8.六日目(朝)
*六日目(朝)*
「……じゃあ」
翔太が最後の一口をゆっくりと飲み込んでつぶやいた。
「いいんだよね? 行っても」
「翼と千鶴の面倒を見るっていう条件はついてるけどな」
「うん、大丈夫」
牛乳を注ぎ足し、二杯目となるコーンフレークをざばざばと山のように入れる。こいつにしては珍しくよく食べるなあ、と思いながら、自分も二杯目を作った。
「さすがにそろそろなんか言われそうだな……」翔太がぼそりと呟いた。
「どうした?」
「ん、なにも」
おお、何だかスプーン運びも豪快じゃないか。翼達にまで小食だって心配されてたのに、今朝はどうしたんだ。
「しょーちゃーーん」
「んー?」
「ちかちゃんはあかがすきなんだってー」
危うく翔太が食べていたものを吹き出しそうになった。今度は何だ。
「え、ちょっ、まさかほんとに……!?」
「しょーぐんのケータイから聞いたらそうだってさー」
「何やってんの……っ。ごちそうさまっ」
しかも食べ終わるの早いし。まあこいつの食の細さを見ているこちらからすれば喜ばしいことなんだろうが、昨日までいつも通りじゃなかったか? 何で急に。
食器を下げ、慌てた様子で畳部屋へと急ごうとする。居間を出る寸前で、翔太は俺を振り返った。
「あ、今日も借りるね」
「何を?」
「……ワックス」
そのまま駆け込んでいってしまった。
「……ワックス? 翔太が?」
数秒固まった後、俺は思わず吹き出した。
ひとしきり笑った後で、一人うなずく。
そうか、あいつもようやく色恋沙汰に目覚めたか。そういえばさっき、千鶴が「ちかちゃん」とか言ってたし。……何処でそんな親しくなったのかなあ。しかし、今日「も」って、今までもこっそり借りてたのか? ま、あいつ不器用だし、使い方教えてやるか。
俺はまた、こっそりと笑った。