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大雨

____すごい雨だな


バケツをひっくり返したような大雨。いや、湯船をひっくり返したような大雨だった。湖があふれそうで怖い。唯一の救いは神社が割と頑丈だったことか。


「ほんと。倉庫作っておいて良かったですよ」


銀は降り注ぐ膨大な量の水を眺めながら言った。

今までは土の中や、普通に地面の上に持っていたそうだからこんな雨が降ったらひとたまりなかっただろう。


____まあ神社だけどね


間違ってはいけない。あれは神社で副次的な扱いで倉庫代わりになっているだけなのだ。









____いや降りすぎでしょ


こんな雨でも恵みの雨だと思えばなんてことないと思っていた。でも、一週間も続くなんて聞いていない。


未だに初期と変わらない勢いで振り続ける大雨。まるで自然の脅威に逆らえない自分たちを嘲笑っているような大雨。


この前までしっかりと積まれてあった落ち葉は、もうすっかりバラけてまた集め直さなければならないらしい。


目の前には、この大雨にまいった動物達が神社の前に集まり始めていた。


「どうか天の怒りを沈めてください」


動物達を代表してか、ガグマイクが神社で祈っている。これはなんとかしなければ。


1度神様として立場を設けたなら、加護下の動物達の懇願は受け入れなければならないだろう。


____どうすればいい?


だが枯葉にどうすればいいかわかる脳はなかった。最後の望みをかけて、神社の下で雨やどりしている銀に声をかけてみる。


「知りませんよそんなこと」


うーん。やっぱりダメか。雨なんて自然現象だし、一介の木がなんとか出来るはずもないんだけどなぁ。


「……あなたの能力でこの雨吹き飛ばしてみたらいいんじゃないんですか?」


投げやりな口調で一応案を出してくれた。

しかし銀に似合わず強引な手口だな。そもそも雨を吹き飛ばしたからってまたすぐ雨が降って……こない!


そうか、雲ごと吹き飛ばしちゃえばいいんだ。なんでこんな簡単なこと思いつかなかったんだろう。


____行けるかもしれない


「えっ?こんな案、出来ると思ってなかったんですが」


____まあ任せておいてよ


ふっふっふ。やっと神様らしいことが出来る。


枯葉は深呼吸すると、視界の中央にこの雨の元凶である雲を捉える。


いつもやっているように、落ち葉を動かすように、ただ目標を雲に変えるだけ。そう心の中で唱えながら能力を発動させる。


……しかしまだ水が葉に当たる音は健在であった。


____能力が発動しない……?


「大丈夫ですかー?」


____あーだいじょーぶー


枯葉は内面焦っていた。あれだけ偉そうに任せておいてよなんて言ったくせに、出来ないとなると面子が丸つぶれである。


(落ち着け、原因はなんだ?)


いつもと今の違いはなんだ。ものの大きさか?いや違う。動かすのはいつもと同じ空気だ。じゃあ空気が違う?……謎すぎて分からないから違うと信じたい。じゃあ距離か?いつもとだいぶ距離が離れた場所の空気を動かそうとしているから、そうかもしれない。じゃあ距離を縮めたらいいんだな。なんだ簡単じゃないか。はっはっはー。




動けねぇじゃん。



動きたいなぁ。ちょっと銀に方法がないか聞いてみるか。


____あのー銀さん。あの雲にぼくが近づく方法ってないですかね?


「はっ?あなたほぼ雲に接触しているようなものでしょうに」


銀の顔は何言っちゃってんのこの人と言わんばかりだ。


どういうことだ?ぼくが雲に触っている?そんな馬鹿な。それじゃあぼくが雲に触れるほど背が高いってことになるじゃないかー。


チラッ


ちょっと上を見てみる。自分の葉は、自分の元から天高くまで途切れることは無い。ようするに雲より高いってことだ。


……そうだった。ぼく他に類を見ない大樹だった。じゃあ意識をもっと上に持っていけば雲も動かせるってことか。


その通りにやると、予想どおり視界は上がっていった。いま雲の位置は下にある。そして雲の上であるここは雨が降っていない。サンサン照りの晴天である。自分のエネルギーはここで作っているんだろうなーとふと思った。いやいやそんな暇はない。早くこの雲をどかさなければ。


枯葉はゆっくり深呼吸をすると目の前の雲に集中した。









「大丈夫ですかね」


銀は神社で雨やどりをしながら空を眺めていた。雨が病む気配はない。


「大丈夫だよ。前の一ヶ月くらい続いた大雨だってなんとかなったし、2回目の土砂降りもなんとか凌げたじゃん。しかもこの森は神様とか言うやつに守られてるんでしょ?」


隣にいたスンは畳の上に寝転ぶと暇だと言わんばかりの大きなあくびをした。


「……そうですね」


銀は枯葉のことを心配したのだが、スンは森の事だと思ったらしい。まあ枯葉を知らない彼女には無理もないことだ。



日が差す。


はっとした銀は慌ててスンに向けていた視線を空に戻した。そこには僅かではあるが雲の間にはっきりと切れ込みがあり、日が顔を出していた。

その切れ込みはだんだん大きく、地面を照らす光の範囲も広くなっていく。


やがて、空にあれだけ蔓延っていた黒は跡形もなくなり、綺麗な青が広がった。どうだまいったかと、枯葉の声が聞こえた気がした。




____どうだまいったか


「あ、実際に言っちゃうんですね」

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