策謀
今回はちょっと短め
次回から激動かな? 作者の腕に期待を寄せてください…うっ胃が…
…ガサリ
見つけた。気配はやはり人間だった。
俺がとった手段はなんてことのない単純なことだ。
それは待ち伏せ。人間が開拓してできあがった道を目印に森で身を伏せて待っていた。
あれから俺が追いかけてもまっすぐに人間の集落へ戻るとは限らないと思い至り、ならどうしても通らないといけない場所を絞っていって、遠めに人間の集落の門を観察して2カ所しかないのも確認した。
そのうち1カ所はぐるりと森を回っていかないとたどり着けない場所にあるのでもう一方に通じるこの道の近くで身を伏せていた。
そこに足を引きずりながらボロボロの格好をした冒険者が門へと向かっているのだ。さて、こいつを仕留めなければな。
門までは遠く、人の目では輪郭も定かではないだろう。周囲を見渡すが近くにはあの冒険者以外はいないようだ。今がチャンスであろう。
俺はここで仕留める算段をつける。そして冒険者が目の前を通りかかる。ここだ。
爪を大きく振りかぶり、その軌跡が形を伴い前へと飛び出す。【斬爪】の斬撃だ。
これで仕留められると思ったが冒険者は疲れ果てているにもかかわらず何らかの勘が働いたのか前へ飛び出して倒れるようにして回避した。
「うおぉぉぉぉ!」
だが、後が続かなかった。俺はすでに飛び出していて背中に爪を突き立てた。
「グァッ! くっ離せ!」
もちろん離すわけがない。だがこの道の上で殺すのもまずい。なのでこうする。
「っ! 離せ! 離せぇぇぇ!!」
首根っこを口に咥えて森の奥へと駆ける。
しばらくして森の奥から断末魔が響く。だが誰にも届かなかった。
*********
「弟よ。何か言うことはあるか?」
「あの時はこうしたほうがいいと思いました! なのでお仕置きはなしの方向ででお願いします!」
めちゃくちゃ怒られた。解せぬ。
あれからも人間がやってくる。ある程度は見逃して、この洞窟へ感づいて近づいてきたものだけを殲滅している。ちなみに俺は外出禁止を言い渡された。ひどい。
なので、ほとんどが伝聞でしか状況を知るすべがない。とはいえ、大体の冒険者は眷属の狼をほとんど無視するみたいなので問題がないと言えばない。
願わくはこのまま諦めてくれて冬が明けることなんだが、うまくいくかな……。
*********
「まだ情報は上がらないのか」
冒険者協会のある執務室でそう声を上げるものがいる。ギルド長だ。
「はい、みな狼を見かけることはできたがサイズが普通だというものばかりです。いなくなった冒険者も死んだのかあるいはどこかへと逃げたかとしか思えません」
報告するギルド員も苦々しい顔でいる。それほどに情報がないも同然なのだ。
「……妙だな」
「妙…とは?」
指を組みその上に顎を載せて重々しく告げるギルド長と聞き返すギルド員。
「考えてみろ。ゼノンの報告以外に目撃情報がない」
「それは……つまりゼノンさんが誤情報を流したと?」
ギルド員の言葉にかぶりを振って否定する。
「あやつのことは俺がよく知っている。なにより銀ランクの冒険者だぞ。そんな真似はしない。だからこそ妙なのだ」
「……では、どういうことでしょうか」
深い深いため息を吐きつつ最悪のパターンをギルド長は見据えなければならなかった。
「もしだ。もし、こちらの動きを予想のできる魔物がいたとしたらどうするかね?」
「まさかそれこそあり得ませんよ。魔物のなかにも確かに理性を持つものもいますがそれこそドラゴンくらいでしょう。脅威度で言えば最低でもAはなければ」
「では、現実はどうかね。気持ちの悪いくらいに空振りに終わり、見かけるのはただの狼の魔物だけだ……」
「たまたまという可能性は?」
「そうあってほしいものだ」
そこで会話は途切れる。お互いに打開するために頭を回すも空振りに終わるばかりだ。
ややあって、ギルド長が苦渋の表情で策を話す。
「そういえば情報によるとその狼は配下に狩りをさせて見守っていたと言っていたな」
「はいそのようですね」
「配下の狼なら姿を見せるのであろう。ならばそいつらを攻撃すれば……」
「……狼を狩っていけば姿を現すと?」
「わしはそれくらいしか方法が思い浮かばぬ。だがそれは奴の怒りを買うことになるだろう。そうなったらどれだけの犠牲が出ることか」
「考えすぎでは? ここには精鋭がたくさん集まっているのですよ。狼ごときにやられるようなことはありませんよ。彼らを信じてやってください」
「そうだな……」
それから依頼の内容を変更され、冒険者の動きが変わるのであった。




