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俺がサウナに通う理由。  作者: 綾小路フマキラー
3/4

第3話

「今日、人生で初めてサウナに入ってきたんだ」

俺は家族と食事をしている最中にそんな切り口で沈黙を破った。

「サウナ? あなた、初めてだったの? で、どうだった?」妻はサウナそのものより、俺がサウナ初めてという事実に反応した。

「なんていうか、暑いし汗が大量に出てくるし、何より頭がくらくらした。それでも、サウナは長くいるとこうストレスが解消されるというか、気持ちがすっきりする。不思議なもんだと思ったよ。体重も少し落とせたし…」

妻は、そんな俺の言葉に水をさした。

「サウナ入って体重落ちても水をまた飲めば同じなんだってば。ていうか、あなたちゃんと水飲んできた? 血液がどろどろになるわよ」

俺は、別に飲んでないと言った。

「じゃあ、今からビールでも飲むよ」

「だーめ! ビールなんか飲んだって、アルコールの利尿作用でおしっこになってすぐでちゃうから意味ないし。それに、お酒やめるから買っておかないで、って言ってたのあなたでしょ?」

そうだった。ビール類は太るからと、今はお酒の買い置きが一本もなかったことを思い出した。

「だったら、水飲むよ」そういって、俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、コップに注いできた。


それから、妻からサウナのメリット、デメリットを詳しく教えてもらうことになった。妻は昔、色々なダイエットを研究していたようで、食事制限やら、エアロビクス、アロマテラピー、ピラティスなどをやっていたようだ。

「サウナはね。代謝を促進していわゆる”デトックス”することをねらった健康方法なのね。つまり、普段何もしていないと取り除くことのできない有害物質、よく言われるのが水銀、カドニウム、鉛、ダイオキシンとかね、汗と一緒に有害なものを外に出すことで体を正常に戻そうっていうこと。いわゆる、解毒ね」

「へー、香澄ってそういうの詳しいんだね」俺は感心した。

「昔、本とかでいっぱい読んだからね。で、サウナなんだけど…」


妻がいうには、サウナに主に次のような効果があるそうだ。

・代謝力の向上

・ストレス解消

・血流の改善

特に、血の流れが悪いと起こりやすい肩こりや腰の痛みを和らげ、動脈硬化などを予防する効果があるそうだ。しかし、高血圧の人がサウナに入ると過度の血圧上昇で脳溢血で倒れるか、冷水に入った時に心臓麻痺をおこすので、その場合は絶対に入ってはダメだということだ。

「でも、サウナに入れば多少はカロリー消費するのよ。だって、心臓の動きがすごくなるでしょ?でもね、ホントに痩せたかったら、サウナじゃなくてジョギングすべき! それと筋トレ。あなた、続けられないでしょ」妻はそういって笑った。

「続けてみせるさ、花蓮のためにもね」

「もしかしたら、サウナは加齢臭には有効かもしれないよ。デトックス的な意味で。毎週何回か通ってみたら? サウナなんてどこの温泉施設にもあるから」

「ああ、そうするよ」

俺は、体質改善を目的にサウナに通うことに決めた。



それにしても気になるのが、加齢臭以上に体型の醜さだ。やはり、運動もしよう。そういうことを決めると、即行動に移したくなるところが俺の性格のいいところだ。(妻に言わせると、それは悪いところだという評価らしいが)

早速、近くのスポーツ用品ショップでトレーニングウェアとランニングシューズを購入し、毎日自宅の周りを軽く10分くらいジョギングをすることにした。しかし、そう長くは続けられなかった。体力の限界というより、膝が痛むようになったからだ。妻に言わせれば、いきなり走るからいけないのだという。最初は、ウォーキングで脚全体の筋力をあげて、それからきちんとしたランニングフォームで走るようにしないと「大抵の人がひざを痛めて止めちゃうんだ」ということだ。


・・・そういうことは最初からアドバイスしてほしい、と正直思った。



そして、サウナのほうも順調に慣れていった。

最初は5分間サウナに入り、その後、1分ほど水風呂で冷水浴を行う。これを約5~6セット。時間にして、サウナに入っている時間がおおよそ30分くらいを目標にした。日本のサウナは海外のものより高めに設定されているので、長く入っていればいいものでもないらしいのだ。そうして、デトックスの効果か、ひどく悩まされていた肩こりが日に日に治っていく感じがしてきた。これは本当に素晴らしいと思った。



そんなサウナ生活を送っていたある日、初めてサウナに入ったあの温泉施設のことが気になった。あのじいさん、元気にしているだろうか…。


行けば会える保証もなかったのだが、なぜか無性にあの場所に「帰りたい」と思い、次の日曜日に久しぶりに行ってみようと思い立った。




久しぶりに吸う山の空気は、とても清々しかった。あたりは以前よりも山の木々が紅く色づき始めていた。そして、ひんやりとしており、長袖を着ていても背中がゾクゾクする。もうこのへんは秋を通り越して、冬の準備を始めていた。

