第2話 「俺が強い魔法剣士様と戦っちゃったぜという話」
ミーツァ・ズ王国城下街西側繁華街。魚、肉、野菜を売る屋台、そして、それらを調理する屋台、屋台、屋台、屋台郡が整然と並んでいる。ミーツァ・ズ王国西側繁華街は、いつも人の波でごった返している。東側の貴族御用達の店々よりは、手頃な値段なので俺も時々メシを食いにきたりしている。
「申し訳ありません! お客様!」
繁華街の中でも、かなり奥まった所にある場所、そこに一際大勢の人が集まっていた。集まった人々はお互いの顔を見合わせ、ヒソヒソ囁き合う。彼らの顔には不安、好奇、期待等の感情が見てとれた。いわゆる、野次馬という集団だ。
野次馬達の壁を押しのけていくと、白い鳥の羽を肩と頭につけた銀髪の若い男が、ふんぞり返って座っていた。その足元で、小太りの店主が地面に頭をこすりつけている。
「本当に申し訳ありません。店員のご無礼は謝罪いたします。何卒、何卒!」
「勿論、僕も穏便に済ませたいよ。ただね、だからと言って、黙って帰るというわけにもいかないんだな」
「しかし、我々も困窮の中ギリギリで商売をしておりまして、とてもアド様のおっしゃるような金額をお支払いすることはできませんので……」
「なんだ、あそこで土下座してるのパパイルーじゃん。最近店が順調にいってるらしかったのによー、何やってんだか」
パパイルーは、以前この国の兵士だった。しかし、三年前魔物に足の腱をやられて以来、小料理屋「パパイルー」を経営している。ドゥールム(小麦を練ったものを蒸したもの)に肉や魚、はては砂糖菓子等を挟んだものを出している。
立ち上げに関わったこともあり、俺にとってもこの店は非常に思い出深い店である。この国では飲食店を立ち上げるには、一人炎の魔術を使える魔術師の登録が必要。まったく魔術の使えないパパイルーに頼まれて俺はこの店に名義だけ貸すことになったんだっけ、懐かしい話だ。
「あそこの鳥頭のお兄さんがさー、最近この辺りのお店にあの調子で嫌がらせしたり、お金タカったりしてんの。皆困っちゃっててさー」
ルーツェが、横から顔を出してくる。彼女の依頼とは、やはり、パパイルーを見下ろしている、あの鳥頭の騎士に関するモノのようだ。鳥頭騎士は、よく見ると、背丈も低く、顔もまだ幼さを残している。もしかしたら、まだ成人も迎えていないのかもしれない。
しかし、その幼い外見とは裏腹に身に着けている服は恥ずかしいほど派手、真っ白なヒラヒラのついた服に、異常にデカイ宝石をあしらってある。まさに「成金趣味の馬鹿」という風の格好を、ヤツは自慢気に周囲に見せつけていた。滑稽な姿ではあるが、その小さな体に不釣り合いな、背中の巨大な剣は、皆を一様に黙らせるに十分な威圧感を持っていた。
「しかし、あんな見た目だが、あのガキ。中々強いな」
「あ、わかる? 顔は可愛い感じなんだけどさ、強いらしいよ。このあたりの用心棒代わりしてるナット兄弟がボコボコにされちゃってさー。噂じゃ元コー・ウ王国の魔法剣士だとか、ほら飾りつきの剣背中にさしてるでしょ? 魔法剣士ってすごいよね、憧れちゃうー」
「魔法剣士ね……ボコボコにしたってことは、ナット兄弟は殴られたってことだよな?」
「そうだよ、蹴ったり殴られたりでやられちゃってさ。あの兄弟体が大きいばっかりで、全然駄目なんだから」
パパイルーは先ほどからずっと、ペコペコと頭を下げている、卑屈な彼の態度にすっかり気をよくした鳥頭騎士は余計に大きな声を張り上げ、追い打ちをかけていく。
ふと、横にいる野次馬達を見る。彼らはそれぞれ、申し訳無さそうな、同情しているかのような表情を、顔に貼り付けている。しかし、誰ひとりとして助けに入ろうとはしないのだった。
「いやあ、困るなー。僕が今着ている服は、ただの服じゃないんだよ。この服は、二年前、アーツ山脈の東側、ミラジの村に救っていた魔物の大群を撃退した際に、コー・ウの王国の王から賜ったものでね。君のところのウェイターのミスで、シチューのシミがついたんだから、許せることじゃないんだよね。だから……」
自慢話混じりの鳥頭騎士の話を要約すると、
なんでも、鳥頭騎士はこれから、王宮へ出向き、パーティーに出る予定だったようだ。その途中で、腹ごしらえをしようと立ち寄ったこの店で、一張羅の服にシチューで染みを作ってしまった。ウェイターのせいで服を汚したのだから店に服の代金を弁償して欲しい。また、このままではパーティーに出られないのでその分の慰謝料もよこせというわけだ。
