冬が明けて
お待たせしました!
あの襲撃からかなり日が経った。月の満ち欠けが4巡した頃だろうか?
少しだけ降った雪も解けてなくなり春特有の瑞々しさが森に広がっていた。
あれからたまに森で人間を見かけることもあったが俺たちから何かすることもなくあちらも特にこちらへ手出しをしなくなった。おかげで平和に過ごせた。
子供も無事生まれ、今は洞窟の外でキャイキャイと遊んでいる。
眷属のみんなは緑色の毛並みが多いがそれに茶色が次に多く、最も少ないのが黒だ。次に生まれる子もこのどれかの毛並みになるはずだった…んだが。
ハッハッ キャンキャン ウォーン ガルルル
外にいる子は赤、白、灰、濃緑が混ざっていた。
「ウォンッ!」(ボワッ)
「オンッ!」(ピキキッ)
「ガゥッ!」(ダンッパリリ)
「フォーン」(ピューン)
……えーと。子供たちよ、森で炎はいかんぞー。氷はまぁ大丈夫だけどそれを仲間に向けるなよー? 地割れは俺が直しておくか……規模も小さいし。あぁっ、どこへ行く! 危ないから戻ってきなさい!
はぁはぁ、め、目が離せない。やんちゃすぎる。
これで俺だけだったら職務放棄して逃避行へまっしぐらだぞ。
幸いなことに母になった狼たちが面倒をきちんと見ていてくれるのでたまに構ってあげる程度で済んだ。ちなみに生まれた子たちもステータスを見たら眷属になっていた。眷属の子は眷属なのかしら?
『解析より解説。独り立ちできるまでは仮の眷属ですが、本人が望めば眷属のままでいられます。逆に他の群れなどへ行けば自動的に眷属から解放されます。いずれにしても眷属から生まれたのみ適応されます』
ほうほう……。できればずっといてほしいが養えるかどうかなんだよなー。まぁ本人(本狼?)次第か。
わっ、危ないから俺の足元でじゃれつくなよー。
*********
他に変わったことと言えば……。
群れの長だったものたちが進化したことか。それも全員が全員特殊な進化をした。
それぞれがフォレスト、マッド、マーダーといった種族だったんだがそこにアージェントが追加された。元々の毛の色…順に緑、茶、黒色にぱっと見ではわからないが陽の光に当てれば銀色に光る毛が混ざっている。
ステータスを見てみたがやはり俺の特徴を継いで防御がやや高めになっていて、称号の【眷属】が【始祖の眷属】に変わっていた。
【地砕】は使えないようだったが【剛毛】といった一部のスキルは会得していた。
ランクもC-とこの辺りでは十分ボスを名乗れるレベルになった。
この調子で群れを守り引っ張っていってほしいものだ。
……割と暇だ。
子供と遊ぶ以外にやることがなくなってしまった。
イグニ兄さんはあの街で放った炎のことでなんか掴めたのか森が途切れている砂漠なりかけの場所で練習していてここのところは拠点にいないことが多い。
フブキ姉さんとエクト兄さんは拠点でゴロゴロしている。まぁフブキ姉さんのスキルで出す氷が必要だからあまり外に出ないだけだし、エクト兄さんは食事以外はずっと寝ている。働け。
街を襲った経験が眷属たちのステータス向上につながったため一体一体が強くなり見守る必要もなくなって俺も拠点でぐーたらごろごろしている日々だ。
「なぁ? なんかすることない?」
「大丈夫ですよ。長殿はそのままどっしりと構えていただければ!」
「あ、はい」
なんか手伝おうにもどこへと声をかけてもこんな返事ばかりだ。ごろごろするのにも飽きたんだけど……。
はぁ……気分転換に散歩でも行ってこよう。
眷属に声をかけて洞窟の外へと歩き出す。
じゃーいってきまーす。
*********
はい、ただいま俺ことアシュトは絶賛迷子中です。てへっ。
いやね、俺がドジなせいじゃないよ? ほんとだよ?
『称号スキル【ドジっ子】のレベルが上がりました。落ち着いてください』
あ、はい。落ち着きます……。でも言い訳させてください。
とりあえず散歩がてら拠点の周囲を見て回ろうとうろうろしていたんだ。
それで洞窟の入り口の向きと逆方向側へと差し掛かるころにそれは起きたんだ。
地面がなくなった。いや、崩れた。
そう理解した時はもう何もかも遅くて、無駄に大きいこの体をも飲み込む穴が出来上がっていました。
そして、今は大地の底なわけですよ。ハハッ。
……
…………
………………えーと、いいよね?
「なんでこうなるのぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
よし、すっきりした。ままならない現実にはこうして吐き出せば乗り越えようっていう気にもなるもんだ。さて、ここはどこだろうか。
周囲を見渡す。
地面があり空間も広がっている。見上げれば穴が開いているはずなのに天井があった。
地面も土ではなく硬質な何かに変わっていた。壁も同じく硬そうで俺の石頭といい勝負かもしれない。
うん、ここはどこだ。
『解析より告知。ここはどうやらダンジョンのようです。たまにダンジョンが拡張されるとき外にも影響が出るためその際にできた穴にアシュト様が落ちたということになりますね』
えーなに、ピンポイントで狙いに来てないかって疑っちゃうタイミングだわ。
……さらっと聞き流しそうになったけどダンジョン?
『ダンジョンは魔素溜まりにできることが多く、魔素が濃くなればなるほど内部で空間が歪み中は広くなっていきます。同時に魔力から魔獣が生まれやすくなり住処であるダンジョンを守るようになります。最奥には魔素が固まり形を成したダンジョンコアが存在しており、これを砕けばダンジョンは消えます』
あ、説明ありがとうございます。俺の知識にもあったが概ね違いはないな。
あー一言でまとめると……異次元空間みたいなもので中にモンスターいっぱいだよ! たまに外へ影響もあるよ! それに巻き込まれて今ここ!
ふぅ。
「ねぇ【解析】先生。最奥ってどこなの?」
『このダンジョンは地下へ続いているようですね。最奥は地下の底になりますね』
おっけーおっけーそれさえ分かればいいよ。
セオリーで言うなら階段があるはずだな。とりあえず地下へ行ければいいか。
硬質な壁に沿って移動を始める。目的地は地下の最奥。
目標はもちろん、ダンジョンコア破壊だ。暇だったし何より崩落に巻き込まれてドジっ子扱いされる八つ当たりをさせてもらおうか……!
突撃、ダンジョン! 帰った後にお仕置き確定(ガクガクブルブル




