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第5話 「俺の明るい未来計画の話」

 机の上に置かれた、大きな龍鱗の革袋、口からのぞくのは金色の硬貨。ランプの薄明かりの下でなお、その金の輝きは魅惑的に、そして尊大に輝いていた。


「ここに金貨五十枚があります。これが前金です。成功した暁には、さらに金貨ニ百枚。期限は一ヶ月。それまでに、シェーラ姫のお腹の中の子供の父親を確かめること。それが依頼です」


 いきなり金貨五十枚って……見る限り、五年前年号がまだ赤龍の時代に流通してた、キャナル金貨だろうか? えーと、あの時の、金貨五十枚だったら、今の銀貨に換算すりゃ……まあ、少なく見積もって七百枚くらいか……余裕で女囲って二三年遊べる金だな。


「……」


 机の上に積まれた金貨の山と、今の話に動揺し、俺は脂汗をかいていた。店のカウンターの奥では、パパイルーがグラスをキュッキュと磨き、アイルーちゃんはせっせと机を濡れブキンで拭いていた。

 ランプの炎が揺れるのを、目の端に留めながら、俺は金髪男に聞き返した。


「姫様の浮気調査かよ……」

「浮気調査とは人聞きが悪いですね」

「どうして、シェーラ姫の、お腹の中の子供が、勇者の子供じゃないと確信したんだ?」

「それは言えませんね」

「そもそもアンタは何者なんだ? アンタの雇い主は誰だ? 俺は一体誰の依頼を受けているんだ」

「……」


 この依頼に関しては色々と不可思議な点があるが、聞き返しても、金髪男は何も答えてはくれない。相手の意図は全く読めなかった。


 前金を含めた報酬の金貨二百五十枚は浮気調査としては、かなりの破格。しかし、その高額過ぎる報酬が、この依頼の危うさを否応なしに強調している。

 そもそも、コイツもナマズ猫も何故この話を俺に持ってきた? 確かに、俺は魔王戦駅のゴタゴタ時、多くの貴族、豪商などの浮気調査をやったことがある。しかし、この場合相手は王族。王宮に入るすべのない俺では浮気調査もクソも対象に近づくことすらかなわない。姫の秘密を暴くならもっと相応しそうなヤツが居そうなものだが、


 王族を含め貴族が不倫すること自体は珍しいことではない。しかし、それはあくまで水面下の話。ミーツァ・ズ王国の国家宗教クラーツス教では、一夫多妻も妾も認めていない。王族でも不倫が表沙汰になれば、ある程度の罪はまぬがれない。

 どこの誰が、姫様の秘密を暴こうとしているかはわからないが、どうせロクでもない目的のために決まっている。王位継承に関わるものか、それとも姫のスキャンダルをネタにゆすりでもやろうとしているのか、いずれにしても俺は期せずして国家犯罪に関わってしまったことになる。そんなことに関わっていたら、命がいくつあっても足りないではないか。俺だって、金は欲しいが、やっぱり命だって惜しい。


「それで、どうしますか? この依頼受けますか?」

「ちょっと待ってくれ! このお茶一杯飲む間だけ時間をくれ」


 冷たくなったお茶のカップに口をつけた。渇いた口に、そっと流し込むが、まるで味はわからない。キッチンの廃棄水を飲んでいるような気分だ。

 俺たち一般市民が王族のゴタゴタに首を突っ込むなど……それは、嵐の中、河川の激流に身を投じるようなもの。あっという間に流され、どこか追いやられ、その奔流に四肢を引き裂かれることになるだろう……


 待てよ……

 いやいや……

 いやいやいやいやいやいや!

 これはチャンスじゃないか?


 報酬の金貨二百五十枚は、やり過ぎなければ一生食うには困らない金だ。

 それだけじゃない、うまくいけば、俺もこのネタでおいしい思いができる。王族の弱味を握れば、ナマズ猫のように裏社会に君臨することだって可能だ。それに、ちゃんとした証拠を見つけて脅せば一回位姫様を抱けるかもしれないじゃないか。人生生きていて一回位王族を抱くっていうのもオツなもんだろう。


 俺なら絶対にやれる。誰が、何の目的で、この話を俺の所に持ってきたのかは知らないが、おいしいとこ所だけ、この俺がかっさらってやろう。

 アノ時も、

 ソノ時も、

 俺は、いつだってそうしてきたんだからな。


ダン!


 俺は、机に叩きつけるようにコップを置いた。どこか宙を見て俺の返答を待つ、金髪男の目を真っ直ぐ見返して答えてやった。


「わかった、いいだろう。その依頼受けようじゃねえか!」




 俺が、依頼を受けると宣言した後、金髪男は「ありがとうございます、それでは一週間後、途中経過を確認しに来ます」と一言だけ言い、金貨五十枚を置いてさっさと店を出て行ってしまった。


 俺も、金髪男に続くようにいそいそと店を出た。

 急に忙しくなった、こうなったらパパイルーの店でダベっている場合じゃない。明日からのために、早く寝なければ、

 足元を手の中の火で照らしながら、俺は意気揚々と、暗い夜道を歩く。こういう時、火の術は便利で良い。


「っしゃあ! やってやるぜ……それじゃあ、明日から……」


 明日からやらなきゃいけないことを一つずつ考えていく。まずは子供の親を魔術的に解析するための治癒術法士に話をつけておく必要がある。これは昔のツテを使うとして……そのためには、シェーラ姫の肉体の一部がいるだろうから、やっぱり一度どうにかして王宮にはいる必要があるな……魔術的証拠だけでなく、ある程度証言も集めておく必要があるよな……

 アゴを撫ぜ、考え事をしながら、俺はパパイルーの店を出て一個目の角を曲がった。

 その角を曲がった瞬間、


「な…!?」


 突然首筋に剣を突きつけられた。あまりの唐突さに反応できなかった。

 まっすぐ自分の首筋に突き立てられた銀色の刃。切っ先が月の光を反射し鈍く輝いていた。顔をゆっくりと上げると、昨日、戦った魔法剣士、白い羽を肩と頭につけた童顔の騎士アド・スクァンディア・ティクルーがそこに立っていた。



途中まで書いてて思ったけど、この話の主人公、なんかすぐ死にそう

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