表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/39

姉妹の絆

 他世界の住人に怒られるという稀有な体験をしたアタシ。今はもうその怒りも収まって武器のメンテをやってくれている。その間店に並べられてる他の武器を見ていく。


 昨日見たのは剣だけ。他の武器種や盾とかも見てみたくなったんだよ。暇つぶしで。別に欲しいとは言ってない。


 あ、そうそう。昨日買った二本の剣だけど、これ作ったのクララのお姉さんだって。鍛冶に人生懸けてるだけあって武器の性能は軒並み高いらしい。クラリスさんは武器を作ったとしても、そこそこの性能程度では廃棄処分するまである。そのこだわりはスゴイものだね。鍛冶師じゃないアタシからしても素直に尊敬できる。


 こだわりが強い人って、やっぱりいいもの作るんだよ。そんな思いを抱きながら店内の武器を見ていく。この中にはクララが作った武器もあるみたいなんだけど、パッと見だと全然わかんないんだよね。武器デザインは姉妹揃ってすばらなんだね。


 まあ性能を見たら一目瞭然なんだけどね。クラリスさん作は性能面が非常に高い。初期武器として使うにはオーバー火力な武器でもある。これが五百リキッドそこらで買えるんだからビックリだよもう。


 対してクララ作のものは若干性能が低いかなって感じ。特殊効果が付いてないものも多いからね。まあそれでも初期武器として見たらスペックは高いんだけど。というか初期武器で特殊効果が付いてるっていうのはまずありえないらしいけどね。βテスターじゃないプレイヤーの武器は大抵これよりも性能が低いとか(掲示板情報なり)。


 そんな感じで店内を見て回ってたら、メンテが終わったのかクララが店の奥から二本の剣を抱えて出てきた。


「武器のメンテナンスは終わりました。しっかりと耐久値も全回復させたので安心して使えますよ」

「ありがとクララ」

「いえ、これが私の仕事ですから」

「それでもよ。とりあえずお金払わないとね。いくら?」


 クララから剣を受け取りながらお代を訊くと、予想外の言葉が返ってきた。


「お代はいりません」

「いやいやいやいや。仲良くなったとはいえ、お金を取らないっていうのはさすがにやり過ぎじゃ……」

「そうではありませんよ。勿論それも理由の一部ではあるんですけど」


 理由の一部になってる時点で割とアウトな気がする。商人としてはって話だけど。まあでも既知の仲ならそうでもないのかな?


「実は、私からの依頼を受けてほしいんです。それを受けていただければ今回のメンテ分のお代はなしでかまいません」

「依頼?」

「はい」


 そこでアタシの視界に一つのウィンドウが浮かび上がるのと同時に、頭の中にシステム音声が聞こえてきた。


『イベントストーリーが発生しました。イベント【姉妹の絆】を開始しますか?』


 脳に直接響いてきた音声と全く同じ文章が書かれたウィンドウ。ウィンドウ下部には受けるかどうかの丸バツアイコンがある。


 イベントストーリーってなんぞ? 掲示板にも説明書にもそんなことは書いてなかった。ルーチェ達に聞いた限りじゃβではイベントストーリなんてものはなかった。あったら喜々として話してくれてたはずだし。ちょっと確認してみようかな?


「ちょっと待っててもらっていい?」

「はい。わかりました」


『イベントストーリーの返答保留を確認しました。メニューの〈Eventイベント〉から、いつでも受けるか受けないか決めることができます』


 そういえばそんなアイコンもあったっけ? 完全に意識の外に放り出してた。


 それはともかく、メニューを呼び出して〈Friend〉をタップ。とりあえずフィーにフレンドコール発信。とぅるるるって音が三回くらいしてからフィーの声が聞こえてきた。


『もしもし。どうしたのステラちゃん?』

「フィー。今時間大丈夫?」

『うん。今は休憩中だから五分くらいなら』

「ありがと」


 で。アタシはクララとの会話とイベントストーリーについて話す。終始黙ってそれを聞いてたフィーは、アタシが話し終わったのを見計らって話してくれた。


『まずイベントストーリーについてだけど、βではそんなものなかったよ。条件発動型だったとしても一つも話を聞かないっていうことはほぼないからね。掲示板に晒すのは普通だし、何より攻略組の面子だったら誰かしら条件を満たすことはありえたはずだから』

「ふんふん。それで?」

『多分だけど、ステラちゃんの予想通り正式サービスが始まるのと同時に解放されたものだと思う』

「やっぱりか……」

『わからないことだらけだし、とりあえず受けてみたらどう? その結果次第で情報を公開するかどうか判断すればいいと思うし』

「そうね。そうしようかな。話聞いてくれてありがと」

『全然問題ないよ~。こっちも有益な情報を聞くことができてラッキーだったし、っておっともう出発するみたいだから切るね』

「えぇ。アタシも頑張るからフィーも頑張って」

『はいは~い』

「あとちゃんと寝なさいよ?」

『…………』


 あ、通信切られた。あの娘、ホントに完徹とかしないよね? ゲームに関しては見境がないから結構心配なんだけど……。


 まあもう一回コールするのもあれだし、とりあえずイベントを受けようかな。メニューを操作して〈Event〉アイコンをタップ。一番上に表示されてる【姉妹の絆】っていうのを押してから、受諾を選択する。


「クララ。その依頼受けるわ」

「本当ですか!? ありがとうございます!」


 勢いよく頭を下げてくるクララ。そこまでかね。


「それで依頼っていうのは?」

「実は――」


 依頼内容を聞いてアタシは大至急イベントストーリーを進めることにした。事は一刻を争うものだったから。内容はこうだ。


 常日頃から無茶をするお姉さんが心配で、ちょくちょくお姉さんの周りにいる人達から姉の現状を聞き続けていたらしい。クラリスさんは自分のことを対して話さないから、そういう風にして現状の把握をしていたらしい。


 ただ、最近になってクラリスさんと連絡が取れなくなった。周りの人達が知る限りだと、クラリスさんはまた高難度のダンジョンに潜りに行ったらしく、そこからまだ戻っていないらしい。


 今まではせいぜい二~三週間もすれば帰ってきていたクラリスさんだけど、今回に関してはもう一ヶ月以上もダンジョンから帰ってきてないみたい。


 それで心配になったクララは実力のある人を探してたみたいで、それがアタシだったと。根拠はダッシュラビットが次々と湧き出る【イーストウッズ】からの生還らしい。これが発動条件なのかも。


 この世界の住人は、アタシ達プレイヤーと違って死に戻りという概念がない。死んでしまったらもう二度と生き返えることはない。この世界が一つの現実だっていうのを実感する設定だ。


 そんなわけで、アタシはクララの助言に従って特急でアイテムを揃えてダンジョン攻略へと乗り出すことになった。この場合は捜索か。


「私も行きます」

「え? クララって戦えるの?」

「はい。一応魔法の心得はありますから」

「クラリスさんが心配なのね……」


 重く、静かに、ゆっくりと首肯するクララ。それにアタシは了解の意を伝えて、二人でダンジョンに行くことになった。


 クララ曰く、これから行くダンジョンはよっぽどの強者でもちょっとの油断ですぐに命を落とすような場所だとか。それでもクラリスさんのために命を投げ出す覚悟らしい。


 冗談じゃない。アタシの目の前でそんなことはさせないからね? 死ぬならアタシだ。どうせ死に戻りがあるわけだし、この世界の住人よりも体を張れる存在だからね。


 そして、アタシ達はそのダンジョンに向けて街を発つのであった。

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