞いでその場から動けなくなってる。

 広範囲に影響する行動阻害系の魔法かな? しかもバッドステータスとかじゃなくて、間接的に影響する質の悪い奴。


 そして、それはルーチェにもしっかり効いていて。耳を押さえた状態でその場に縫いつけられている。集中が途切れたからか、炎玉も消え去っちゃってるね。これは逆転かな?

 動けないルーチェにリリスは肉薄し、青い閃光を放つ片手剣を振り下ろそうとしていた。あれがまともに入れば間違いなく負ける。そう確信できるくらいには綺麗な剣捌き。

 けど、決着の瞬間は訪れなかった。止めのつもりで全力を出したその斬撃がルーチェの眼前で黄金色の障壁に弾かれたからだ。いつからかはわからないけど、保険で使った絶対障壁の効果が発動したんだと思う。


 絶対障壁は一度発動すればいつまでも持続する。一度の障壁展開に消費するMPは300。重ねがけもできるけど、注意点として障壁展開数に応じてMPの上限が強制的に引き下げられる。

 例えば、総MP900の人が絶対障壁を二つ発動したら使える上限は300になり、MP回復のアイテムを使ってもそれ以上は使えない。もちろん、障壁が効果を失くせばその分が使えるようになるけど。

 そして、これは一度発動すると自分の意思で障壁を消すことはできない。使いどころを間違えれば自分の首を絞めることになる。一番確実なのはMPを充分に保った上で、相手の攻撃に合わせて都度発動すること。MP管理が大変になるけど、その分の見返りはしっかりとあるピーキーなスキルって言えるね。


「なっ!?」

「っ……〈ファイアバレット〉!」


 攻撃が跳ね返されて相手が戸惑っている内に行動阻害が解けたのか、立ち直ったルーチェがゼロ距離で現状最速の魔法を放った。至近距離で行使された火弾を避けることはできず、リリスのHPが半分以下まで減少する。焦ったからか、その場を離脱して距離を取った。


「“騎士の誇りを持って私は武勇を示そう”!」


 その隙にメイン武器であるスターティアを装備してそう唱えた。発動者の闘志を表すかのような真紅色のオーラがルーチェから放たれる。

 あれは宣言スキルの一つ。三十秒間STRとAGIを上昇させ、与ダメージ値にもプラス補正をかける“武勇”の宣言。


 現状ルーチェのパラメータではスターティアの装備条件をギリギリ満たしてるだけで、それを満足に振るえるほどじゃない。スターティアってかなり重いんだよ。下手すればそこらの槌よりも打撃力が高いまである。

 そのせいか、前使ってた両手大剣よりも剣の速度は落ちていて、一撃の威力も低くなってたように思う。それでも武器そのもののATK値が高かったおかげで、倒すのは問題なかったけど。


 対人戦闘(P v P)は攻撃力だけで勝てるほど甘いものじゃない。むしろ、そんな数字よりも本人のPSで優劣がつくと言っていい。いくら火力のある魔法や威力が高い斬撃であっても、当たらなければダメージにはならない。だからこそ、求められるのは純粋なPSなんだよね。

 それがわかってたからルーチェは魔法だけでいこうとしたんだと思うけど、想定外のやり方で障壁を一つ破壊された。だから、不測の事態に対処するためにもう一度張り直した結果、MPが足りなくなって近接戦闘での短期決戦に持ち込もうとしてる。


 “武勇”の宣言を使えば、スターティアのスペックを最大限引き出せるくらいのパラメータになるから、その効果が切れる前に決着をつけないといけない。ここからはルーチェのPSが試されるところ。


 時間が惜しいからかルーチェはすぐに動いた。武勇の効果で向上した敏捷力を存分に活かして素早く接近し、重大剣を大上段から一気に振り下ろす。それを受け止めるために盾を構えるリリスだけど。


「その対応はマズいわよ。リリス」


 筋力が上がったルーチェ。その手に持つスターティアも重量級武器であり、戦っているのは上空。当然ながら重力もあるこの世界で、上からの全体重を乗せた攻撃を真正面から受け止める。その時力が足りなければどうなるか。


「はぁああああああああっ!!」

「きゃあぁああああああっ!?」


 金属同士がぶつかり合う甲高い音が響き、振り下ろされた大剣を押さえ切れず、強制的に墜落させられるリリス。落下距離もそこまでないせいか、スピードダウンできるわけもなく、そのまま地面に叩きつけられた。

 追撃のためにルーチェも降下し、落下ダメージで動けなくなっているリリスに狙いを定める。というかあれ、もう敗北を受け入れてない? その場から逃げようともしないし。


 だけど、急降下してるルーチェは止まらず、轟音と共に巻き上げた砂煙で姿が見えなくなる。しばらくして砂塵が晴れると、満足げな表情をして仰向けで空を見上げる二人がいた。

 ルーチェが勝ってリリスが負けってことで勝敗は決してるみたいだから、アタシとフィーは二人に駆け寄る。


「おーい、二人共大丈夫~?」

「ポーションいる?」

「「大丈夫です。いただきます」」


 二人がポーションを飲んでから話を聞いたら、ルーチェは無理矢理着地して攻撃を寸止めして降参を求めたらしい。それをリリスが受け入れて降参することで、決着がついたと。


 大満足した二人は、また日を改めて戦ってない者同士でデュエルしようと告げてきて、そのまま街の外へ向けて歩き出した。


「前から思ってたけど、あの二人って案外良いコンビよね」

「息が合ってるよね~」

「妹好きな姉としては、悔しがればいいのか、喜べばいいのかわかんない」

「どうなんだろうね~」


 二人の後をアタシ達も追うように歩く。とりあえず、フィーとリリスにパーティ申請しとこ。

 こうしてアタシ達は四人でしばらく楽しむことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