森
ここらで、少し森の状態について説明しよう。
森の中枢には全員のまとめ役である長老がおり、その下に2匹のリーダー(スン、ガグマイク)がおり、またその下に多くの動物がいる構図になっている。
下につくと言っても、滅多に命令などがされることは無い。基本、皆自由に動いている。
銀の立場としては、長老の補佐のような立ち位置であり、誰かに命令する権限はない。ただ、長老の意向で会議に出席しているだけだ。その本人は非常にめんどくさがっているが。
命令する権限のない当の本人、銀は、当然1人で大樹の守りにあたっていた。
「絶対守りなんて必要ないですよね」
____まあ確かに。ぼくを害すものなんているのかね?
雲3割の晴れと言える天気の中、眼下に広がるのは緑一面の平和な景色。どこにもそんなことを考えそうな原因はない。
____危険が無くとも能力の鍛錬は欠かさないけどね
危険がないのに能力の練習をするのは、ただ使ってみたいという一心からであった。
「まあ、空気の流れを操るぐらいならすぐ出来るようになるんじゃないですか?」
____だったらいいんだけどねぇ
この日もゆったりとした時間が過ぎていく。
____おーい、聞こえるー?
枯葉は、自分の枝の上で横になっている人物に話しかける……が、返事はない。
「はぁ、ひまだなー」
それどころか、声自体を無視したかのように独り言を呟くほどだ。しかしそれは仕方が無いこと。枯葉の声を聞くことは、本質を見極める能力をどうにかして使い声を聞いている、銀にしかできない事なのだから。
横になっている人物はリスの特徴を捉えた人間のような格好をしていた。スンである。
しかし枯葉にとって、スンは初めて見る人物であった。
____銀が次の日に来るって言ってた人かな。でもどう見ても子供なんだよなぁ
子供のように見える者が実はこの森のリーダーの一角であることなど知る由もない。
「えいっ」
____いった!!
急にスンは近くにあった枯葉の枝を折る。一応痛覚はあるらしく、骨が折られた程度の痛みが走った。
「ふふふっ。神様の一部もらっちゃったっ。どうせなにもいわないしだれもみてないし、ばれないばれない」
____いてぇよ!!超いてぇよ!!何がバレないだよ!ばりばり見えてるんですけど!?……後で銀にチクってやる……くっそぉいてぇ
枝をポケットにいれ、するすると木から降りたスンはそのまま森の中に消えていった。
____あれ?あの子どこに枝しまったんだ?どう考えてもポッケに入りそうな大きさじゃなかったと思うんだけど……
雲6割ほどの天気の中、平和な日々は続いていく。
「気に食わねぇ。」
まだあたりはひんやりとしており、葉に朝露が出ている朝早く、ガグマイクはズカズカと中央の大木に向かって進んでいた。今日は彼が監視の当番である。
しばらく歩き、大木を囲む大きな湖を前にしたガグマイクは、一つ、嘆息した。
「とりあえず、こいつを排除する方法を探す」
自らの目的のため、ガグマイクは作業を進める。
____今日はだれも来ないのかな
一昨日は銀が、昨日は小さい子供が来た。今日も誰かが来るのではないかと思っていた枯葉は、少し拍子抜けした。銀が来るならいいのだが、昨日の子供のようになにかしてくる人かもしれないので、少し心構えていたのだ。
しかし、予想に反して誰も来ない。まあ来るという保証は無かったので問題はない。
____なら落ち葉集めでもするか。
枯葉は極力人前で掃除するのを控えている。
____木は辺りを落ち葉で埋め尽くすのが本業だと思うんだ僕は。ただ僕が落ち葉が落ちているのがあんまり好きじゃないってだけで。
そんな言い訳をしながら、しばらくやっていなかった落ち葉集めを始める。無駄にでかい大木なだけあって落ち葉の量は段違いだ。
枯葉は、水面に浮いている落ち葉を陸にあげ、陸に落ちている落ち葉は一箇所にまとめる。もちろん能力を使っているので、修練もできて一石二鳥だ。
「なんだこれは」
ガグマイクは呆然と今起こっている事を見るしか出来ていなかった。
彼は誰にも見つからないようにこの木を観察していた。
(神なんているわけがない。もしいるのならもっと早く来て欲しかった。そんな自分勝手な神など俺は信じない。神なんていないことを証明してやる)
そう意気込んでいた。しかし今の自然の現象とは思えない出来事に、やはり呆然と見ることしか出来ないのであった。
「なんで、なんで落ち葉が自然に集まってるんだ…?」
周囲を見渡してみるが、今は朝早く。ここに誰かがいる気配は無い。だからといってうまく落ち葉が一箇所に集まる風が自然に起きたとも思えない。
「神の……仕業なのか?」




