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ベルナデッタの悩み

 アタシ、ルーチェ、ベルの三人は今、冒険者組合の訓練所で特訓をしていた。


「……ま…まだ…まだ…いけ…ます」

「いや、全力疾走したランナーみたいな息切れを起こしながらそんなこと言われてもね……」

「……まだ…やれ…ます」

「というか、まず立ち上がれてないし……」

「あはは……」


 特訓って言うより、一方的な扱きになっちゃってるけど。


 えーっと、何でこうなったんだっけ?


 床に倒れ伏しているベル、そしてその惨状を目の当たりにして思わず苦笑いしてしまってるルーチェ。そんな二人を見ながらどうして特訓をすることになったのかを思い出す。




 お昼過ぎ、ルーチェとアタシは色々とβの時の話をした後まったりしている。

 ちょっと嫌な話も聞いちゃったから、気分を切り替えるためにルーチェの羽を触ったり、柔らかい肌をぷにぷにしてくつろいでたんだけど。

 その最中でベルが部屋を訪ねてきてアタシ達に相談を持ち掛けてきた。

 で、その内容は。


「戦い方を身につけたい、か……」

「……はい。お二人もご存知の通り、私はセンスがなくて全て他の人に任せっきりになっていました」

「えっと、あれは仕方ないんじゃないかと思いますよ?」


 ベルは自分で言ってる通り、バトルセンスが壊滅的だった。いや、あれはもうセンスとかそんな次元の話じゃなかったと思うけど。


 擁護しておくと決して身体能力が低いわけじゃないんだよ。むしろエスケープスタイルをソロで貫いてただけあって、身のこなしは目を瞠るほどすごかった。

 これまでMOBから逃げ続けてきた経験が活きたのか、それぞれの特徴を正確に把握した良い動きをしてたんだけどね。

 いざ攻撃ってなった時、なぜかしっかり剣を振ったにもかかわらず掠りもしないんだよ。傍から見た感じでも普通に当たってるかなって思ったのにHPは一ドットも減ってなかった。


 そんなことが一度ならず二度、三度と続いたから結局はポーション支援に徹してもらうことになったっていうのがイーストウッズ進行中の出来事。

 そして、ベルはそれを気に病んでたっぽい。


「気にしなくていいと思うけど。生産系の戦闘力が低いのなんて今に始まったことじゃないし」

「……ですが、クラリスさんもクララさんも強いですし」

「あれはあの二人が特殊なだけだから気にするだけ無駄よ」


 そもそも比較対象にしていいタイプじゃない。あれと比べちゃったらほとんどの人は劣等感に苛まれちゃうだろうし。

 大体生産職で類稀な才能を持ってるっていうのに、壁役としても魔法士としても優秀って明らかにおかしい。


 まあ錬金術にはMP使うみたいだからクララの方は辛うじてわからなくもない。多才で生産チートなところに目を瞑れば、探せばいるタイプではあると思う。

 けどクラリス。アンタはダメよ。

 自ら素材を手に入れるために色々と無茶した経験があるから、それが今活きてるんだっていうのはそうなんだと思う。でもね、普通の生産者は自分で高難易度ダンジョンに潜るとかしないから。


 と、そんな感じで説明してみたんだけど、ベルの心には響かなかったみたいで、ますます落ち込んでしまった。

 聞けば、ベルは元々素材収集とかも含めて自分でどうにかした上で生産者としてやっていきたかったようで、クララやクラリスは自分の求めるスタイルを確立している憧憬の存在なんだとか。


「……だからお願いします。私を鍛えてもらえませんか?」

「鍛えるって……」

「……お二人は戦闘能力が高いです。それをほんの少しだけでいいので、教えてもらいたいんです」

「でも、ベルってそもそも相手が動いてなくても攻撃が当たらないっていうのが致命的なわけで……」

「…………」

「待ちなさいベル! どストレートに言っちゃったのは謝るから、その見るからにバッドステータスを与えそうな毒々しい薬品を仕舞って!」


 冷静に考えれば、安全圏である街中ではバッドステータスなんて発生しないんだけど。今のベルはそのシステム的制限すらも平然と凌駕してしまいかねない様相だった。


 その後、何とか自殺しようとするベルの正気を取り戻させて、ベルの戦闘技術の向上を手伝うことを了承して鍛冶屋を出る。

 ルーチェが言うには、組合に登録してれば自由に使える訓練場があるから、そこを使ってベルを鍛えようってことになったんだ。


 この訓練場。中々便利な場所のようで、街中で発生する攻撃を無効化する障壁は作動しなくなっている。しかもHPの減少はなし。

 ご都合主義が過ぎる設定だけど、プレイヤー視点から言わせてもらえばすごく助かる機能だよ。あ、でもMPは普通に減る。魔法撃ち放題になったらマスタリー上げ放題になっちゃうもんね。


 そして今は、何度かの打ち合いをしてから休憩している。


「……どうでしたか?」

「高い敏捷値アジリティと機動力の高さを使って攻撃を躱せるっていうのは強いと思う」


 実際この子、アタシが瞬歩使っても直感と体操選手ばりの身ごなしでしれっと避けるようになったんだよね。

 このスキルを自在に操れるって胸を張って言えるほどじゃないけど、そこそこ使えてる自信があったから何気にショックだった。


 ルーチェに聞いてみても、やっぱり攻撃をほぼ全部躱せててすごいって感想が出てきたし。攻撃が当たらないのを除けばPSはかなり高いのかもしれない。


「……避けられはしても、攻撃手段がないのであれば今までと何も変わりません」


 まあそれが一番の難点よね。エスケープスタイルでやり続けるっていうならそれで良いんだろうけど。戦いたいって希望まで叶えるつもりなら、どこかでテコ入れが必要になってくる。


