スキル取得とβの過去
白銀の剣閃が眼前の人型MOBの腹部を深く抉り、直後に光の粒子となる。
今戦っていたのはツヴァイトの先に広がる【亜人の森】で良くエンカウントする人型の魔物。ファンタジーものでもはやお馴染みとなったゴブリン。
基本的には醜悪な害獣みたいな扱いを受けるMOBだけど、このGOではそこまで醜い外見じゃない。むしろ若干可愛らしくデザインされてるんだよね。全体的に丸っこくて瞳もつぶらだし、倒しにくいったらありゃしない。
「どのくらい狩った?」
「五十八体。経験値もそこそこあるし、色々とアイテムもドロップしてるよ」
「他の場所と比べたら?」
「少なくとも二つ目のフィールドとしてはかなり多い方だね」
まあ何となく実感してるけどね。既にレベル30になってるもん。
「ルーチェってレベルいくつ?」
「私は37だよ」
「攻略組って皆そんな感じなの?」
「うーん。レベル30台は攻略ギルドでも一握りだと思うよ。私の場合はソロでちょこちょこ経験値稼ぎしてたから」
「ソロってやっぱり効率良いのね」
「その分、常に危険だけどね」
どんな戦い方にもメリットデメリットがある。ソロであれば経験値効率もアイテムドロップ確保も最大なのは良く考えなくてもわかる。ただし、安全性の確保には難がある。自分一人で何でもかんでもやらなくちゃいけないからね。
逆にパーティ単位でなら、安全をしっかり確保した上で安定した狩りができる。その代わりに経験値はパーティ全員に均等割りされるし、アイテムドロップもそれぞれに少量ずつ配られる。
どう立ち回るにしても相応に長所短所があり、どっちが自分に向いているかはプレイする上で見極めていくしかない。理想はどっちになっても対応できるようになることだけどね。
「それにしても、こっちのゴブリンは強いね」
「そう? 結構サクッと倒せてる気がするけど」
「それは武器の性能が高いからだよ」
むしろここまでの性能を持つ武器を使って、倒すのに数分かかりそうな強さを単体で持ってるのがおかしいって言うのがルーチェ談。
確かに、冷静になって考えればアタシが持ってた初期の武器だと、間違いなく十分近く倒すのにかかりそうだなって思った。今はルーチェとパーティを組んでるから一分とかからず倒せてるけど。
「これで、もし奥に行って複数で動いてるってなると相当厄介だと思うよ」
「ああ。確かに面倒なことになりそうね」
「下手したら魔法型のも出てきそうだし」
「あり得る……」
先に進むのがちょっと嫌になってきたなあ。まあ進まざるを得ないんだけど。
「そういえば、お姉ちゃん。ベルさんってどうしたの?」
「クララにポーション作りを師事するって言ってた」
「そうなんだ。クララって意外と多才みたいだし、色々と教えてもらいながらやってたら、すごい成長しそうだよね」
クラリスが器用富裕だなんて言いたくなるのもわかるくらいにクララの多才さは際立ってる。なんでポーション作ったら全部極上品質なわけ?
コツがあるっていうのは何となくわかるんだけど、だからと言って当たり前のような表情で最高品質のポーションを作り続けるって結構異常だと思うんだ。
「まだ時間はあるけど、どうするの?」
「後1レベル上げたい。それで欲しかったスキルが取れるから」
「りょーかい。お手伝いを続行するであります」
「妹よ。頼りにしておるぞ?」
「お任せください。陛下」
そんな適当な会話をした後、二人で森の中を探索してマッピングしながらゴブリンを狩り続ける。
亜人の森能力浅い場所には三種類のゴブリンがいる。
剣を片手に接近戦を仕掛けてくるゴブリン・ソーズマン。中遠距離や木の上から矢を射ってくるゴブリン・アーチャー。狼に騎乗し高い機動力を持って棍棒を振るうゴブリン・キャバルリー。
どれが一番厄介かと言われれば、一般的にはアーチャーだと思う。ゴブリンは基本的にアクティブモンスターであり、視界にプレイヤーを捉えれば問答無用で襲いかかってくる。
アーチャーはその中でも不意打ちを仕掛けてくるから面倒なことこの上ない。普通に歩いてたら後頭部に向けて矢を放ってきたりするんだからね。ゲーム次第では即死攻撃指定にされそうなことを平然としてくる。
聴覚強化と感覚能力上昇の効果がなかったら、不意打ちのファーストアタックで大ダメージを喰らうところ。
奥に行くとこれがリンクして来るのかなんて思ったら気が気じゃない。相当に対策を立てて挑まないと普通にキルされそう。これは骨が折れそうだよ。
「さて、レベルも31になったことだし。街に戻ってスキル取得しようか」
「うん」
何気にルーチェもしれっと38レベルになったらしい。
朝早くから狩りに出かけたおかげか、ツヴァイトの街に戻ってきたのはお昼をちょっと過ぎたくらいの時間だった。
今日は特に観光とかをするつもりもないから、寄り道せずにクラリスの店に戻ってステータス画面を開く。
「お姉ちゃん、どのスキルを取るの?」
「〈識別〉スキル。ないとこの先絶対困る」
「ああ。そうだね」
戦闘系のビルドにするなら初期スキルとして取ることを勧められるスキル。
〈識別〉ノンマスタリー
使用すると対象モンスターのスキルを見ることができるようになる。対象のレベルが自分よりも高い場合、レベル差が大きいほど情報が見えなくなる。アクティブスキル。
これに関しては検証班が色々と試した結果、レベル差10以上で何も見えなくなることがわかってる。まあ今のアタシ達ならこの辺のMOBは全部見れると思うけど。
ちなみに言うとこの識別スキル。本来の取得ポイントは3。アタシが消費させられたのは当たり前のように五倍の15である。ホントにやりづらいな星魔。
スキル枠が一つ増えて一つ埋まった。余りの三枠は常に空っぽなんだよね。しかもこのままいけば空きスキル枠はどんどん増えていく模様。どうしろと?
