vs 闘争兎
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イーストウッズを進んでいるアタシ達は、一度ラウム迷宮のある開けた場所で休憩を取ってから再び進み始めた。
先に行くと敵が強くなるのはもはやお約束で、敵のレベルも種類も増えてきた。
まずはダッシュラビット。最初から出てきてたこのMOBは、奥へ進むにつれて複数でエンカウントするようになった。
数は大体三~五匹くらいだったけど、とにかく連携が上手い。モンスターハウスの時も思ったけど、そこそこ脅威な相手が連携して襲ってくるって結構面倒だよ。
後は白い狼。こっちは単体だったけど、白兎よりも遥かに厄介だった。機動力も高い上に魔法を使ってくるMOB。そんなのをこんな序盤に配置するとか頭おかしいんじゃないの?
使ってきたのは〈土魔法〉一位階の〈アースショット〉。それ以外はなかったから、多分使えないんだと思う。まあ結構な速度で飛んでくる魔法は結構な脅威だけどね。
結論、クラリスがいなかったら間違いなく誰か死に戻ってた。ダメージを一回も喰らうことなく全ての攻撃を受け止める。超有能タンクだ。
「そろそろ日が暮れそうね」
「野営準備する? テントも薪も着火剤もあるからすぐ終わるよ?」
「そうしましょうか」
ラウム迷宮からしばらく進んだ少し開けた場所で野営することになり、クラリスがストレージから出したテントの設営をする。割と簡単に立てられるものだったから助かった。
その後、クララが作ってくれた食事をしながら話し合う。
一応言うと、アタシ達プレイヤーは食事の必要は特にない。他のゲームにあるような満腹度みたいなシステムはまだ実装されてないから。追加される可能性はあるけどね。
この世界での食事は本気で趣味嗜好としての意味しかない。まあ美味しいものはすごく美味しいからそれを食べたいって欲求はアタシにもある。
「まず一つ、クララとクラリスにお願いがあるのよ」
「私達に?」
「何でしょうか?」
「これからアタシとルーチェは元の世界に一旦戻るわ」
ここではまだ夕方だけど、リアルタイムで言うなら後二時間前後で日付が変わるはず。だから、落ちてしっかりと寝る必要がある。
ゲーム内での睡眠もできなくはないけど、思考加速されてる状態での睡眠では疲れなんてそれほど取れないし、こっちで六時間寝ても実際には数時間程度しか経っていない。寝てるとは言えないんだよね。
何より、ただでさえアタシは完徹の前科持ち。これ以上の生活リズム崩壊は許してもらえない。するつもりなんてないけど。
とまあ、そんな感じのことを説明した。
「それでね。アタシ達は丸一日こっちに来れないのよ」
「その間の護衛をクララとクラリスさんにお願いしたいんです」
「私は全然構わないけど」
「私も大丈夫ですよ」
引き受けてもらえて良かった。微妙な時間帯に移動することになったからそこが心配だったんだよね。今日中に森を抜けられたらそれが一番だったけど。こればっかりは仕方ないかな。
「でも、護衛する必要ってあるの? 移動しないでほしいっていうのなら、まだわかるんだけど」
「えっとね……」
ログアウトってそこまで融通の利くものじゃないんだよね。セーフティエリアですればしっかりと消えられるんだけど、フィールドでログアウトした場合、意識は戻るけど体というかアバターは現地に残ったままになる。
で、そうなるとアバターは無防備になっちゃって下手したら通りがかりのプレイヤーにキルされる可能性があるんだよ。最もあり得るのはMOBの攻撃での死に戻りだけどね。
「だから、アタシ達が戻ってくるまで大変だと思うけど、守ってほしいの」
「任されたよ。私とクララちゃんでしっかりと守っておくね」
「ありがとう」
食べ終わった後にベルはどうするか聞いたら、ベルも生活リズムはしっかりしたいってことだから、一緒にログアウトすることになった。
クララ達の負担が増えちゃったのはホント申し訳ない。
「気にしなくていいよ」
「ゆっくり体を休めてきてくださいね」
「ありがと。おやすみ」
「おやすみなさい。クララ、クラリスさん」
「……おやすみなさい」
「うん。おやすみ~」
「おやすみなさいませ」
二人の笑顔に見送られながら三人揃ってログアウトして、二日目は終了した。
翌朝。六時半起床。
手早く身嗜みを整えて朝食を取る。姉妹揃って一言も喋らず高速でパクパク食べる姿は、傍から見たらかなりシュールだったと思う。
