能力
ガグマイクは混乱していた。神様なんていないと思っていた。この木はただの植物だと思っていた。しかし目の前の出来事がそれを否定してくる。神は実在していたと、心の底から信じそうになった。
「いやいや、ただの風が運良くこうなっただけかもしれない」
しかし、彼はその考えを捨てる。今までどんなに森が危機に陥っても誰も助けてくれなかった。どんなに頑張っても誰も手を差し伸べてくれなかった。神はいない。そう信じたかった。
「なっ……」
しかしまたしても不可思議な現象は起きてしまった。
集まった落ち葉などが鳥を形取り、空の彼方へ飛んでいってしまったのだ。いよいよ偶然では片付けられなくなってしまった。
(神は……いたのか。自ら進んでゴミ掃除をし、さらに美しさも見せてくれた神に俺はなんて無礼な態度を……)
ガグマイクは恐る恐る落ち葉が溜まっていた場所へ訪れた。しかし、そこにはもう何も無い。
「ああ、神様。この森をお守りください」
彼はそう大樹に向かって祈りを捧げた。
―――――――――
時は少し巻き戻り、ガグマイクが観察をしている時。
____だいたい落ち葉は集め終わったかな
目の前には落ち葉が山積みになって置いてある。それを見て満足した枯葉は次の段階へ進む。
____ならばもっと精密に空気を制御して……
枯葉が念じ始めると、集まっていた落ち葉がゆっくりと鳥の形になっていく。周りの空気を細かく操作し、一つの形を作っているのだ。
最初の方では綺麗な球体を作るのもままならなかったが、今では動物の形をとることもできるようになっていた。
鳥の形にした落ち葉は羽ばたくようにその場から浮き上がり、事前に銀と決めていた場所へ飛んでいく。
____だいぶ能力の制御もうまくなってきたな
しばらく続け、すべての落ち葉が運び終わる。枯葉は満足してまた空の観察でもしようかなどと考えていると、1人の男が目の前に出てきた。
犬の耳をつけていて目つきが鋭い男なのだが、どうも様子がおかしい。どう見ても目の焦点が合っていない。
その男はゆっくりとこちらを振り返ると口を開けた。
「ああ、神様。この森をお守りください」
____……ちょぉぉぉっとまってぇ?なに?今の見られてた感じ?そしてなんか崇拝されてる感じ?
どう見ても神様信じねぇぜみたいな顔の人に崇拝の眼差しを向けられ、枯葉は混乱のド真ん中に突き落とされた。
____おかしいな。銀は能力を持ってるし、僕も持ってるんだから能力持ちが普通だと思ってたんだけど……あとで銀に聞いてみるか。
「ああ、私、能力持ってること皆には言ってませんよ?唯一知っているのはあなただけです」
____ええええぇぇぇぇぇぇ!!!
あっけなく言ってのける銀に驚くしかない枯葉。
どうやらまだ能力を持ったほかの人には会ったことが無いらしい。能力持ちというのはとても珍しいのだろうか。
「たぶんあなたの言っている男というのはガグマイクという森のリーダーの1人ですね。あの人は無駄に意地っ張りなのと思い込みが激しいので注意が必要な人物です。……なんかあったんですか?」
なにか疑うような声色で言ってくる銀に、笑うことしか出来ない。
____いやあ。能力を使っているところを見られまして。
「ああ、そんなことですか。ならいっそ神様として堂々と過ごせばいいじゃないですか。まあ既にあなたはこの森の神様みたいなものっていう立ち位置ですが」
飄々と言ってのける銀。なにかこのごろの銀は達観しているように見える。
「単に想定内ってだけですよ」
____恐ろしい子っ!
「では、私はあなたが神様として崇拝されるように宣伝してきますね」
枯葉はため息しか出ない。
銀は飛び出したあとすぐに、爆弾発言を残していった。
「ああ、これでなにかあっても神様に押し付けられますね」
____おおおおおおうういいいいい!!
雲8割の天気の中、時はゆっくりと流れていく。