晴れ、だいたい雨。
暇な月日が流れる。ある日、急に突風が吹いた。
____またどこかに行けるかもしれない
風は自分の行動に必要不可欠なものだ。風により移動し、風により視界を動かす。
風には感謝しなければならないかもしれない。ありがとう。
巣に張り付いていた枯葉は、時間がたっていたからか、付きが甘くなっていた。そのため、風によって巣から離れることが出来た。
久しぶりの視界の回転。体が普通じゃないからしらないが、目を回した事は今のところない。
風というものは気まぐれだ。人の思惑のはとらわれず、自由に移動する。
今回も、そんな存在に振り回され、着いたのが森の反対側。自分が来た方向とはおそらく逆の森だ。鳥に運ばれていたからよくわからないが、ちょうど真逆だろう。
森の様子はあまり元の場所とは変わらない。木々は鬱蒼と生え、上から見ると、緑の雲海のようだ。
そんなところに、2人の人間がいた。森の少し開けたところにいるのだが、見る限り近くに村はない。
風が弱まり、ひらひらと人間に近寄っていく。
「いいか。刀は筋をたてて切らなければならない。ぶれた剣筋では、いくらいい業物でも性能を引き出せないんだ。」
「剣筋?」
刀を素振りしながら、説明をしているのは、ガッチリとした体型の黒髪の男。それに対して、首を傾げながら質問しているのは、同じく黒髪の小さな女の子だった。その子は男が振っている刀を熱心に見つめている。
「ああ。刀を振った時の軌道だよ。あー…えっと、通り道?まあとりあえずまっすぐ振ればいいんだよ。」
軌道という単語がわからなかったのか、さらに首を傾けさせた女の子に、男は頭を掻きながら説明した。
「まあ見るのが一番早いか。」
そう言うと、足元にある落ち葉を一つ拾い空に投げあげる。そして、刀を腰に当て体勢を落とすと、真っ直ぐ横に振り抜いた。
「うわぁー」
刀によって切られた落ち葉は、空中で真っ二つになる。それは1ミリもブレのない、もはや達人の域に入る太刀筋を表すものだった。
「どうだ。すごいだろ。」
「うん!」
キラキラした目で見つめられた男は、満足そうに頷いた。
「よし!じゃあお前もやってみろ。」
そう言われた女の子は、あたりをキョロキョロと見渡すと、ひらひらと舞っている一つの枯葉に目をつけた。
「よし…...」
男と同じように腰に身の丈もある刀を当て、しっかりと狙いを定める。その目は真っ直ぐ枯葉を射抜いていた。
____えっ...…もしかして自分狙ってます?
女の子は、そのまま刀を振り抜いた。
しかし、丈に合わない得物で正確に振ることが出来るはずもなく、その太刀筋は決して褒められるものではなかった。
____うわっ!
当然、刀が通った時に生じた風によって、スルリと躱されてしまう。
当てられなかったことに不満を持った女の子は、これでもかというほどめちゃくちゃに振り始める。
____ちょい!ほい!へい!うわっ!
「ちょっと掠った!」
「こらこら。刀はそんなに振り回すものじゃないよ」
力任せに刀を振り、汗だくになった女の子をみて、男は苦笑する。
だが、にへへと笑う女の子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
女の子に甘いようだ。
「そろそろ家に戻るぞ」
「はーい」
女の子は地面に落ちた憎き枯葉を最後に刀で一刺しすると、とてとてと男のところへ駆けていった。
____なんだ.....意識が...…
一方、枯葉の方はといえば、最後の一突きで重症を負っていた。自分の本体に穴が空いたのもあるが、それだけでこんなに意識が薄くはならないだろう。
そういえば、刀が刺さった時に急激に力が抜けていったかもしれない。
「あれ?なんかこの剣光ってる……それになんか体が軽いなぁ」
「どうした?早く家に帰らないとお母さんに怒られるぞ」
「……うん!(なんなんだろう?)」
____やばい、意識がーーー
何故か力を失い、意識が朦朧としている枯葉は、またもや風に流されていた。
しかし、その舞い方は、この前にひらひらとしたものではなく、どこか重そうな雰囲気が感じられる。
たどり着いた先は森の中央にある、木々が生えてない、少し窪みとなっているところだった。
ここは、落ちた自分以外に生き物の気配が全くしない、不思議な空間だ。まるで、その空間に入るのに遠慮しているようなーーー
そこまで考えたところで、枯葉は完全に意識を手放した。
◆
枯葉が意識を失った直後、風の流れが早かった空が黒い雲に覆われ、激しい雨が振り始めた。
三日三晩振り続けた雨は、今までの鬱憤を晴らすようにとてつもなく、森の中にあった窪みには水が溜まるほどだった。
嵐は過ぎ、空は雲一つない快晴。木々は葉に水を滴らせ、鳥は空を飛び交っている。なりを潜めていた小動物は活発に活動し始め、濁流となっていた川は本来の姿を取り戻す。
森の中央には澄んだ水による湖が出来ており、森に潤いを与えていた。その湖には水が湧き出る場所が存在し、湖を一定の水位に保っている。湖から流れ出る川は森を抜け、早速人々の生活用水として重宝されていることだろう。
そんなオアシスとも言える湖の中央に、ひとつ飛び出る木の芽があった。その場所は、水が湧き出ている場所であり、枯葉がその身を置いたところでもあった。




