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ツヴァイトへ向けてしゅっぱーつ

 光から聞いたイベントクエストとは質が違うっていうのはわかってた。だけど、さすがに章仕立てになってて続きがあるとは思ってなかったよ。


 まあ一度ストーリーをやり切るって決めたことだし、やらないってことはないんだけどね。予想外ではあった。とりあえず、イエスで。


『イベントストーリー【姉妹の絆】二章を始めます』


「そういえば、ステラちゃん。この後はどうするの?」


 この質問にどう答えればイベントが進行するんだろうか?

 一応、自分で決めてた予定を伝えてみようかな。それで違ったら、その時はその時かなって。


「この街を出て、次の街に移動しようと思っててね」

「じゃあ、ステラちゃんはプルミエ出ていっちゃうんだ?」

「ええ。ツヴァイトに行こうと思ってね。興味もあったし」

「ホント? じゃあ私もついていっていいかな?」


 プルミエを出て行くっていうので正解っぽいかな。後は流れに任せていこうか。


「できればクララちゃんも一緒に」

「わ、私もですか?」

「たまには帰って来てほしいってお母さんが言ってたから」

「お母様が……」


 ツヴァイトが鍛冶の拠点ってだけじゃなくて、そもそもそこが二人の生まれ育った街ってわけだね。

 ちょうどいいし、ルーチェ()も巻き込もう。


「それなら一緒に行く? ちょうどクララに会わせたい子と合流することになってるし」

「私と、ですか?」

「うん。一年くらい前にお世話になってるアタシの妹」

「え? ステラ様にも妹さんがいらっしゃったんですか?」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

「今初めて聞きました」

「じゃあ今聞いたね」


 知ってもらえれば問題なし。深く考えずに気楽に行こうよ。


「あれ? ねえ。クララちゃんって一年前にはステラちゃんの妹ちゃんと会ってるんだよね?」

「そうだけど?」

「でも、二人が初めて会ったのって四日前じゃなかったっけ? おかしくない?」

「言われてみればそうですね」


 当たり前じゃないか。だってアタシβテストの抽選外れちゃったんだもん。思い出したらちょっと泣きそうになってきた。


「一年前はちょっとした事情で妹と離れてたのよ」

「そっか。今はそれがないから妹ちゃんに会いに来たんだね」

「まあそんなところかな」


 できれば、これ以上は思い出させないでもらいたいところだ。早めに切り上げて店を出よう。時間も良い感じだし。


「それよりも、早く行きましょう。時間的にそろそろ来てるだろうから」

「そうだね。旅支度も終わってるし、旅装整えたら行こっか」

「ですね。あまり長く話し込んでステラ様の妹さんを待たせるのも悪いですし」


 そんな会話をしながら二人は防具を身に纏い、クララはクラリスが新しく作ったラウムの神枝を加工した魔法使いっぽいロッドを、クラリスは白兎竜戦で使っていたタワーシールドとメイスを装備し、三人揃ってクララ武器店を出る。