「これは早めにスキル取得手段を見つけないと、空きスキル枠増えていく一方ね」
「上位スキルなんてものがまだ見つかってない状態だもんね」
「派生とかそういうのは?」
「βでもさっぱり見つかってないんだよ。マスタリーコンプリートしたって人は何人もいたんだけどね」
ただマスタリーをコンプリートしただけで上位スキルに派生するってわけじゃないんだ。多分前提条件が必要で、それを満たしていなければ解放されないって感じかな。
元々上位スキルなんてものがない可能性の方が高いかもだけど。
「先は長そうね」
「うん。まあコツコツとやっていくしかないよね」
スキルの話をしつつStPをパラメータに振っていく。
振り分けられるのは20ポイント。今一番伸ばしたいのは敏捷だからそこに10振って、残りは精神力値に全部振り分ける。MPが多いに越したことはないからね。
特にアタシなんかはMPを消費するスキルが多過ぎる。やり繰りをちょっとでも楽にするためにも、魔力量は増やしておいて損はない。
「ルーチェはなんか取った?」
「スキル枠が足りないから当分は保留かな」
「その悩みをアタシも持ってみたいわ」
「さ、先に進めばそういうこともあると思うよ……きっと」
「今はその慰めを甘んじて受け入れようじゃないか……」
ベッドに腰掛けたルーチェの膝に頭を置き、そこを撫でてもらう。意外と気持ち良いなあ。
「ねえ。ルーチェ」
「ん?」
「β中に作られたギルドの中で有名だったのってどこ? 掲示板とかには載ってなかったでしょ?」
「ああ。そうだったね」
できれば有力なギルドにでも入って攻略を少しでも楽にしようかなって思ってたから、そういう情報が完全に消されてたのはガッカリした。
ホントGOの運営が何を基準に情報を制限してるのか全くわかんないんだよね。純粋に楽しんでもらうためってなると攻略情報とか消してるかもって思ったのに、フィールドの情報もエンカウントするMOBの情報も普通に残ってるし。
なのに、ギルドとか装備品の情報は一切残ってない。わけがわからないよ。
とまあそんなわけで、ルーチェにβでの出来事とかも含めて話してもらうことになった。
「とりあえず、ルーチェが入ってたギルドを知りたいな」
「私が所属してたのは〈地穿の槍〉っていうギルド。基本的には住人との交流を楽しむプレイヤーが集まるギルドだね」
「目的が交流なのにトップギルドだったの?」
「うん。お姉ちゃんはウチのギルドに向いてるかも」
「クララやクラリスと仲良くしてるから?」
その言葉にこくりと頷くルーチェ。アタシの場合はいつの間にか交流ができてたって感じだけどね。知らない内に深く関わるためのフラグが立ってただけだし。
そういう面も含めて地穿の槍向きってことかな。
「お姉ちゃんもクララ達と接してわかったと思うけど、住人が持ってる情報って時に予想外の利益を齎すものが多いんだよ」
「確かに、シリーズ防具とか魔法剣とか新ダンジョンとか。よくよく考えたらものすごい情報ね、これ」
「でしょ? そういうのを必然的に入手できるから住人との交流は楽しくて、そして大きなメリットになる」
「そうね」
たった二人の姉妹と仲良くなっただけで、今まで知られていなかったような情報があっという間に手に入ったんだ。他の住人達と交流を深めるだけでもメリットは計り知れない。
まあ、たまたまあの二人が天才姉妹だったからっていうのはあると思うけどね。
「そういう情報を収集しやすいプレイヤーが多く所属してたから、それを元に実力をつけていった。そしたらいつの間にか有名ギルドの仲間入り」
「人数はどのくらいだったの?」
「二十人ちょっとだったと思う。少数精鋭っていうのかな、こういうの」
βの時には同じ攻略ギルドに〈天翔の剣〉っていうのもあったみたいだけど、向こうは大規模ギルドでフィールド攻略が中心。フィーとリリスはここに所属してるらしい。
