第一島民
「やぁ、君が僕の後任の人だね?」
男性はおそらく60歳前後だろう。
白髪交じりの髪は短く整えられ、優しそうな顔をしているが警察の制服に身を包む体は鍛えられているのか、歳の衰えを感じられないほどがっちりしている。
そしてなにより、後ろに控える巨大なランドクルーザーが男性の迫力をかなり後押ししていた。
「はい。今年こちらの神納駐在所に配属となりました四条誠也巡査です。よろしくお願いします」
しかし、そんなことでたじろぐ俺ではない。
この3か月もっとやばそうなやつらと生活してきたのだ。
そう言い聞かせ、軽い挨拶とともに敬礼する。
そしてその様子を見てか男性がニコリとほほ笑む。
「そんな硬くならなくていいよ。僕はもう定年だからね。あっ、僕の名前は熊谷。熊谷克彦だ。こちらこそよろしく頼むよ」
そういって差し出された手を握る。
力強い、がっちりした大きな手は、しっかりと握りこまれた俺の手が一回りも二回りも小さく感じられるほどだった。
「うん、いい手をしてるね。さすが田島君が選んだだけのことがあるよ」
「え、田島教官のことをご存じなんですか?」
出てきた意外な人物に、思わず尋ねる。
田島教官とは俺の警察学校時代の教官であり、俺をこの神納駐在所に誘った張本人である。
「あぁ、田島君もここで数か月、僕のもとで勤務していたからね。謂わば教え子だよ」
初耳である。
けれど、教官もここにいたとなるなら、なぜここを誘ったのかにも納得がいく。
しかし、それがわかったところでまだ疑問点は…。
「うん、その様子じゃ田島君からは何も聞かされてないんだろうね」
そんな俺を察してか、熊谷さんが俺に聞いてくる。
「はい。この島の大まかなことと、駐在するにあたっての注意点くらいしか…」
そう、俺が聞いたのはそれだけ。
結局それ以外は全く聞かされてないのだ。
「うーん、こればっかりはしっかりと説明するように言ったはずなんだがねぇ…。まぁ仕方ない、駐在所まで送るから、説明は車の中でしようか」
そういって熊谷さんはランクルへと歩き出す。
…任官初日。不安が期待を上回ってきたとことで、俺は駐在所へと向かうのであった。
ランクルいいよね。
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