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いつだって姉は妹のことを考えてます

また四日経ってしまった……

「「…………」」


 うん。ちょっと困った。そして誰か助けろください。


「ステラ様」

「なんでございましょうか?」


 ついムダに敬語になってしまった。いやでもしょうがないと思うの。だってクララが阿修羅になってるもん。傍にいるだけでびくびくものだよ?


 阿修羅になった原因はアタシじゃなくて目の前にあるっていうか、いるっていうか。アタシのせいじゃないってことは理解できるんだよ? けどね。例えそれが自分に向けられた怒りじゃなくたって怖いものは怖いんだよ。特にクララみたいないつもはお淑やかで落ち着きを持った美少女っていうのが。


 まあアタシと今のクララが逆の立場だったら間違いなく怒るし呆れる。アタシは美少女ってわけじゃないからクララ程怖くはないと思うけどね。目付きもそんなに鋭くないし。おっと話が逸れた。


「あの人をどうしましょうか?」


 これまでの口調からは想像もつかないくらい低いトーンの質問が余計な思考をぶつ切りにしてきた。いや、アタシだってどうしたらいいかわかんないって。目の前でぐーすかぴーすか眠りこけてる女の子とかどう対処しろって?


 アタシ達二人は、クララの装備とアタシの割と高いステータス。センスのいいクララの魔法によって、【ラウム迷宮】を数時間(十数時間?)で駆け上がるという強行軍を成し遂げた。多分、ダンジョン攻略をしてきた人達の中ではトップクラスのスピードだろうっていうのはクララ談。


 そして樹木の頂上が近くなり、そろそろ他の道の探索をしないといけないかもって思い始めたところ。唐突に薄暗かった視界が開けて大きな広場に辿り着いた。その広場はどうも安全地帯のようで、二人してようやく一息つけると思ったところで見つけたのが目の前の眠り姫だった。


 クララと全く同じ薄紫色の髪。寝相が中々に悪いのか四方八方に広がり乱れてる。それでも整った顔立ちなのがわかるし、鼻筋がクララとそっくりだから多分この人がクラリスさんかな。


 ご丁寧に布団みたいな長方形の寝袋を敷いて爆睡してる。確か封筒型っていうんだっけ? そんなこと今はどうでもいっか。それよりもクララの質問に早く答えないと、怒りの矛先がこっち向きそう。ないとは思うけど、ついそう思っちゃうくらいには今のクララが怖い。


「あぁ……クララさんの思うようにすればいいんじゃないですかね?」


 敬語が直らナイツ。ホント誰か助けてクレヨン。


「私の思うように、ですか。では……」


 そこでクララが思いっきり息を吸い込み始める。ちょっと待って、そんな華奢な身体に収まらないだろうってくらい空気吸ってるんだけど。わー、とってもイヤな予感がするー。耳塞いどこっと。


『起きなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!』

「「ふぎゃあっ!?」」


 耳塞いでもそれを貫通してくるってどうゆうこと!?


 あまりの大声量だからか起きそうにない程深い眠りについてた女の子が跳ね起きる。ホント文字通り跳ね起きた。寝耳に水どころか寝耳に滝ってくらいにはとんでもない声の大きさだったからね。


「なになになに!? 何が起こったの!? ――あ」


 瞳の色までクララと全く同じダークパープル。優し気で整った顔立ちはクララにそっくりだね。まあそんな可愛い顔が恐怖で固まってる。まさしく蛇に睨まれた蛙。


「お姉様。おはようございます」

「おはよ……クララちゃん……」


 なんか声が震えてるけど、同情はしてあげない。なんせ自業自得だもん。人に心配かけた挙句、迷宮の中で眠りこけてるとか怒られるに決まってる。


「それで?」

「心配かけてごめんなさい」


 クララの問い掛けから一秒も掛からない即行の土下座。あれ? なんかデジャヴュというか激しく覚えがあるこの光景はなんだろう?


