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今回は銀さんの視点です。

私の記憶は、小さな巣でお腹をすかしている頃から始まっています。


本来、鳥はそんなに賢い動物ではなく、1ヶ月前の記憶など忘れてしまう程です。しかし、私は長い間、1度体験したことを忘れた事はありません。


なぜそんなに頭が良くなったのか、それは巣での出来事に関係があります。




生まれてまもないある日、私は兄弟との餌争争奪合戦に負けてしまい、餌にありつけませんでした。


今考えると、あの時には既に森が死んでいて、餌となる物が少なくなっていたのでしょう。

まあ、そんな事は当時の私は知るはずもなく、お腹をすかしながらただ周りの風景を見ていたのです。


そんな時だったからでしょう。巣に張り付けられていた、少し欠けた枯葉が食べれるように思えてしまいました。


早速近づき、口を開け、がぶりと齧り付きました。

瞬間、思考が一気にクリアになり、周りの様々な情報が頭に入ってきました。いままで、ただなんとなくで過ごしていたものが、考えて行動できるようになったのです。私に知が灯った瞬間でした。


小川のせせらぎが聞こえ、は同士が擦れる音が聞こえます。空は青く、木々の緑は私の目に豊かさを与えてくれました。この素晴らしい世界に感動したものです。




またしばらく経ったある日、私の巣は天敵に襲われました。まだ成長しきっていない雛たちをその長い胴体で襲うのは、蛇です。


急に下からにゅっと顔を出し、品定めをするあの目には心の底から震えが飛び出ます。


いくら深い思考ができるようになったからと言っても、その体はただの雛。経験も浅く、いい案が出るはずもなく、ただ隅で震えているだけしか出来ませんでした。


天敵は、1匹の兄弟に狙いを定めると、大きな口を開け、丸呑みしました。1匹食べ終わったそれは、長い舌を出し入れしながら、全員を見渡します。


恐怖で固まっていると、蛇と目が合ってしまいました。その目は既に恐怖の存在でしかなく、全力で逃げようとしますが、体の震えでその場から1ミリも動くことができませんでした。


(ああ、このまま食べられて終わるのか)


そう諦めに入ったとき、奇跡は起きました。


突然突風が吹き、巣の周りを回り始めたのです。

最初、この風も自分たちを殺しに来ているのかと、恐怖しましたが、私達には一切影響がありませんでした。


しかし蛇は違います。その長い図体は、巣の外まではみ出し、突風に見事に巻き込まれました。





急に現れた突風に蛇は吹っ飛ばされ、私たちの巣にはまた平穏が訪れました。


度々起こる、今回のような出来事にも、その突風は吹き、私たちを助けてくれました。神様が見守ってくれているようで、嬉しい限りでした。








日々を過ごし、巣が手狭になってきた頃。とうとう巣立ちの日がやってきました。兄弟が次々に巣立っていく中、私は最後まで思考にふけっていました。



ここまで思考ができるのは、そこにまだ張ってある枯葉を食べたからです。この枯葉がどんなものなのかは分かりませんが、1つ、取り込んだものをそれとは別の何かにしてしまうんだと理解しました。


おそらく、もう私は鳥ではないなにかです。しかしそんな事はほんの些細なことだと思いました。だってこれだけ日々の生活が楽しいのですから。本能で生きてきた私にとって、『理性的に生きる』という事はとても新鮮なことに思えたのです。

餌の取り合いにしかり、天敵の対処にしかり。


もし、この頭がなければ、体の小さい私は餌にたどり着けず衰弱していたでしょう。

もし、この頭がなければ、天敵が来た時にただパニックを起こし、突然の突風にも身を縮こまらせることしかできなかったでしょう。


それだけの事を与えてくれたあの枯葉には、感謝の二文字以外はありません。




そんな事を考えているうちに、とうとう自分の番が来てしまいました。目線で枯葉に感謝の意を伝えてから、巣から転げ落ちます。


なんとか翼をはためかせ、空に飛び上がりました。この時の快感は忘れられません。体に当たる風が、視界いっぱいに広がる緑や青が、私に新たな世界を教えてくれました。








そんなこんなで私、銀の年少時代は終わりました。

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