今回は平日の昼間だったので、温泉施設の客足も疎らだ。もっとも、あのじいさんに会ったところで何が変わるというわけでもない。適当に入って、適当にサウナを堪能してから帰宅すればいいのだ。俺はそう思い、中に入った。


浴場には見知らぬご老人が何人かすでに大浴場の中に浸かっている。のどかな風景だ。俺は体をさっと洗い、タオルで軽く体を拭いて、早速サウナ風呂に入った。


すると、あのときのじいさんが一人で入っていた。

「よう! ひさしぶりだな」じいさんが俺に声をかけた。

「・・おひさしぶりです。えっと、毎日来てるんですか?」

タイミング良くいたので、不思議に思い俺はじいさんにそう訊いた。

「・・いや。お前さんが来るみたいだから、わしもこの時間に来てみたんじゃ」

「えっ? 私が来るのがなんで分かるんですか??」

「ほほほっ、冗談じゃよ。分かるわけあるまい」じいさんの冷やかしだった。

「だが、わしとて毎日来てるわけではない。たまたま来たら、あんたも来ておった。それだけのことじゃ。それより、あの話は覚えてるかい? 宇宙人の話」

「妻にその話をしたら、笑われましたよ(笑) いるわけないですよねー」

俺は同意を得るような訊き方で、そう返事をした。



「いない? そんなバカな。いないわけがない。なにしろ、わし自身が”宇宙人”なんだからのー」

「冗談でしょ??」

「老人だからといってバカにしとるんじゃろ? まあ、無理もないな。人はみかけで判断する。わしの今の姿は腹がぽっこりしてて、頭は毛が薄くて、今にも死にそうな外見の老いぼれが”私が宇宙人です”なんてゆったところで誰も信じやせん。…もっとも、それがわしの狙い目でもあるんだがのー」

そういって、じいさんは俺の目を覗きこんだ。

「あなたが仮に”宇宙人”だとしますよね。それをどうやったら、証明できると思います?」

俺はそう訊いてみた。

「逆に訊こうじゃないか。おぬしは”自分が宇宙人じゃない”と思ってるようだが、それを証明できる術はあるかね?」

「…ありませんね。なにしろ、宇宙人がいると証明できてない時点でそれを証明する意味がない」

「あんたが言ってるのも、わしが言いたいことも同じじゃ。証明する意味がない。猿は我々”人間”なら外見を見れば、猿だと分かる。分かると言うか、それが”猿”という名称になっているだけのこと。宇宙人なんて、日本列島に諸外国から人が来たのと同じと考えてもらえばよい」

「でも、宇宙人なら外見くらいは多少違うでしょ?」俺は、じいさんの話につっこんだ。

「タコみたいな姿でなければ、”宇宙人”じゃないということかい? 大体、人と名のつくものがタコの形状してるほうがナンセンスだと思わないか? ま、こんな屁理屈舌戦してもしょうがないな… 実はもう、宇宙人とこの星に元々住んでいた”地球人”の区別なんてほとんどないんじゃよ。というより、大抵の人間がすでに”地球人”ではないからな」

「冗談がホントにお上手ですね」俺は、じいさんの話のセンスを褒めた。

「さっきもいったが、冗談じゃない。お主自身も”宇宙人”だからこそ、本音で話しをさせてもらっておる。もっとも、わしのように自分がはっきりと宇宙人であると認識できている者はごく僅かに限られている。機密事項だから」

「ちょっと待ってください。仮に、私が宇宙人だったとしますよね。なんで機密事項を私に教える必要があるんですか?」

「”完全征服”がもう間近に迫ってきているからじゃ。この星の人間が消えるのはあと数年先になる。だから、そろそろ認識できている”宇宙人”の数を増やしておく必要がある」

「認識できてないとどうなるんですか?」

「仲間であっても、消滅することになるだろう…」じいさんは、そう言った。


「とりあえず、サウナは出て場所を替えて詳しいことを話すとしよう。もし、あんたに興味があればの話だが…」

「ひとつ訊いていいですか?」

「なんじゃ?」

「たぶん、この話は私以外にも声をかけてるでしょ。乗ってきた人は今までに何人いる?」

「誰もいないね。バカげていると思ったか、あるいはわしが精神的に危険であると畏れて逃げたのかどちらかだな。あんたはどうする?」


俺は考えた挙句に、じいさんの話を聞くことにした。


「あんたも相当変わり者じゃよ」じいさんは言った。

「よく言われますよ」俺は、そう答えた。



つづく


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