「私がどれだけお姉様を心配したかわかっていますか?」

「ちょっと想像がつきかねます……」

「でしょうね。お姉様は私ではありませんから」

「はい……」


 重い雰囲気が安全地帯を包み込む。これどうなるんだろって感じで固唾を呑んで見守っていると。


「あ……」


 そんな声を漏らしたのはクラリスさんなのかアタシなのか。それはよくわかんないけど、一つだけわかってるのはクララが泣いてるってこと。ぼろぼろと涙を流すクララを見て、二人して言葉が出なくなった。


 泣きじゃくるクララに何もできずにいると、さっきまで土下座してたクラリスさんが立ち上がってクララの傍まで静かに歩み寄る。そしてクララを抱きしめて頭を優しく撫で始めた。


「心配かけてごめんね。クララちゃん」

「うぅ…ひっく……お姉様のばかぁ……」

「うん。ごめんね」


 これはしばらくアタシの出番なさそうだね。静かに見守っておくとしましょうか。少し離れて二人を見ておく。


 ばかぁと言い続けながら泣くクララ。ただただ優しく頭を撫で続けながらその言葉を受け止めるクラリスさん。なんかすごい姉妹愛を見せつけられてる感じがする。そういえば、アタシも光とこんな感じになったことがあったっけ?


 あの時は確か、お母さんとの些細な口喧嘩で家を飛び出したんだよね。そんなアタシを心配して光が探しにきてくれたんだっけ? 土砂降りの中、びしょびしょに濡れながら抱きしめられた。ってアタシの話はどうでもいっか。


 クララが落ち着くまでしばらく掛かった。その間、ずっとクラリスさんは抱きしめて撫で続けてた。


「ぐすっ……ごめんなさいお姉様。私、本当は馬鹿だなんて思っていませんから」

「うん、わかってるよ。私の方こそ心配かけちゃってごめんね」

「いえ。お姉様ならきっと大丈夫だと思っていました」

「貴女も。クララちゃんに付き添ってくれてありがとね」


 そうお礼を言われるとちょっとこそばゆいな。つい軽い首肯だけで返してしまったよ。まあそんなんはともかくとして、同じ姉として言っておかないとね。


「妹に心配かけるなんて、アンタも姉失格ね」

「おっとこれは手厳しい」


 たははって感じで後頭部を掻きながら苦笑するクラリスさん。クララも普通に頷いてる。


「ん? “も”?」


 あ、つい言っちゃったことに気付かれた。


「それでクラリス、さん……」

「クラリスでいいよ。私は十七だし、多分同い年くらいでしょ?」

「あぁうん。確かに同い年だ」


 ってことはもしかして、クララって年下? うわぁ。クララの方こそ同い年だと思ってた。まあいい感じに思考が逸れてくれたしいっか。


「同い年はともかく、貴女の名前は?」

「あぁ自己紹介がまだだったっけ。アタシはステラよ。よろしく」

「よろしくねステラちゃん」


 そこでクラリスがアタシを見て小首を傾げる。え、なに?


「魔人?」


 あぁアタシを見て種族が気になったのね。まあかなり不思議な種族だって自覚はあるよ。とってもね。


「お姉様。そういうことはあまり――」


 クララよ。興味深そうにこっちを見ながら言っても説得力皆無だってばよ。


「いいって別に。クララも気になってたんでしょ?」

「はい。まあ」


 気を遣って訊かないようにしてたのかな? アタシと同じようなプレイヤーってわけじゃあるまいし、気にしなくていいのに。ってあぁ、これが高性能なAIってことね。思考回路が普通の人とほぼ同じだ。


「一応魔人よ。ただ普通の魔人ではないのは確かね」

「だよね? 頭の上に天使みたいな輪っかがあるもん」

「そうね。まああれよ。星の加護を得てるっていうか……」

「「え!?」」


 びっくりしたぁ。いきなり大きな声出さないでよ。心臓止まるかと思った。


「もしかして〈星魔〉なの?」

「そうよ」

「うわぁ。まさか生きてる内に伝説の種族に会えるなんて思てなかったよ」


 え? 〈星魔〉ってそんなすごい種族として捉えられてるの?


