彼が生まれた日
処女作になります。これから執筆の腕を鍛えていきたいと思います。よろしくお願いします。
意識が浮上する。息ができない。だが苦しくない。
?? なんだ? なにがどうなってる?
周りに意識を向けようとして気づく。目が見えない。
それだけじゃない。体も動かせない。
そんな状況であるのに不安がなかった。それは目が覚めてから感じてたぬくもりのおかげだ。
(状況は見えないが……とりあえずこのまま様子を見よう。それよりも眠い……。)
そのまま俺は意識を手放した。
******
もぞりもぞり……ズズン!ズブン!!
(!?)
異音…?と言っていいのか、ただ事じゃない振動に揺さぶられて意識が醒めた。
それと同時に強い力に引っ張られるようにしてぬくもりから追い出されそうになる。
(ぐぅっ!痛い痛い!頭がつぶれそうだ!どうなってるんだよ!!)
苦痛の時間はそんなに長くはなかった。
スポッと気の抜ける音と共にどこかへ放りだされたからだ。
(まぶ…しい? 外…なのか?)
何やら体がぬるぬるとしている。
気持ち悪さに体を捻っていると目の前にぬっと何かが出てきた。
それは狼だった。
(ぎゃぁぁぁぁぁああああ!!! ナンデナンデェ! 食べられちゃうの!? 誰か助けてぇぇぇ!)
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結論、食べられませんでした。
ぺろぺろ舐められました。あんなところやこんなところも。
どうもありがとうございました。母様。
どうやら俺は狼に生まれたようだ。
えーと、状況を整理しよう。
俺は日本人。その自覚がある。記憶は曖昧だが……。
ならば、もともとは人間だったと言えるだろう。だが体を見下ろせばぷりちーな前足。
持ち上げてみればぷにぷにとした肉球が見える。
……現実を受け入れるならば今は狼だ。いや自分で言っておいて頭がおかしいとしか言いようがないが現実だ。現実は常に厳しいって偉い人が言っていた。
冗談はさておき、母様から生れ落ちて3日経った。
俺は5兄弟の末っ子のようだ。まだみんなよちよち歩きである。無論、俺もだが。
これはあれだ。異世界転生ってやつだ。日本人の知識がそう言っている。
まさか人外転生することになるとは……。
「ご飯の時間よ」
おっと、母様が呼んでる。飯だ!飯!
俺たちは潜んでた草むらから飛び出して我先にとご飯に飛びつく。
ご飯は白目をむいていたイノシシだった。サイズがちょっとおかしいけど。
横たわっているイノシシは全長で三メートルはあるんじゃないか?っていうくらいの大きさだ。
まだ生まれたばかりの俺からすれば巨人みたいだ。
え? 生まれたばかりなのに食えるのかって?
それが生まれたときから牙が生えていて、最初に与えられたご飯はウサギだった。
おっと、兄弟ががっついている。早くしないとおいしいところをとられる!
それからは夢中になって食べていた。
げっぷ。ごちそうさまでした。
不思議なことに生で食うことに嫌悪感がなかった。むしろおいしいと感じている。
人としての常識は当てはまらないと考えたほうがよさそうだ。
「いっぱい食べて大きくなるのよ。私たちの子供」
「うまそうに食うな我が子らよ。たくさん食べ強くなるのだぞ」
母様と父様はこの森でとても強い部類に入るそうだ。
全長で四メートルは超えている。太陽の光を受けて銀色に光る艶のある毛が生えている。どんな獲物をも切り裂くするどい爪と牙。まさに獣の王。
そんな親であるからして、俺たち兄弟も体の大きさが普通の狼としてはおかしい。
生まれたてのときは50センチくらいのサイズだったが3日でもう一メートルは超えてる。成長が早いっていうレベルじゃない。
これはあれだな、魔獣と呼ばれる類だ。
さてこれからどうなることやら……。