まああの二人なら、そんなギルドに入ってても不思議じゃない。下手したら幹部クラスにすらなってる可能性もある。
地穿の槍は基本的に自由行動が認められたギルドだったみたい。特にノルマなんてものはなくて、それこそ自由気ままにプレイしてた人が多く、一芸プレイヤーが何人も所属してたことで有名だったと。
限定フィールド内では無敵のプレイスタイルだったり、想像外の攻撃方法を持っていたりと。ルーチェもその内の一人だとか。
剣と魔法の両方を使う、所謂魔法剣士的なことをしてたプレイヤーは多いみたいだけど、そのスタイルを確立するには並みの努力じゃやりきれない。
徹底的なパラメータ管理と取得スキルの限定が必要になる。それがレア種族とかじゃなかった場合の苦労は一言では言い表せないほどだと思う。
でもルーチェはそれを実行した上で、熾天使という特殊な種族に与えられたスキルを使いこなして更なる高みに上ってる。まあ炎天魔術が恐ろしく強いっていうのもあるとは思うけどね。
ただ、それがあってもルーチェはかなり苦労してる。初期段階ではスキル枠が少ないせいで思った通りのプレイができなかっただろうし、剣技を高めつつ魔術の練習もするっていうのは結構大変なはず。
それを成し遂げたこの子はアタシの自慢の妹だ。
「まあ色々あったよ。パーティメンバーはどんどん先に行っちゃうし」
「それは焦燥感がすごかったでしょうね」
「そうだね。このまま置いてかれちゃうんじゃないかって思ったこともあるよ」
「でも、頑張ったんでしょ?」
「うん。あの時頑張って良かったって今でも思ってる」
膝枕されながら手を伸ばして、お疲れ様を伝えるためにルーチェの頭を撫でる。心地良さげに目を細めるのは姉としても嬉しく思うよ。
「けど、良いことばかりじゃなかったなあ」
「何かあったの?」
「ちょっとギルド間戦争があってね」
「大事じゃない……」
「あはは……」
戦争が起こった理由は、とあるギルドが無作為に殺戮を繰り返したから。プレイヤーだろうと住人だろうとお構いなしに。
「その殺人ギルドの名前は〈人壊の鎌〉。βの中で出来た最悪のギルド」
βテスト中盤に住人が殺害される事件が起こった。それは一度で止まることがなく何度も何度も続いたらしい。
そんなことが続いて一週間が経とうとした時、これ以上の殺戮を恐れた住人達がプレイヤーに対して事件の解決を依頼した。これがβテストで起こった最大規模の集団戦争。人壊の鎌殲滅戦。
テスト期間中盤で起こったそれは、当時攻略組としてトップに立ってた地穿の槍や天翔の剣までもを巻き込んだ大戦争。
ゲーム内時間で三日にわたって続いて、互いに消耗戦を強いられたとか。普通にルーチェも参加してたらしい。まあ地穿の槍が掲げてる目的を考えれば、参戦は当然と言えるかもしれないけど。
「結果は全員キルして牢獄送り。βテスト中にはゲームに復帰できなくなったの」
「βテスト中ってことは」
「うん。正式サービスになればそういうのが一旦リセットになるから、もしかしたら活動し始めるかもしれない」
できれば平和にいきたいところだなあ。プレイヤー間の争いとは無縁でありたいところなんだけど。
まあ大丈夫だよね。こっち側はアタシ達以外じゃ早々来れないだろうし。
ちょっとした心配事はできたけど、しばらくは気にしないことにしよう。あれこれ気にし過ぎても胃が痛くなるだけだし。
ステラ Lv31
種族:星魔
HP:1350
MP:2700(+300)
ATK:255(225)
DEF:625
STR:150
VIT:45
INT:60
MND:90(+10)
AGI:115(+10)
DEX:60
スキル
〈流星〉〈星空〉〈星魔法〉〈神聖〉〈福音〉〈片手剣術〉〈回避術〉〈識別〉〈 〉〈 〉〈 〉
エクイプメントスキル
〈聴覚強化〉〈瞬歩〉〈気配感知〉〈身体強化〉
StP0 SP0




