蹂躙劇・狼たちの牙
最近忙しかった!大会にも出場してました。結果はお察し…。
お待たせしました。蹂躙劇・狼視点!
少し休んだ俺はMPの残量を見ていく。自動回復のおかげで半分は戻った。
道を潰した後、移動して待機していた眷属のもとへ急ぐ。夜のうちに決めなければならないからだ。
無事、合流した。ついてきている眷属は70体ほどだ。残りの動けるものは怪我をしたものと妊婦の防衛のために拠点に残してきた。つまり今の最大戦力なわけだ。
視線を動かす。立派な壁に囲まれた街が見える。あの高さでは俺なら超えられるだろうが兄弟と眷属たちはついてこれそうにもない。それをしたら自殺行為だしあとあと助かったとしても兄弟と眷属たちもお仕置きしてくるに決まっている。そんなのいやだ。
理由は情けないが、それを強引に推し進めたとしても人間たちに致命的なダメージを与えられると俺は自惚れちゃいない。そこで俺たちの強みである群れを使う。
まずは混乱させて人間の強みである連携をとれなくする。適任者にお願いする。
「イグニ兄さんとエクト兄さんは魔法と能力を使ってあの街の中へと攻撃してほしい。その方法はあとで教えるからとにかく限界いっぱいまで魔力を練って待機していて」
「うむ、わかったぞ弟よ」
「やる……」
頷いて2体とも目を閉じて集中をしている。
「それでフブキ姉さんと眷属たちは俺が入り口を作るからそこから入って暴れるんだ。強いやつがいたらそいつは避けて俺と兄弟のところへ誘導して」
「わかったわ。待機しているわ」
「「「はい! ボスッ!!」」」
ボスって初めて言われたわ。ま、まぁ頼むぞ。お前たちがメインなんだからな。
月はもう頂点を過ぎている。朝まで時間がそれほどはないだろう。
「さぁ、やるか復讐を」
*********
俺の名はエクト。弟で群れの長であるアシュトから与えられた。
これからすることは大仕事らしい。俺にはそれがすごいことなのかよくわからない。
俺しかできないことなのでお願いされた。長が簡単に頭下げちゃいけないのに。
だが、あいつは昔からそのあたりに頓着しないやつだったので今更か。
それよりもこれまでにない魔力を練っていて俺は興奮している。
あぁ、今すぐにでもこれを解き放ちたい。まだか合図は。
……! きた。解き放つぞ。穿て我が雷!!
バリリッ……ズッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッ!!
【纏紫電】【風魔法】【電光石火】のスキルに魔力を乗せてこれまでにない最大出力で放ったのだ。
この規模には俺もびっくりしたがそれよりも体がすごいだるい。これが魔力酔いってやつか。弟が名づけの際につらそうにしていたがこれは納得だな……。
ふらふらするがまだ動ける。合流しに行くか。
タッタッタッ
*********
おっエクトのやつやったか。どれ、次は我か。
我はイグニ。炎を司り地獄の業火を操る者である。
我はかの、狼王から生まれた特別な血筋だ。
親殿は狼どころか数多の獣を支配する獣の王でもあるのだ。
そんな親殿を我は大変尊敬している。いつか横に並び立ち追い越したいものだ。
さておき、今はこのもん?とやらを燃やせばいいのだな。
我もこれほどの魔力をこめた一撃は経験がないゆえにひどく心躍る。
さぁ、消し飛ぶがよい人の子らよ!
【業火】【纏篝火】【炎魔法】に全力を込めて発動する。
最初に纏った黒い炎が炎魔法によって体から離れ、業火が上から包みお互いに燃やし尽くし合い規模がでかくなっていきついには固く締められた門へと激突する。
音はなかった。音すらも燃やした。そうして門とその周辺にあったものは一瞬で蒸発した。それだけにとどまらず地を這って火は広がる。
っ! ハァハァ……。力が抜ける……。全力で撃つとこうなるのか。新たな経験だ。
さて、出番までは我は休ませてもらおう。あとはまかせたぞ弟よ。
とつ とつ とつ…
*********
イグニ兄さんとエクト兄さんも役割を果たしたな。今頃ふらふらなはずだから大丈夫かな。あれって全力でやると気を失いそうになるんだよね……。
まぁ兄さんたちのことだから大丈夫か。俺のMPもほぼ全回復したしそろそろこっちも行動に移すか。
「フブキ姉さん。そろそろ俺が壁を崩すからそのあとに突撃して戦えそうな人を中心に狙っていって」
「わかったわ。準備しとく」
よし、じゃあ行こうか。蹂躙しに…―
俺は群れを引き連れつつ壁際に近づく。壁の上には松明を持って歩いている人間が見えるが俺たちに気付く様子はない。あれだな、明かりが近くにあると暗いところが見えないせいで俺たちが近づいていることにも気づけないんだな。そう考えると明かりって見張りの邪魔にならないか……?
ちなみに俺は匍匐前進まがいにできるだけ姿勢を低くして移動している。この時だけはこの巨体を恨みますわ。腰痛い。
ようやくたどり着いた。今まで魔力を練りに練っていつでも放てる状態で留めるのが結構大変だった。それもこの時までだ。
「いくぞっ!」
【地砕】!!
瞬間、世界が揺れた。
地面が割れ、陥没して、隆起して、地面が波立つ。
その波は当然、地面と密接につながり固定されている壁にも伝わり、丁寧に組まれていた石垣が互いを削りながら出て来たり引っ込んだりを繰り返す。そしてついには一つの石が零れ落ちる。
一つの穴から崩れる。あとを追いかけて崩れていく石の津波が人の街に襲い掛かる。
叫びが上がる。人が潰れる音、固いものが割れる音、高いところから落ちた音。
阿鼻叫喚があちこちから聞こえてくるなか揺れも収まる。
「……突撃」
「「「応ッ!!!」」」
瓦礫の山になった元壁を乗り越えて眷属たちは街へ侵入する。
「オオカミだ! 狼の魔物だ!」
「なんでこんな時に!」
「迎え撃て! むかえっくぺっ!?」
近くにいた不運な兵士たちはたちまち狼の牙に刈り取られていった。
夜はまだまだこれからだ……。




