さぁこれからどうしよう
おまたせしました。よろしくお願いします!
兄弟の愛の3連撃でたたき起こされた後にあれから必死に威厳を取り戻すためにも群れに貢献しまくりましたとも。ええ。
ついでに進化した後のスキルの練習もかねて狩りと実験も繰り返した。
ちなみに狩りには兄弟の誰かが必ずついてきた。目を離さない宣言は本気だったようだ……。あぁ、自由が……。眷属の誰もが生暖かい目だ。やめていたたまれない。
そうそう、変わったことと言えばついに冬がやってきた。ここらは暖かいほうにあたるのか雪は降ってこないが北にそびえる山脈から吹いてくる風が体を切り裂くような冷気を含んでいて思わず体がブルリとしてしまった。よかったよ、マイ毛皮があって。これが獣に生まれ変わってよかったことだよ。
というかさ、冷静になって考えてみたんだ。群れだった狼のなかには明らかに子供が混ざっている。その子らは産まれてまだそんなに経っていないそうで俺たちと同じ年なのだ。そう、話はそこだ。
まだ俺たち兄弟は1歳にもなっていないんですよ? 魔物だからと納得できる範疇を超えているんじゃありませんかね? これも【狼王の息子】の効果なのだろうか? それにしたって効果すさまじくないかね。いやまぁ成長を助けられているんだから文句はないけどさ。
「ふぃー…寒くなったなぁ」
「そうですなぁ」
吐息に白いものが混ざるようになった森の中でリンドと会話をかわす。狩りの最中だ。
ただし俺たちは手を出さない。配下の狼の後ろで見ているだけだ。ベテランと比較的若いのが混ざって鹿の魔物を追い詰めていっているのがここからよく見える。
キュォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
お、仕留めたな。今日の分はこれでおしまいか。さぁ撤収撤収。てっしゅー。
日々、とれる獲物が少なくなっていくが俺がフブキ姉さんにお願いして土を掘り返した中に氷と冷気を込めてもらい即席の冷蔵庫にしてもらっていた。そこに余った分の肉と果物などを入れて日持ちさせてある。今のところそれも尽きるようなことは起きていないから問題はない。たまにエクト兄さんがちょろまかしているけど。
すっかりサバイバル生活にも板がついてしまった。
ふと思いあげることがある。前世についてだ。おぼろげな記憶しかなく思い入れもそんなにない。だからなのかなんでこんな記憶があるのか不思議でならない。考えても答えは出ないがな。まぁその記憶で助かったこともあるんだから結果オーライでいいか。
「さぁ帰ろう」
「「「はいっ」」」
今の生活も悪くないんだ。楽しもうこの狼生。
*********
森の奥へと消えていく銀色の巨体を見送る者がいた。
「なんだあの狼……。あんなのが近くにいたのか……」
俺は体の震えを止めようと必死に手で押さえつけても意に反して止まらない。震えが茂みに伝わらないか気が気でならなかった。
いつの間にか息を止めていたみたいでぜぇはぁぜぇはぁと空気を求めて呼吸を繰り返す。
「つ、伝えないと……」
もう近くにはいないだろうがそれでも音をたてたらすぐに追いつかれそうな気がして何度も何度も背後を振り返りながらも慎重にその場を離れる。
俺が戻らねば、伝えねば都市は壊滅する! そんな使命感と共に森を駆ける。
*********
ここはとてつもなく広いラーテジア大陸のど真ん中から少し北西へと外れたところに位置するスートアの森がある。ただし中心地としての意味でだ。
東西へと渡って大樹がこれでもかっというほどに大陸をまたがって北と南を分断しているのだから。森が途切れているところは決まって砂漠か沼地か環境が厳しいところしかない。
ゆえに人外魔境。魔物の強さもピンからキリまであり、浅いところはそこまで危険ではないが深く入れば入るほど格が上がっていくと言われている。
そんな森であるが、開拓しようとしている国がある。名をディヘキア帝国。辺境に莫大な投資をし、城塞都市を築き上げる。それも複数に。
そのうちのひとつがウッペラという名の城塞都市だ。この都市の特徴はなんといってもスートアの森に近いことだろうか。門を出て1時間もせずに森の郊外部に着くのだ。他の都市はそこまで近くはない。防衛の面から見て危険すぎて距離を置かさざるを得ないのだ。
ではなぜこうも近いのか? 答えは森が迫ってきたから。そうスートアの森は年々拡張していっている。森が意思をもって広がっていこうとする動きのようにウッペラは森に飲み込まれようとしていた。
日々、木を切り倒してなんとかその侵略を水間際で食い止めている現状だ。ただ質のいい木がとれるのでそれが特産物となり木こりが張り切っているのはまた別の話。
森を開拓するにはどうしても立ちふさがる問題がある。そこに住まう魔物だ。魔物が数多くこちらへと襲い掛かるためなかなか進んでいない。幸いなことに浅いところはG~Dクラスの魔物しかいないため被害はさほどでもないが。
魔物を狩る役割は冒険者が担っている。質のいい素材が溢れているスートアの森に近いこのウッペラを拠点とする冒険者は多く、駆け出しからベテランまで幅広くいる。
そんなウッペラの冒険者相互支援協会……略して冒険者協会に駆け込む影があった。
バァンッ!
「ハァッハァッ…!」
乱暴に開かれた扉の蝶番が悲鳴を上げて中にいる人たちの視線を集めているにもかかわらずそれどころじゃない様子の青年がいた。
「た、大変だ!」
「どうしたゼノン。そんなに慌てて」
「あ、もしかしてお前がひそかに想っていた宿屋の娘さんが結婚したことか?」
「あーお前いなかったもんなあの時。残念だったなぁ」
「!? なんだと! い、いや、それも大事だがそれどころじゃねぇ!」
木のジョッキを片手にテーブルでたむろしていた冒険者が揶揄する。ゼノンと呼ばれた冒険者は一瞬娘のことについて詳しく聞きたくなったがそれどころじゃないのを思い出してぐっとこらえた。
「脅威度Cランク上位の魔物が浅いところに出てきた! もしかしたらBランクはいっている可能性がある!」
そう叫んだ。
とたんに協会の酒場はしんと水を打ったように静まった。隣にいるものと今のをどう思うと口々にすることで少しずつざわざわとしだした。
「本当だ! 依頼をこなしていたときに気配感知に反応があってそれが今まで感じたことないくらいに大きかったんだ! とっさに隠れて様子を見ていたんだが、見上げんばかりに大きい狼がいたんだ!」
ざわざわ……
「狼だと? ……確かにここんとこ見かけなくなったが」
「それでも見上げんばかり? そんなに大きいのがいるか?」
「ここらにそんなのいたか?」
疑いの声が多くあがる。それほどに浅いところでは今までにはなかったことだ。
「静まれ!」
シン…と誰もが口をつぐむ。声をあげたのがギルド長だからだ。
「こたびの真偽は調査で確かめる! これより緊急依頼を出す。それからでも遅くはない!」
こうして動き出す人間たち。衝突の時は近い――
伏線引きまくり。さぁ回収できるか作者の腕にかかる。
プレシャーに弱い作者は自分で胃を痛める←マテ




