芽吹き
____くそっなんだこの状況は
枯葉だったものはいま、混乱の中にいる。
周りを見ても水、水、水。どうやら水中にいるようだ。水面からは日光が降り注ぎ、光のカーテンが出来上がっている。
そう、周りを見れるのだ。枯葉だった頃は視界が固定されており、風にあおられている時しか周りの状況を把握できなかったくせに、今は視界を動かすことが出来る。しかも全方位。まあ周りはすべて水なんだが。
自分を見れば、茶色い、茎のようなものが見受けられる。自分は木になったようだ。先っちょは水から出ているようで、空気を吸っていることがわかる。
全長は……だいたい5mくらいだろうか。目覚めて最初から5mという事はどこまで大きくなるのだろう?
まあそう深く考えず、この日は眠りについた。目覚めて間もないので、あまり頭を働かせたくなかったのだ。
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この体になって2回目の満月を見る。そう、いまは夜だ。星空がほんとに綺麗で、こう、、、綺麗だった。語彙力なぞ木にあると思わないで欲しい。混乱は随分収まっていて、今のように空を見る余裕があるくらいである。
ちなみに今の全長は10mくらいだ。えらく成長のスピードが早い。この世界ではこれが普通なのだろうか。いや、ほかの木を見る限り違うな。さて、自分が異常なのか、この場所が異常なのか。自分は限りなく後者だと思っている。まあ、なんか不思議な力を感じるから、というふわっとした理由なんだが。
____しっかし、荒れてるなぁ
この森も、人の手が入らなくなって随分経っているのだろう。あちこちで枯れている木が見受けられる。木々の生存競争に負けてしまった木だろうか。
自分が枯葉だった時に見た時は何も感じなかったくせに、同類になってから寂しく感じるようになってきた。やはり同種が死んでしまうのは、心に来るものがある。
____この森をどうにかこうにか再生出来ないものか……
無理をして、体を動かしてみる。が、頑張っても1時間に0.5cmほどしか進まない。どうやら長い目で、この森の復興を考えなければならないようだ。
とりあえず枝を伸ばしてみよう。なにかできるかもしれない。
◆
この森の管理を志してから、はや1ヶ月。枝を伸ばすのは諦め、根を伸ばすことにした。何故かというと、枝を伸ばしても何の助けにもならないのと、枝を伸ばしても自分自身の幹自体が伸びてしまうので、結果森にいつまでたっても届かない、という事がわかったからだ。……昨日に。
もっと早く気づけよ!と言いたいのはよくわかる。よーくわかるのだが、なんせ自分は木だ。長い年月を生き、ゆっくりと成長するのだ。人間と時間の感じ方がまず違う。木にとっては昨日のことなど"さっき"なのだ。……すいません言い訳です。
閑話休題。
根を伸ばすことにした理由は、何のこともない、ただ木の中で一番敏感な所だからだ。栄養や、水をすっている場所なだけあって、土の様子や、当たったものが何かまでわかる。多分、基本的な木には視力、聴力などがないはずなので、根が触覚のような役割を果たしているのではないだろうか。
それから、根を使って木に与える養分や水の量などを調節すれば、木の間引き(成長の抑制)をすることができるのではと、推測したためでもある。
____さあ、また根を伸ばし木々にたどり着くまでの長い間、何をしてようかな!暇だ!
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今日は少し曇っているがいい天気だ。その雲のおかげで日光が時たま遮られ、いい塩梅の気温になっている。
そして、すぐ下にある広大な水たまり……もとい湖のおかげでさらに涼しくなっている。これに風鈴の音でもあったらさぞ最高だっただろう。
それはさておき、今日も今日とて根を伸ばしている最中だ。無駄に大きい湖のおかげで、木々が生えているところまでが遠い。が、それも半分のところまで来た。
半分のところまで行く間に、小鳥のさえずりの解読や、森の中の観察、湖の研究などをしてきた。暇だったからな。
おかげで鳥の会話は少しわかるようになり、森に生えている木の種類や、何が一番生存競争に負けていそうか、などの今後に必要になるだろう知識を得ることが出来た。
長い時間があるという事は、そのぶん色々なことができるということであり、案外暇な時間は無かったかもしれない。
そしていま、まさにやっているのは、この真下にある湖の研究である。何故かは知らないが、自分の真下に湧き出るポイントがあり、三方に川が流れ出ている。
今のところ分かっているのは、淡水であること、魚の類いはいないこと、そして一番重要なのがこの中にいる生き物は総じて巨大になっているということだ。
水上に浮く蓮の葉を見ればよくわかるだろうが、通常の3倍はある。おそらく自分がここまで大きく成長しているのと関係があるのだろう。




