ルーチェの新装備
「ルーちゃん! 装備できたよ!」
ベルが姿をくらませたGO内での翌日。
夕食を取ってからログインし、鍛冶屋で少しボーッとしていた時にクラリスがアタシ達のいる部屋に現れ、開口一番そう告げてきた。
どうやってアタシ達がいることを確認したんだろう。ほとんど物音立てなかったはずだけど。
鼻息荒くアタシとルーチェの手を取るクラリス。この後、めちゃくちゃ引っ張られた。
「二人にお披露目だよ!」
作業場まで連れて来られたアタシ達は、得意満面に布がかかってるものを示すクラリスと机に突っ伏してピクリとも動かないクララを見て、喜べばいいのか心配すればいいのかわからなくなった。
「クララ。大丈夫?」
「はい……。全く問題ありません……」
「声に全く力が入ってないんだけど……」
ホントに大丈夫なの? あ、起きた。
「お姉様と色々と試行錯誤しながら作っていたんです」
「つまり、私とクララちゃんの合作だよ~!」
「今回の装備作製でシリーズ防具にするための方法に目途が立ちました」
「作製のコツとかも結構見つけられたんだ~」
「それってもしかして……」
「はい。ルーチェの装備もシリーズ防具化しました」
おー。それは素直にすごい。つまり、これからは安定的にシリーズ防具を作れるようになったってことかな。
「ステラちゃんのよりも遥かに高性能なのが作れたんだ。防具に使った素材の質がかなり高くてさ。ちょっとステラちゃんの装備が練習台みたいな感じになっちゃってるのは申し訳ないんだけど」
「今の装備で充分過ぎるくらいの性能よ」
それに、アタシはタダで作ってもらってるようなものだからね。文句なんて言えるわけないし、言うつもりは一切ない。
後、多分ルーチェはβの時に集めた素材も一緒に渡してると思うんだよね。その素材分の性能差がついたんじゃないかな。
「純粋に戦力が上がったって思えば、普通にありがたいし」
「なら良かった。それじゃあルーちゃん、装備確認してみて」
「アタシも見たいな」
「どうぞどうぞ」
そう言ってクラリスは布を取り去って中をアタシ達に見せてきた。
「「おお」」
そこにあったのは天使の清純さを象徴するかのような雪白色の鎧。この装備は、まさしく天使なルーチェが着るために生まれてきた装備だね。
腕は肘から下をガントレットが覆い、腰鎧は翼をイメージしたかのようなデザインになってる。脚装備は膝から下の全てを防護できるように作られていた。
頭装備は、菱形に加工された宝石を一対の翼を模った金属細工の中心に嵌め込んだ掌サイズの髪飾りになってる。
パッと見ただけでも防御力の高そうな重厚な鎧装備だった。高そうじゃなくて実際高いと思うけど。
「聖騎士シリーズ。ルーちゃんから提供してもらった鉱石素材をふんだんに使わせてもらったよ~」
「加工には手間取りましたが、その分良い装備になっていると思います」
「二人共、ありがとうございます!」
「こっちこそ、この辺では滅多に見ない素材の加工をさせてくれてありがとね」
アタシの時と同じように、一度クラリスがストレージに仕舞ってからルーチェにトレード申請をする。
「あ、そうだ。ルーちゃんは余った素材いる?」
「特に考えてませんでした……」
「もし良かったら買い取らせてもらえないかな? さっきも言った通り、この辺じゃ見ないような素材が多くてね。これからの装備作りに絶対使えると思うんだ」
「それなら、是非買い取りをお願いします。これからも装備作製お願いすることがあるかもしれませんし」
「オッケー。じゃあ装備の前にまず、買い取りの代金だけ送るね」
二人の間でいくつかのやり取りをした後、ルーチェがすぐに防具を変更した。
うん。良く似合ってるね。ルーチェちゃんマジ天使。
「すごい。全く動きの阻害にならない」
そっか。鎧装備ってそういうことが起こりかねないんだね。フルプレートの人とか大変そうだなあ。
「シリーズ防具ってことは、エクイプメントスキルがあるでしょ?」
「ちょっと待ってね」
聖騎士シリーズっていうくらいだし、それに関連するスキルとかあるのかね。
「えっと。〈宣言〉〈絶対障壁〉〈淑女崇拝〉の三つだね」
「全く聞いたことないスキルね」
「うん。私も初めて見た」
ということは、少なくともβではアタシの瞬歩と同様見つかってないスキルみたいだね。しかも名前からしてヤバそうなスキルもあるし。一つおかしいのあるし。
「うわっ。これ効果がすごい!」
「どんなスキル?」
〈宣言〉マスタリー0
指定されてる言葉を唱えると、一定時間パラメータを上昇したり、特別な効果を付加できたりするようになる。アクティブスキル。
〈絶対障壁〉ノンマスタリー
使用するとMPを一定量消費して攻撃を一度だけ無効化するスキル。アクティブスキル。
〈淑女崇拝〉ノンマスタリー