 クララが店先に“帰省のため臨時休業致します”という貼り紙をして、一緒に噴水広場へと向かう。


「楽しみだな~。ステラちゃんの妹ちゃんと会うの」

「クララにちょっと似てるわよ」


 特に怒り状態の時は完全に一致。


「なるほど、ステラ様はお姉様に似ていますからね。話すと通じるものがあるかもしれません」

「笑えない冗談はやめてくれる?」

「本人を目の前にして言うことじゃないよね?」


 こんな鉄砲玉と一緒にされるほど無計画に生きてるわけじゃないもん。そこは断じて否定させてもらう。


「そろそろ噴水広場ね」

「あれ? なんか聞こえない?」

「聞こえますね。金属同士がぶつかり合うような」

「変だね。神の加護で街中じゃ他者を害することができないはずなんだけど」


 住人達はそういう認識なんだ。まあ、ある意味で運営()が作り出した世界で与えた加護(ルール)ではあると思うけど。


「大方、誰かがデュエルでもしてるんでしょ」

「あ、そっか。加護者はそうやって力試しとかをするんだっけ?」

「こっちの人達はできないの?」

「基本的に禁止されていますね。例外は闘技場等での武闘会くらいでしょうか」

「そんなのもあるのね」


 これはイベントとして使われそうだなぁ。そうなったら、フィー達と全力で戦う楽しい大会になりそう。


「見えてきましたね」

「おお。ここからでも相当打ち合ってるのがわかるよ」


 広場に出ると、二人の剣士が斬り結んでいた。

 一人は太刀を持ち透明な黒い翅を風に靡かせる男性プレイヤー。もう一人はバカデカい大剣を振り回し、三対六枚の白い翼を羽ばたかせる美少女プレイヤー。まあルーチェなんだけど。


 ルーチェの高い筋力パラメータからくる大剣の横薙ぎを男性プレイヤーは刃で撫で付けながら剣閃を逸らし、静かな川の流れのように肉薄して反撃する。

 それを読んでたのか剣は振り抜いても右手は柄から離れていて、残ったその手で太刀をぶっ叩くことで強引に斬撃の方向を変え、左腕だけで大剣をぶん回す。

 男性剣士はそれを見て一足飛びにその場を離脱し、距離を作って正眼の構えを取る。ルーチェも無理に追撃はかけずに様子を見ている。


「すごいね。結構スピーディな戦いだね」

「あれ? ルーチェですか?」

「やっぱり覚えてたのね」

「もちろんです。一年前は彼女ととても親しくしていましたから」


 かなり親しかったんだなっていうのは呼び方でわかるよ。基本的に様付けのクララが呼び捨てで呼ぶくらいだもんね。


「あの、まさかと思いますが」

「うん。あの子がアタシの可愛い妹。ルーチェだよ」


 その言葉に目を見開くクララ。めっちゃ驚いてるね。


「でも、あの子は天使だよね? 種族が全然違うみたいだけど……」

「お姉様。加護者は血縁関係があっても種族が違う者がいるそうですよ」

「へぇ~。初めて知ったよ」


 アタシも初めて知った。なんというか、都合良く解釈させるために色々と吹き込んでる辺り、運営の適当さが見えるよね。もう大抵の不思議は「加護者だから」で済ませられそう。


 そんなことを思っていたら、状況が動いた。

 縮地でも使えるのか、男性剣士が一瞬で懐まで踏み込んで最小限の動きでの刺突攻撃。頸部を狙って放たれたそれを軽く首を動かしただけで躱すルーチェ。


「ああ神よ 我が愛に応え給へ 我が情熱を受け止め給へ この身を焦がす炎と共に 我は御身に無限の愛を誓わんとす」


 何それカッコいいんですけど! これだよ! これが詠唱だよ! むしろこれ以外の何を詠唱と言おうか!