滅茶苦茶な文句だ。大体貴族のパーティに行こうとしてる奴がこんな所に来ること自体が間違い。
「それで、アイツをぶっ飛ばして、二度と近寄らないようにすればいいってことだよな?」
「そういうことー、まあ剣持ってるってことは騎士様でさー、騎士ぶっ飛ばしたら多分捕まるけどー。元々捕まるようなことばっかしてるアンタだったら関係ないでしょ?」
「一応聞くけど、ちゃんと報酬は出るんだろうな」
「んー、一日この辺りの店でご飯食べ放題って感じかな」
「おいおい、まじかよ、金は?」
「嫌なら、やんなくていいけど、不満?」
勿論不満だ。しかし、それでも餓死するよりはマシだろう……こいつ足元見やがって……
「じゃあ、前報酬でアタシがタバコ一箱あげるよー」
「くそっ……わかったよ、仕方ねえな」
ルーツェが差し出した赤いタバコの箱をひったくって、俺は野次馬の壁から大きく一歩前に出た。
「おい、そこの鳥頭の兄さん、ちょっと待ちな」
突然の乱入者に、鳥頭騎士は随分驚いたようである。目を見開き、じろじろと俺を見返してきた。
「僕は鳥頭の兄さんという名前ではない、アドだ。コー・ウ王国の騎士アド・スクァンディア・ティクルー。ここの店主がシチューをこぼして僕の服を汚したので、弁償していただくようお願いしていただけなんだがね、関係ないヤツは引っ込んでいてもらえるかな」
頭の羽を軽くいじりながら、ヤツは俺を見据えている。騎士という立場、昨日までの自分の暴力に、臆さない俺を、見定めているようだ。
「いやいやいや、アンタの言い分はわかるんだがね。俺はここのパパイルーって店主と旧知の仲でね、放っておくわけにもいかないんだな。そこでだ、俺がここを仲裁してやろうというわけだ。運がよいことに、俺は宝石と服飾の鑑定の経験がある。その服の正式な代金を測ってやって、この場を公平かつ円満な形で納めようじゃないか」
一応言っておくと、俺は宝石も服飾も鑑定なんてやったことないのであしからず。
「あー、この宝石ガラス玉だわー、白い布地も、こりゃ麻か? 大衆向け丸出しの素材だわー。着古して汚れてるの含めたら、価値としては銅貨一枚。コーヒー一杯で差し引きゼロってところかなー」
わざと無遠慮にヤツの服を引っ掴み、挑発した。さすがに騎士様に何もなしに殴りかかったら、王立警備隊が黙っていないだろう、ここはなんとしても、ヤツから手を出してもらわなくてはいけないわけである。
「私が嘘をついていると? 騎士が嘘を付いているとでも?」
「王国から服を賜ったってところまでは本当かもな、でも、アンタ金遣いあらそうだし、どうせすぐ借金まみれになって売っぱらったんじゃないの? この服も宝石もイミテーションでしょ?」
俺のチャームポイントの一つである犬歯を見せながら、「ケケケケケ」と笑ってやる。俺は魔術も剣もさっぱりできない。魔術で使えるのは、さっきタバコに火をつけた、小さな"トーラ"の術法しか使えない。でも、人を怒らせるのだけは大得意。鳥頭騎士は、目を釣り上がらせ、背中の剣を抜き、上段に構えた。多分、さっき俺が言ったことが図星だったんだろう。
「騎士を侮辱した罪、万死に値する」
「ははは! 図星刺されたから剣で黙らせるってな、随分立派な騎士様だな!」
「決闘だ!」
「おお、勝負かい? 止めたほうがいいぜ、俺は"常勝無敗のザバン"。あらゆる決闘、勝負、戦いで負けたことのない最強の男なんだからな!」
「ぬかせ! 馬鹿なチンピラが!」
このアドとか言う騎士の名前、実は、俺は知っていた。
アド・スクァンディア・ティクルー。コー・ウ王国の守護神と呼ばれた魔法剣士。その小さな体では考えられない巨大な剣を振り回し、自分の二倍三倍という巨大な魔物を一刀両断にする。また、風の術法の達人であり、風を利用した高速戦闘を最も得意とする、銀髪の騎士。魔王戦役時の英雄の一人として、そこそこ有名である。
そして、これは俺の勘だが、この目の前の騎士は、名前だけ語っている偽物ではなく、本物の"アド・スクァンディア・ティクルー"だ。勘違いした服装や、ヘンテコな飾りつきの剣など実にそれらしい。何より、偽物だとしたら、もうちょっとうまく演じるだろう。この目の前の騎士の間抜けっぷりと怒りっぽさは逆に本物っぽい。
剣を上段に構え、鳥頭騎士はジリジリとにじり寄ってくる。改めて実物を見ると、剣は本当に大きい。騎士アド自体の二倍の丈はあろうかという大剣、あんなものを振り下ろされたら、俺の体は左右に真っ二つだ。
だが、この俺に言わせれば、あんな剣は恐るるに足りない。
「さあ、来やがれ! 騎士様よおー!」