女性を一人崇拝対象にすることができる。対象にした相手とパーティを組むと、常時パラメータが上昇する。一度対象を設定したら変更することはできない。パッシブスキル。
どれもかなり強いスキルだった。習得方法が一切わからないものばかりだけど。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なに?」
「崇拝対象、お姉ちゃんにして良いかな?」
「別に構わないけど、アタシとずっと一緒にいるの?」
「だってお姉ちゃん。一緒に遊びたかったって言ってたし」
「まあね」
言ったよ、言ったけどさ。もうちょっと考えるのもありだと思うんだ。設定するのに時間制限があるわけじゃないし、そう急がなくても全く問題は――
「よし、設定完了っと」
止めようと思ったけど手遅れだった模様。この子ってばホント、アタシに関する物事の即断力がすごいんだから。嬉しくて口許弛んじゃうじゃん。
「これでお姉ちゃんとパーティ組んでれば、ずっと強いままだね」
「そうね。アタシより強いままじゃない」
「それはないかな」
レベル的にもステータス的にも普通にルーチェの方が勝ってると思うんだけど。
「さて、防具の確認はもう大丈夫かな?」
「あ、はい。素敵な防具をありがとうございます、クラリスさん」
「お礼は武器の方を確認してからでいいよ。こっちも自信がある武器だから」
穢れることが許されないほど無垢に輝く白金色の大剣。精緻な意匠を施された鍔と柄はプラチナ色の刀身を引き立たせるアクセントになってる。
名称:スターティア
レア度:★★★★★
品質:極上
ATK:810
耐久:1130
特殊効果:光輝刃,筋力値UP【特大】,知力値UP【特大】,装備者固定
条件:LV30以上,STR150以上,INT50以上,MND100以上
まさかの星5。攻撃力なんてライトセイヴィヤの三倍以上あるし、特殊効果が四つもある。その代わり条件がかなりキツイけど、それを補って余りある性能だね。
「すっごいです……」
「私が打った大剣の中では最高傑作と言えるくらいの出来栄えだよ」
「私もここまで高性能な武器は初めて持ちました」
驚きながらも早速装備するルーチェ。ギリギリ装備できるだけのパラメータはあったらしい。ただ、これまで使ってたものよりも重いから、慣れるのに苦労しそうって言ってる。
「今度は私ですね。ルーチェ、これをどうぞ」
「これ、アクセサリー?」
「はい。これからの冒険に役立ててください」
そう言って二つのアクセサリーがルーチェに送られた。
「お金は?」
「もう受け取りましたよ。ステラさんから」
「お姉ちゃんが?」
まだルーチェの方が金銭的にも素材的にも余裕があるとは思うけど、ささやかながら姉からのプレゼント。これで自分で作ったとかならもっと格好つけれたんだけどね。
「まあ、これからもお世話になるだろうし。先払いって感じで」
「最後の言葉で台無しだよ。でも、ありがとう」
「わっ」
お礼の言葉と共にルーチェが抱きついてきた。姉としてものすごく嬉しいんだけど、鎧が硬いのはいただけない。今度はそれを外してお願いね。
アタシから離れたルーチェは、メニューを操作してアクセサリーを装備する。
一つはチョーカー。防具に合わせて白い帯が使われ、中央に十字架とその両側に翼があしらわれている。効果はアタシのラビットアンバーと全く同じ。
もう一つはポーチ。これもアタシが持ってるポーチと色は同じで、金具の部分がチョーカーとお揃いで十字架と一対の翼になってる。これも効果は同じ。
「ありがとね。お姉ちゃん、クララ」
「どういたしまして」
「大事に使ってくださいね」
ひとしきりルーチェの新装備姿を眺め、性能確認と狩り目的でフィールドに出ることになった。狩場はもちろん、亜人の森。
「でぇいっ!」
ルーチェの咆哮。裂帛の気合と共にゴブリン・ソーズマンへ向けて振り下ろされた大剣は、重低音を森に響かせながら目標を殲滅した。
HPが六割以上残ってて全部削り切るんだから、与えてるダメージは相当なものだと思う。これはちょっと想像以上の威力だった。
「どう、ルーチェ。使い心地のほどは」
「まだ少し重くて違和感を感じるけど、筋力パラメータを上げていけばすぐになくなると思う」
「それなら良かった」
「色々とやってみたいし、もうちょっと狩り続けてもいいかな?」
「ええ。とことん付き合ってあげる」
「ありがと!」
それからはスキルを使ってみたり、特殊効果の威力を確かめたりしながら、見つけたゴブリンを片っ端から倒しまくった。
お金も貯まるし、経験値も稼げるしで一石二鳥とばかりにゴブリン狩りを続けてたんだけど。
もし、アタシ達に未来を知る力があったら、こんなことはしなかった。この時のアタシとルーチェは新装備を手に入れた高揚で、ちょっとばかし調子に乗ってしまったらしい。
その時が来てから、二人揃って後悔しちゃったんだ。