 男性剣士もそれを聞いてヤバいと思ったのか、怒涛の勢いで刀を振るいルーチェを屠ろうとする。ルーチェはそれを詠唱しながら涼しい顔で避け続ける。


「〈炎天魔術(セラフィム・エシュ)〉」


 健闘空しく太刀はルーチェを捉えられず、無情にも魔術は発動してしまった。

 直後、剣士の足元から炎の柱が立ち、天に向かって伸びていく。渦巻きながら相手を燃やし尽くそうとするそれは火炎旋風とでも言うべき災禍の焔。


 あれがルーチェの炎天魔術かな。詠唱を中断させるのも大変そうだし、発動したが最後、MPが尽きるまでは縦横無尽に炎が動き回る。対策立てるのはキツそうだ。


 炎が収まるとそこに剣士の姿はなく、ルーチェの頭上に“WINNER”の文字が燦然と輝いている。周囲の観戦者達は拍手喝采の嵐だ。

 武器を納め、それに応えるように大きく手を振るルーチェ。そろそろ声をかけに行った方が良いかな。


「ルーチェ」

「お姉ちゃん!」


 アタシに気付いたルーチェが満面の笑みで抱きついてくる。いつまでも可愛いらしい妹の熱い抱擁を堪能して、しばらくは至福の時を過ごそう。


「ねえ。もう離れていいんじゃないかな?」

「嬉しそうな顔を見れて良かったですけど、さすがに長過ぎです」


 ちっ。邪魔が入ったか。クララとクラリスにそう言われて、仕方なくルーチェを解放する。くぅ、まだルーチェ成分が足りない……。


「もうちょっとだけしたかった……」

「彼是五分以上も抱き合っておいて、まだ足りないの?」

「ルーチェ成分の許容量は無限よ!」

「力強く言わないでよ。傍にいる私達の方が恥ずかしいから」


 失礼なことを言う子だ。いつからこんなに狭量になったのか。


「あれ、もしかしてクララ?」


 クラリスと喋っていたら、ルーチェがクララの存在に気付いてそんな質問をしていた。会うのは四ヶ月ぶりだもんね。クララからしたら一年以上ぶりだけど。


「はい。お久しぶりですね、ルーチェ」

「わあ。ホントに久しぶりだね! 元気してた?」

「特に病に罹ることもなく元気に過ごしていました。ルーチェも息災でしたか?」

「うん! 元気だったよ!」


 そこからいきなりガールズトークになった。出発まで時間かかりそうかな?


「……こんにちは。ステラさん」

「ん? ベルだ。やっほー、どうしたのこんなところで?」


 予想外の人物がいてビックリした。今日も眼鏡が元気にぐるぐるしてるね。いつか再会してパーティ組みたいと思ってたけど、まさか翌日(リアルでは数時間後)に出会うことになるとは。


「……ルーチェさんにプルミエを出てみないかと誘われたので」

「ルーチェと知り合いなの?」

「……いえ、先程ルーチェさんが私からポーションを買ったんです。それが初対面ですね」

「それで二の街に行かないかって誘われたんだ?」

「……はい」


 妹よ。君のコミュ力はホントにすごいね。学校ではクラス内で学級委員長よりも発言権あるみたいだし。リアルの光って一体どういう立ち位置なんだろう。


「……それに、先に行けばもっと良い素材が手に入るかもしれませんし」

「そうだね。あると思うよ、ワンランク上の素材とか」

「……はい。それよりも、昨日とは全然違う装いですね」

「ええ。アタシの横にいるクラリスが作ってくれた装備よ」


 アタシの言葉を聞いたベルがクラリスを見ると、穏やかな笑みで小さく手を振っていた。それに対してベルは礼儀正しく腰を折り曲げて挨拶をする。


「クラリスだよ。よろしくね」

「……ベルナデッタです。よろしくお願いします。クラリスさん」

「うん!」


 それから三人で談笑していると、ルーチェとクララが傍に歩いてきた。


「ルーチェ。こちらが私の姉、クラリスです」

「クラリスさん。よろしくお願いします!」

「お姉様。彼女が一年前に武器を買ってもらったルーチェです」

「ルーチェちゃん……ルーちゃんだね。よろしく!」


 フィーと同じ呼び方してる。ていうか、どっちかって言ったらフィーの方に似てると思うんだけど、クラリス。性格的なものが。


「とりあえず、もう行かない? 変に注目も集めちゃってるし」

「ホントだね。すごい見られてる」

「は、早く行きましょう。人目を集めるのは苦手です……」

「そうだね。パーティ組んで出発しよっか」

「……というか、なぜここまで視線を集めているのでしょうか?」


 そりゃさっきまでデュエルで大立ち回りしたルーチェがいるし、それを抜きにしても美少女が三人もいるこの状況。注目を集めるのは仕方ない。

 多分、ベルも要因の一つだと思うけどね。そんなアニメとか漫画みたいなぐるぐる眼鏡をかけるような子って滅多にいないし。


 既にアタシがリーダー的な感じでクララとクラリスの二人とパーティを組んでたから、ルーチェとベルも勧誘してパーティイン。


 話し合いの結果、道に慣れててタンクでもあるクラリスが先頭。すぐ後ろにアタシとルーチェ、それからクララとベルが続いてる。現状ベルは戦闘力がほぼないと言っていいくらいで、ただついてきてるだけになってる。

 いやでも、後方に支援してくれる人が控えてくれてるってだけでも安心感は全然違うからね? お荷物とか思ってないからね?




