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思い込み

トコトコと森の中を当てもなく歩く。今日はやることもなく、いい天気だ。この清々しい快晴はこの前の大雨の反動だろうか。


「あれ、スン。何してるんだ?」


急に声を掛けられ振り返ると、そこには犬がいた。


真っ黒の体毛に金色の双眼。喋る時にちらりと見える歯は、まるで刃のように鋭い。


「やっほーガグ。今日は犬なんだね」


「犬じゃない狼だ。なんかい言ったらわかる」


「ごめんごめん。今は散歩中だよ。ガグは?」


「俺は神社にお祈りしに行くところだ」


「でもその格好で?」


「いや、お祈りする時は人間の形をとるさ。ただ森を進む時はこっちの方が楽ってだけだ」


「へー。」


「時間もない。俺は神社に向かわせてもらう」


ガグマイクはスンに背中を向け、神社の方向へ進もうとする。しかし、そこでスンが待ったをかけた。


「ちょっと待って」


「なんだ」


「スンも行く。……いよいっしょっと」


スンはトコトコとガグマイクに近づくと、その背中に乗った。急に乗られたガグマイクは慌てる。


「お、おい。……はぁ、しっかり捕まってろよ」


「あいあいさー。」


2人は朝早く森の中心に向かって進んでいく。










大きな木は今日も湖の中心に佇んでいる。無数に生い茂る枝の一つに銀色の鳥が止まっていた。


「今日もいい天気ですね」


その鳥はそばに誰もいないのにも関わらず、まるで知り合いがいるかのように話しかける。傍から見たら、頭がおかしくなったと思われてもおかしくはないだろう。


____まあ、もうあんな大雨は勘弁だね。水滴が葉について鬱陶しいったらありゃしない


しかし、それに返事をするげんなりとした音無き声があった。その発生源は銀が止まっている大木──枯葉であった。


「残念ながらあれはだいたい2年間に1度来るんですよね。まあ雨が来る前に雲吹っ飛ばせばいいと思いますが」


____ま、まあそうだね。……あ、誰か来たみたいだよ?


なんとも力任せな解決方法に若干引き気味だった枯葉は、地面に張り巡らせた根から何かが土を踏みしめる振動を感じ取った。


「そうですか。じゃあ話はやめた方がいいですね」


枯葉の声は本質を見極める力を持っている銀以外には聞こえない。ここで話していたらただの精神異常者である。



しばらくすると、木々の合間からその人物は出てくる。


____犬!?


「犬じゃねぇよ!狼だ!」


「ん?誰に向かって言ってるのガグマイク?」


「…わかんねえ。なんか言わないといけないと思ってな」


賑やかに話しながら出てきたのは、ガグマイクとその背中に乗るスンであった。


____ねぇ、ガグマイクって人の形してなかったっけ?


枯葉は犬の姿のガグマイクに疑問を覚え、銀に小声で尋ねる。実際、大声で喋っても銀以外には聞こえないので意味は無いのだが、そこら辺は気分だ。


「一応昇華した者なので人の形も取れる、と言うだけで、本来の姿はあちらの方ですよ」


一方、銀は普通の声であるためしっかりと小声で話す。


____昇華?


「それはですね、一定の「おいそこの鳥!」……後にしましょう」


枯葉の質問に答えようとした銀だったが、大きな声に遮られる。苦々しい表情で会話を切り上げた彼女は、声がした方向へ向き直った。


「なんでしょうか」


「お前、長老の腰巾着のくせに御神木様にやすやすと止まってんじゃねぇよ。どっか行け」


ガグマイクは普段から鋭い双眸をさらに鋭くさせ銀を睨む。グルルと唸っているその体躯は今にでも飛びかかりそうで、その迫力に枯葉の中から本来出ないはずの冷や汗が飛び出したかのように錯覚する。


「なんか御神木様って意味かぶってませんか?」


もし枯葉が睨まれている対象だとしたら、どんなに理由が理不尽でもすぐさま土下座をするだろう。しかし、当の本人である銀はそんなものはないかのように皮肉を返した。


「はっ。それだけ尊敬してるってことだ。そんなことより早くそこから退け」


ガグマイクの眼力が増す。


「はいはい。……では説明は後日に」


____は、はい


銀はそれだけ枯葉に言うとガグマイクに睨まれながら飛び立っていった。


「ちっ」


「あははは……」


銀が見えなくなると、ガグマイクは改めて神社に向かう。上に乗っているスンは苦笑いである。








(とんでもない場所だった……)


一方、このやりとりを見ていた枯葉は戦慄を覚えていた。


ここに来てだいぶ年月がたっているが、今までなんの危険もなく過ごしてきた。なんとなくで能力の使い方を覚え、なんとなくで森の管理を受け持ってしまった。口ではあれだけ見えを張っていたが、実は覚悟が足りなかったのかもしれない。


先ほどのいざこざで、枯葉はすっかり自信を無くしていた。あれだけの迫力を出すガグマイクについていける気がしない。それに平気で皮肉を返す銀も銀だ。こんな自分が守るようなところではないのかもしれない。ましてやそういう人達が敵だと定める者が自分の手に終える気がしない。


一つ、枯葉は決めた。


どんなに周りが好戦的でも、平和に生きていこうとーーー

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