食べ終わった後はお茶なんてせずに食器洗いをさっさと終わらせて、二人で一緒にログインした。
「ん……」
「んぅ……」
ほぼ同時に目を覚ましてから状況を確認すると、昨日ログアウトしたテントの中だった。ベルがまだ寝ている状態で起きてるのはアタシとルーチェ。クララとクラリスは外かな。
そう思ってテントから出ると、すぐそこでクララが料理をしていてクラリスは装備のメンテナンスをしてる。
「あ。おはよう二人共。良く眠れた?」
「おはようございます。ルーチェ、ステラ様」
「おはよ」
「おはようございます」
作った料理を食べるか聞かれたから、一応食べることにした。さっき朝ご飯食べたばかりだけど、どうにもこの世界の食事は満腹感とか関係ないみたい。冗談抜きで味を楽しむだけのものなんだね。
その後しばらく四人で談笑してたら、ベルも起きてきてテントとかを片してからツヴァイトへ向けて再出発した。
昨日に引き続いて白兎の群れや白狼(アースウルフっていうらしい)を討伐しながらどんどん奥へと進んでいく。
「慣れれば結構楽に倒せるわね」
「でしょ? 私も慣れてから一人で倒せるようになったからね」
「多分、それ言えるのはお姉ちゃん達が異常だからだと思うの」
「ルーチェに同じくです」
「……以下同文」
人を怪物みたいに言うのはやめてもらいたいところだ。本当に解せない。
そうして雑談を交えつつ森の中を進めば、行く先に不自然に開けた場所が見えてきた。あれは間違いなくボス戦用のバトルフィールドかな。
「ルーチェ、どう?」
「多分そうだと思うよ。他のフィールドでも似たような場所あったから」
「じゃあ、戦闘準備しましょうか」
「うん」
全員が一旦止まって休憩がてらアイテムや装備の状態を確認していく。そしたらクララとクラリスが耐久値が減少している装備のメンテをするって言ってくれたから、ありがたくその好意を受け取ることにした。至れり尽くせりとはこのことだ。
ボス情報がないか住人である二人に聞いたら、そもそもそんな存在は知らないって言われた。不思議に思ったけど、クララが言うには加護者に対する試練としてそういう魔物が出現するらしい。
クララってホント物知りだよね。神託をもらった聖女か何かかな?
「一般常識です。ただお姉様が全く世の中に興味がないだけなので」
クラリスってアタシよりも姉としてどうかと思うんだ。さすがのアタシでも一般常識は身につけてるっていうのに。
「深夜外出する人が言うことじゃないから」
その節は誠に申し訳ございませんでした。
軽い感じで戦闘準備も整っていき、フォーメーションはそのままで戦う。もう慣れちゃったから、無理矢理変えちゃうのもね。
「よし、行こうか」
「準備オッケー」
「いつでも行けます」
「大丈夫」
「……ポーション支援は任せてください」
気合十分で五人同時にボスフィールドへと踏み込む。少しだけ歩を進めて中央付近に到着した途端、横合いから何かデカいのが飛んでくる。
そのデカいのはブレーキをかけてアタシ達の前で停止する。
見た目はダッシュラビットを大きくした感じ。ただ、二足歩行になってて前足が握り込まれている。大体の攻撃方法がわかってしまった気がする。
「KYUUUUUUUUU!!」
咆哮と共に二本のHPバーが現れ、頭上に《The Strugglerabit》と表示される。
「来るよ!」
クラリスの声が聞こえたのとほぼ同時に大白兎が突撃してきて、引いていた右脚を振り抜いてきた。それをタワーシールドが叩いて逸らし――
「ん?」
「どうかした?」
「いや、何でもないよ」
「そう?」
そんなやり取りをしてる間にルーチェが自己強化スキルでパラメータを増加させて、クラリスの陰から一気に飛び出す。その間にクララが詠唱を終えて、パーティ全体にバフをかける。
突撃中にそれを受けて予想外の加速をしたルーチェだけど、そこは持ち前のPSを活かして態勢を立て直し、オレンジ色の閃光を纏わせた両手大剣を叩きつけた。
あれは〈両手剣術〉スキルを持ったら最初に使える〈マッシヴ〉ってアーツだったかな。綺麗に入ったね。
見てる場合じゃないや。ダークネスヘレテックを抜いて瞬歩を発動し、相手の側面に回り込んで体を捻り切る。アーツが立ち上がるのを感じ取り、体ごと一回転させながら剣を振り抜く。
片手剣術アーツ基本範囲技〈ソニックリヴォルバー〉。一般的には敵に囲まれた時に使うものなんだけどね。