 フィールドに出て今はイーストウッズの中。馬や馬車、人が頻繁に通って踏み固められた道をフォーメーションを組んだままグイグイ進む。

 道中に出てくる白兎は、装備のおかげで使えるようになった感知能力でアタシが都度指示を出す。って言っても、クラリスが盾で防いだ後にアタシかルーチェが斬り付けるだけの簡単なお仕事。


 二人して武器が一戦級の攻撃力を持ってるからか、ほぼ一撃で仕留めちゃうんだけどね。

 ルーチェの大剣は元が重量級武器だから全力で振り下ろすだけでHPを一瞬で蒸発させるし、アタシは耳が弱点だって知ってるから動きさえ止まってれば問題なくそこを狙える。白兎に苦戦する要素が一切ないんだよね。


「それっ!」

「キュウッ!?」


 クラリスがバッシュで弾いてノックバックした白兎に〈瞬歩〉で距離を詰めて、耳に一撃を入れる。たったそれだけで討伐完了。

 これがルーチェだと、羽ばたいて一瞬で肉薄してから大剣を振り下ろす。こんな感じ。


「二人して攻撃力高いね~。一人で行き来するより何倍も楽だよ」

「クラリスが良い武器作ってくれたからよ」

「それとクラリスさんの防御が上手いからですね」


 確かに。アタシが白兎がいる方向を教えるだけで即座に防御態勢に入るし、相手の突進を事も無げに受け止めてバッシュ決めるし。

 迷宮脱出後にこの森を歩いて思ったけど、やっぱりクラリスのタンクとしての能力が異常に高い。相手の攻撃の受け方を熟知しているというか。ベストポジションベストタイミングでガードするんだよね。


「クラリス」

「なぁに、ステラちゃん?」

「クラリスってどこで盾の使い方覚えたの?」

「いきなりな質問だね」

「ちょっと気になったから」


 もし師事していた人がいるって言うなら、ひょっとしたら剣を教えてくれる人もいるかもしれないし。


「どうなの?」

「使ってる内に覚えただけだよ」

「それだけ?」

「うん。攻撃が来たら軽そうなら正面から受け止めて、重そうなら攻撃の指向性を弾いて変える。それだけだね」

「盾使い始めた時からそれでやってきたの?」

「もちろん」


 鍛冶師としてだけじゃなくて壁役としても天才なのか。普通初っ端だとそこまでできないと思うんだけどね。


「そういうステラちゃんだって、瞬歩をもう使いこなしてるよね」

「いや、まだちょっと引っ張られてる感じがするかな。最初に使った時よりは体流れなくなったけどね」

「もう既に慣れてきてるっていうのがすごいんだよ。それにダッシュラビットの小さな耳まで正確に攻撃するのも中々できることじゃないよ」

「動き止まってたら普通に狙えるでしょ?」

「いやいや、一般的な人は小さい部位を寸分違わず狙い続けるとか無理だから」

「そう? こっち来た時から普通にできてたから実感湧かないなぁ」

「それ普通じゃないから」

「クラリスにも言えることでしょ」


 よくよく考えたら、今アタシが着てる装備も一日で作り上げてるし。どっちかって言ったらクラリスの方が普通じゃない。


「……なんなんですか。理解できないあの次元の違う会話は」

「お互い理不尽な姉を持つ者同士、苦労するねクララ」

「はい。お姉様のことは敬愛してますが、あの部分だけはちょっと……」


 おやおや、何か失礼なことを言われてる気がするぞ?


 その後も白兎を瞬殺しながら森を進んでいく。前方を見ればラウム迷宮が近付いていて、クラリスが言うにはあれがこの森の中心地点らしい。

 迷宮より先には足を運んでないから、ここから先はアタシ達プレイヤーにとって前人未到の地になる。さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだね。

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