「武器を変えてみたら? 弓とかに」

「……できるでしょうか?」

「やってみないとわからないと思う」


 しばらく悩んだ後に首肯し、ベルは武器の転向をすることになった。


 一応ポーション売買をしていたおかげか、弓と矢を買えるくらいには資金が貯まってたみたいで、少し躊躇しつつも背に腹は代えられないと思い切って弓矢をクララから購入。

 とりあえず、実戦で試射をしたいとベルに言われてイーストウッズの方でちょっと狩りをすることになった。


 どうでもいいけど、なんでクララは弓矢まで作れるんだろうか。なんかあの子が何をどれだけ作れるのかっていう限界を試してみたくなっちゃう今日この頃。


 森に入って少しのところで早速見つけたアースウルフへ向けてベルは矢を放つ。綺麗な放物線を描きながら飛んで行った矢は、白狼の頭上を大きく超えて向こう側の木に刺さる。


「「「…………」」」


 まあ初めてだしこんなものだと思う。最初から上手く当てられるようなら、練習なんてものは要らなくなっちゃうからね。一部の天才ならサラッとやっちゃうんだろうけど。


「とりあえずタゲられたし、ちょっと行ってくるわ」




 しばらくイーストウッズで狩りを続けた結果。


「……いいんです。どうせ私なんて碌に攻撃できないちんちくりんなんです」

「弓持ったのは今日初めてなわけだし、仕方ないって」

「そうですよ。私の友達にも弓使いのプレイヤーがいますけど、安定して命中させられるまでしばらくかかったって言ってましたし」

「……でも、偶然の一発か近距離射撃くらいは当たったんですよね?」

「それは……」

「……いいんですよ。無理に慰めてくれなくても構いません」

「あぅ……」


 ホントこれどうしようか。目の前で四つん這いでorz状態になってるベル。

 大抵の人は予想がつくと思うけど、今回の狩りにおいてベルの戦果はゼロ。むしろ矢がどっか飛んでった分、マイナスまである。

 限界ギリギリである十メートル地点まで接近したにもかかわらず、この子が放った矢は悉く当たらなかった。冗談抜きに偶然の一発すら当てることができず、ネガティヴになっちゃってる。


 武器に対する適性が全くないと言っても過言じゃないよ。どの武器を使っても、ここまで攻撃が掠りすらしない人は初めて見た。


「……本当にどうすればいいんでしょう」

「魔法スキル取るとか?」

「……それで魔法すらまともに使えなかったらSPが無駄になってしまいます」

「やってみるのもありだと思うけど……」

「……お試しでやって、既に弓矢代が儚く飛んで行きましたね」


 いけない。ベルってばものすごくナイーブになっちゃってる。まあこれだけ失敗が続いちゃえば、わからなくもないんだけど。


 そろそろ日も沈んでしまうってことで、アタシ達はこれ以上の狩りを中断して街へと戻ることに。〈暗視〉ってスキルを持っていれば夜の森でも狩りできるんだけどね。スキルなしの素の状態だとかなり暗くて厳しい。

 なんか、色んな状況を想定するとポンポン欲しいスキルが出てくるなあ。ただでさえSPかつかつなのに。


「何か他に攻撃手段ありますかね?」

「肉弾戦のヒットアンドアウェイでやるとか……」

「……何かしら変な補正で当たらない未来しか見えないです」

「素の筋力値分の小ダメージしかなさそうだから、やめた方が……」

「そうよね……」

「……むしろ空振りしてカウンターを受けてしまうと思います」


 うん。思考が完全にマイナス方向へ傾いちゃうから、あまり戦い方については話さない方が良いかもしれない。

 けど時間置いても話せるかわからないし、開き直って今色々考えるのもありなのかな?


「いっそ錬金術で戦えたら楽だと思うんだけど」

「βでもそれができてたっていう人は知らないなあ。基本的に錬金術は魔法スキルとセットで見られるし」

「クララみたいなスタイルってことね。良くあるゴーレム生成とかホムンクルス生成とかないの?」

「どうだろうね。錬金術のマスタリーをコンプしたって話は聞いたことないし、可能性がゼロとは言えないかな。でも……」

「ソロで戦えるようになるまで時間かかりそうね……」


 一番確実なのはやっぱり魔法スキルかな。単発魔法なら基本的にエイムしてから撃つし、立ち回り確立すれば問題なくやっていけると思うんだけど。


「……錬金術…アーツ…間接的に…」

「ベル?」

「ベルさん。どうかしたんですか?」

「……ううん。何でもない」


 いきなり考え込んでどうしたのかな? 何か思いついたとかならいいんだけど。


「……合成…もしかしたら……。ステラさん、ルーチェさん」

「「?」」

「……少し試してみたいことがあるので、しばらく一人でいさせてもらっていいですか?」

「それは構わないけど……」

「大丈夫ですか?」

「……はい。何かできそうな気がしてきました。では、ここで失礼します」


 あ、行っちゃった。っていうか速っ。アタシより敏捷値高いんじゃないのベル。


「ベルさん、大丈夫かな?」

「まあ何か思いついたみたいだし、色々とやりたいこともあると思うし、当分の間はそっとしておきましょうか」

「うん」


 その日からしばらく、ベルはアタシ達だけじゃなく、クララやクラリスの前にも姿を現さなくなった。

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