何度も使い続ければ慣れるもので、瞬歩も上手いこと発動できるようになってきた。発動条件もある程度は理解してきたしね。
瞬歩はAGIによって距離が変動する移動系スキル。当然敏捷値が高ければより遠くまで一瞬で移動できるんだけど、発動条件の一つに移動できる状態じゃないといけないっていうのがあるっぽい。
要は走り出しの蹴り上げが出来る状態でなければ発動しようとしてもできない。まあそのぐらいの制限かけとかないと空中から別の場所に移動するっていうチート臭いスキルになるからだと思う。
ただし、やり方はある。種族が限定されるチートギリギリな方法ではあるけど。とどのつまり、移動できる状態であればいいわけで。
アーツを発動して空中に固定されたアタシに向けて、大白兎が左足で回し蹴りを放ってきた。
「流星」
スキルを発動させ、瞬歩で攻撃範囲とは逆側に移動する。
まさかそんな移動の仕方をするなんて思ってなかった大白兎さんは、無理な体勢から蹴りを放った反動なのか、ほんの少し空中で止まった。
その隙を逃さずウィズで相手を薙ぎ払って即座にその場を離脱する。直後、クララが放った炎の矢が炸裂した。
これ避けタンクとしてやってけるんじゃないかな、アタシ。それも三次元機動で相手を攪乱する一番ウザいタイプ。
クララが作ってくれたラビットアンバーのおかげで、前流星を使った時よりも遥かにMPの減少速度が遅い。これなら当分は飛んだままでいける。
アーツを使わずに瞬歩を使っては何回も斬り付け、別の場所に移動してから再度斬り付ける。何度も同じことをして相手のヘイトをアタシに引きつける。
「ああ神よ 我が愛に応え給へ 我が情熱を受け止め給へ――」
いつの間にかルーチェが接近戦に参加しなくなり、詠唱を始めてた。ごめんね。アタシがあっちこっち動き回るせいでルーチェが合わせ難くなったみたい。
「これ、私壁役としていなくてもやっていけるんじゃないかな?」
「油断は禁物ですよ。お姉様」
「……ホントにすごい。ステラさん、何者?」
なんかアタシに聞こえるかどうかギリギリの声でやり取りしてる。向こうは平和だなぁ。混ぜてもらいたいんだけど。
そこでヘイトを稼いでたはずのアタシから目を離して四人の方を見る大白兎。
そして、縮地でも使ったんじゃないかってレベルのスピードで後方の四人に肉薄した。狙いは――ルーチェ?
「なんでぇ!?」
「何故こっちに来るんですか!?」
「……このモンスターおかしいです!」
大白兎のルーチェを狙った脚撃をクラリスが盾で受け止める。
「うん。やっぱり結構軽い!」
盾が琥珀色のオーラを纏い、脚撃を弾いてノックバックを発生させる。その衝撃で離れて動きが止まった大白兎にクララの炎の槍が直撃する。
「〈炎天魔術〉!」
ルーチェの詠唱終了と共に炎の輪が五つ現れ、相手を滅殺せんとばかりに同時に襲いかかる。
大打撃を受けた大白兎に瞬歩で接近し、疾風刃を発動したライトセイヴィヤと毒属性のダークネスヘレテックの両方を使って連続で刻む。
連撃を浴びせている内に炎輪がアタシと大白兎を囲み、エネルギーが収束するのを感じた。それが放出される瞬間に離脱し、炎輪から放たれたいくつもの熱線が相手を焼く。
いや、強ない? 想定以上の威力なんだけど……。
「炎天魔術こえぇ……」
膨大な魔力と引き換えに応用が利いて威力も高い。けど、それを喰らって生きてる大白兎も大概だと思うの。
あれ喰らって生きてるとか化け物か。あぁ一種の化け物ではあるか。
「うわぁ。まだ生きてるんだ」
「キッチンに出没するG並みにしぶといですね」
「クララってたまに口悪くなるよね」
「……あの。まったり話してていいんですか?」
良くないね。非常に良くない。終わった感醸し出すのはやめてもらいたい。
まあ虫の息同然で、もはや動くことすらできなさそうな魔物見たって危機感を抱けないのは何となくわかるけどさ。
窮鼠猫を噛むって諺を忘れないでもらいたいところだよ。今回は脳天に剣ぶっ刺して倒したけどさ。
何ていうかこう、流星からの瞬歩っていう楽しそうなコンボを編み出したのに、不完全燃焼感があるんだけど。
やっぱ序盤に強くなっちゃってる面子をパーティインさせるとこういうところでグダるからあかんな。
肩を竦めつつ四人が固まってる場所へと歩き出す。
中空に浮かび上がってるCongratulationsの文字が空しく光っていた。
戦闘シーンて難しいですね。最後の方が駆け足気味になってしまう。