銀②
幾月か経ち、ひなの時と比べて体格がほかの兄弟より大きくなってきた頃。
私はこの森の管理の任を任されていました。
「ほかの者より頭が切れ、なおかつ豊富な知識を持つからこそお前を選んだのだ」と、長老は森の動物達が集う集会でおっしゃいました。任されたからには最善を尽くそうと思いました。
現状のこの森の問題点は、『木の管理』でしょう。
はっきり言って、今のここはひどい状況です。草木は伸び放題で、住むには少々手間がかかる。だからと言って、長老たちにはどこをどう切り落とし、手入れすればいいかなんてわかりっこないのでしょう。
まあ私にはだいたい分かるのですが。
私は、物の本質を見極めることができます。木がどのように生き、どこが余分なところなのか、という事がわかるので、的確に指示ができるのです。
なぜ、そんな能力を持つようになったのか。
いつからそんな事ができるようになったのか。
それは私にも分かりません。しかし、何故かそれが出来ると思ったのです。不思議ですが、今はそれに感謝しかありません。なぜなら、その能力のおかげで森を助けることが出来ると思ったからです。
まとめ役になった私は、まず森の全体の把握から始めました。
この森は広く、とても細部まで見回ることは出来ません。動物の数も多く、普通これを管理すると言ったら、無理と言わざる終えません。
しかし、私には普通とは違い能力があります。
これで、森の現状や、解決策を見極めてやろう!
と意気込み、空へ飛び立ちました。
そこまでは良かったのですが、この森は広大すぎました。上空まで飛び立ち、森に向けて能力を使った瞬間、私は意識を失ってしまったのです。
目が覚め、一番最初に目に入ってきたのは生い茂る葉っぱでした。地面まで落ちた私は仰向けになって倒れていたようです。昔は地面に横たわると、葉々の隙間から青い空が見え、心安らぐ心地だったと誰かが言っていました。しかし今は木々が自己主張し過ぎて、風景のバランスが崩れています。早くなんとかしなければと、心から感じました。
どうやら能力の過剰使用で意識を失ってしまったようですが、これのおかげで1つ分かったことがあります。どうやらこの森は、昔管理者が居たようです。今は使われていないみたいですが、全体に渡って張り巡らせているエネルギーの管のようなものが見えました。これを使えば管理ができそうです。
意識を失ってからはや3日。私は寝床で考えにふけっていました。どう考えてもあのエネルギーに管の使い方が分からないのです。
能力を使っても、使い道は分かりますが、何故か使い方が分かりません。長老にも早くこの森を整えろと言われていますから、のんびり構えている場合ではありません。
長老はこの森の長のような物で、実質のまとめ役は私ではなく長老になります。私はそれの補佐のようなものでしょうか。
その状況も相まってか、外で降っている雨が私をあざ笑っているかのように見えました。
その時でした。また頭が痛くなるような問題が舞い込んできたのは。
1匹の住人が駆け込んできて、森の中央のくぼみに水が溜まってきてしまっていると報告があがってきたのです。
早く駆けつけたい気持ちを抑えて、雨が止むのを待ち、やんだと思った瞬間に中央へ確認に行きました。
森の中央のくぼみ。それは森に張り巡らされている例の管が集まっている場所だったからです。これから管理に重要になってくるであろう場所に水が溜まってしまっては、今後の活動に支障が出てしまいます。
どうか何事もないように、と祈りながら駆けつけた私はその場に崩れ落ちてしまいました。
いままでとても大きな窪みがあったそこには、水がぎりぎりまで溜まっていたからです。それはまるで湖のようで、もう中央のそこには行けないでしょう。
ここは森であり、水に適用した動物は残念ながら少ないです。エネルギーの管について調査するのは不可能に近いでしょう。
エネルギーの管を使って管理するという私の方針は、自然の脅威によりくずれ去ってしまったのです。
森の管理をするのは地道に木を切るしかないと、長老に報告すると、長老は『期待していたのにとんだ無駄足だったか』と私を見放しました。
自分の任務を十分に果たせなかったと落ち込んでいる時に、森の仲間達は私を励ましてくれました。
『あんなやつのいうことなんか間に受けるな』と、兄弟も労ってくれました。
あんなやつと、長老の事を兄弟は言っていますが、実際、森のみんなも長老にいい印象を持っていません。
それも関係してか、みんなは何かあった時、必ず私に報告してくれます。長老以外は、皆心の優しい住人達なのです。
毎日の報告を、パトロールの途中で聞いていた時、報告の中に中央の窪みのまた中央に、何かが生えている、という報告がありました。
急いで駆けつけてみると、そこには小さな若木が水の中に生えていました。その時はただ水の中にある変な木という印象しかなく、特に気にとりとめもしなかったのですが、異常なスピードで成長していくそれには、興味を抱かざる終えませんでした。
森の会議で、それの対処を話し合いましたが、放置ということになりました。森に生えている無数の樹木も管理できないのに、大きい木をどうにかするという選択肢は残っていないのです。