 二人曰く、神の加護ならまだしも。星そのものからの加護っていうのを受けられる人なんて天地がひっくり返ったところであり得ない。って言われてるくらいには稀有で神々しい存在だとか。この世界じゃ神より星の方が上位なんだね。


 アタシの正体を知ってからいきなり恭しくしだしたけど、面倒だし二人とは普通に接したいから今まで通りでいいって言って聞かせました。もう大変だったよ。


「それよりクラリス。〈ラウムの神枝〉っていうのは手に入ったの?」

「全然――ってあれ? なんで私が取りにきた素材を知ってるの?」

「街の人にそう言って出てきたのはお姉様ですよ」

「おぉそうだった」


 今思い出したみたいな言い方しないでよ。いやまあそうなんだろうけど。


「なんでその素材が必要なの?」

「依頼ですか?」

「違う違う。私が勝手に取りにきただけだよ」


 客の依頼ってわけじゃないんだ。じゃあなんで?


「ほら。結構前にクララちゃんが言ってたでしょ?」

「私ですか? えっと、何を言いましたっけ?」

「そろそろ杖が限界だから新調しないとって」

「あぁあのことですか……え? じゃあもしかして」

「うん。クララちゃんに杖を作ってあげようと思って」


 それが素材を求めてた理由か。妹に優しいんだね。っていやいやいや、それで心配かけてたら本末転倒もいいところでしょ。


「私のために……」

「うん。杖の効果が高ければクララちゃんが【ツヴァイト】に戻ってくる時も安心できるだろうって思って」

「お姉様……」

「それにクララちゃんってもうすぐ誕生日でしょ? その時のプレゼントにしようかなって」

「ありがとうございます。お姉様」


 自分のために危険を冒してくれたことが嬉しくてうっとりしてるクララ。いいんだよクララ? それで死んじゃったら元も子もないって言ってやっても。


 まあお互いにお互いのことを考えて行動した結果がこれってことね。これが【姉妹の絆】っていうイベント名にした理由かな? わかんないけど。


 どっちにしたって重要なことが解決してないんだけど。


「それでクラリス。こんな長期間迷宮内に留まっておいて、手に入ってないは問題じゃない?」

「う……」


 アタシの言葉に痛いところを突かれたって感じで苦い表情になる。


「手に入れようとはしたんだけど……」

「けど?」

「私一人じゃ無理なんだよ……」

「それはどうして?」


 話を聞くと、ちょっと面倒なことになってるっぽかった。


 クラリスは一応樹木の頂上に辿り着いたみたい。頂上で〈ラウムの神枝〉を見つけたまではよかったんだけど、そこで厄介なことになったと。


 大体の予想はついたけど、樹木頂部に強そうなMOBがいる。特徴を聞く限りだと竜系のMOB。真っ白で硬そうな鱗に包まれてて、そのMOBの周りだけ不自然に木の葉が揺れていたとか。


 風属性の竜系MOBか。確かに厄介だ。今のアタシは18レベル。万全の態勢を整えたところで竜相手じゃ普通に負ける可能性が高い。というか極めて濃厚。


 これがアタシ一人だったら、攻撃パターンを把握するために勝負を仕掛けるのもやぶさかじゃない。それどころか間違いなく特攻する。だって死に戻りがあるもん。


 でもクララとクラリスっていうこの世界の住人が一緒にいるなら話は変わってくる。二人の命と引き換えに素材を求めるっていうのは絶対に違う。何より素材を求めてるのはクラリスなわけだから死んじゃったら全く意味がない。その時点でイベント失敗は間違いないはず。


 なら、一旦アタシだけで戦ってみるか? それなら乙ったところでアタシがデスペナ喰らうだけだし、ここに到着するまでに間違いなくその制限も解ける。その方法なら、二人の安全を確保しつつ戦う作戦を立てるのも可能なはず。


「行きましょう。ステラ様」

「え、行くの?」

「はい。お姉様が求めているのであれば、その邪魔をするものは排除するのみです」

「えっと……」


 瞳のハイライトが消えたクララを見て、顔が引き攣ってるのを自覚しつつクラリスを見遣る。すると、かぶりを振ることで返答にされた。つまりこうなったクララは止められないと。これはもう全員で突貫するしかないらしい。


 お願いだから無茶だけはしないでって頼んで戦闘準備を整えるアタシ達だった。

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