俺が手を挙げるのと同時に、アドが踏み込んできた。
早い。
俺は躱すことも出来ず、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。ああ、あわれ、この俺"ザバン・ジ・スミヤキスト"の物語は、こんな街中で終わってしまうのか……
・
・
俺の目の前ギリギリ、首筋の皮一枚で剣が止まった。
アド・スクァンディア・ティクルーは「決闘」と言った。しかし、この国の法律では決闘は同じ階級のモノ同士でしか成立しない。故に、俺とヤツの戦いはただの喧嘩でしかない。
決闘でもなく、ただ一般市民を斬り殺せば、騎士といえどそれは十二分に処罰の対象になる。しかも、これだけの野次馬に囲まれている中では弁明の余地もない。おそらく、脅しのつもりで剣を振るったのだろうが、この状況でコイツが俺を斬れるわけがないのだ。
「ははははは! そりゃあ、そうだよな。いくら騎士様でも、こんな街中で人ぶった切ったら、捕まっちまうぜ! アンタは率先して、そういうことするタイプじゃねえと思ったよ!」
俺は剣が止まったことを確認したうえで、思い切り前蹴りを繰り出した。剣を振り切った直後、体勢的にも、絶対に躱せないはず。
「……!?」
躱された。
足を踏み出したまま滑っていくような、そんな不自然な動きで、ヤツは僅かに後ろに下がり、俺の渾身の前蹴りを避けた。おそらく何らかの魔術を使った動きだろう。
しかし、蹴りを躱したはずの騎士アドは、「っくぁ!」と甲高いうめき声を上げ、その場で怯んだ。俺が、前蹴りで巻き上げた砂が、ヤツの目に入ったのである。
「砂か?! 卑怯な!」
「ゆすりたかりやってるような奴に、卑怯もクソもねえだろうが!」
俺は、店先に置いてあった椅子(流行りの金属製のオシャレな椅子)をその場で掴み、振り上げた。そして、視界を失い後ろに下がった鳥頭騎士の横っ面に、
「っごああ!」
騎士の横っ面に、思い切り椅子を叩きつけてやった。二度三度椅子を振り下ろす、「ズム」「ドゴン」という生身の肉体に金属が強く当たった生々しい音が辺りに響く。騎士アドは「うぐう……」と呻き、地面に崩れ落ちていった。
「はあはあ」
地面に這いずるヤツを見下ろしながら、"トーラ"でタバコの火をつけた。横でパパイルーが非難がましい目で見ているのは、椅子を壊したからなんだろうが、それは無視することにした。
俺は、改めて鳥頭騎士に向き直る。
「ケケケケ、どうだよ、格好悪く負けた所で帰ったらどうなんだよ。コレ以上恥かきたくないだろ?」
「火の術法……お前は魔術士だったのか……」
空でたゆるタバコの煙を、這いつくばる騎士は憎々しげに見つめていた。こいつは、こうやって俺のようなチンピラに負けたのが余程悔しいらしい、ざまあみやがれ。
さて、どうやってもっと怒らせてやろうかと、逡巡していると、騎士アドが、そっと俺にかざすように手を差し出していることに気づいた。その手が一瞬光ったかと思うと……
「ちょっと、ま…」
「てめえが帰りな! 腐れチンピラが!!」
バアアアアアアアアアアアアアアア!!
壮大な爆発音と爆風、火の粉と黒煙が辺りを包んだ。爆発の中心では、全身真っ黒になって横たわっている俺、
「キャアアアアアーーーー!!!」
一人の女性のつんざく悲鳴が上がった。途端に騒然となる群衆たち。元々、ミーツァ・ズの街の人々は、このような攻撃魔術になれていない。大城壁と屈強な騎士団、無敵の"城壁の巨人"などに、彼らは守られており、魔王戦役時でさえ、滅多に戦乱にさらされることはなかったのだ。このように派手な攻撃魔術を。この街の人々が目にするのは、おそらくこれが初めてになることだろう。逃げ惑う群衆。驚き、恐怖し、助けを呼び、蟻のようにどこげともなく散って走る。
ちなみに、倒れている俺の横で、呆然と突っ立ている騎士アドも、他の群衆と一緒に、驚愕にうち震えていた。
「え? 僕、まだ魔術撃ってないんだけど……。ちょっと……ヤバくないか? これ」
そりゃあ、ヤバイだろう。街中で、このような攻撃性のある魔術を使うなど、御法度。
うろたえるやつの顔を、こっそり目にやる。鳥羽のついた頭をかきむしり、アタフタと誰ともなく言い訳をする騎士。笑いがこみ上げてくるが、何とか笑いをこらえなければ……俺はヤツの魔術でまるこげになって死んだってことになるんだからな。
ルーツェから、この騎士が魔術を使えると聞いた時、俺は「まともに喧嘩したら面倒くさそう」と思った。それで一芝居うつことに決めたのである。相手を挑発し、追い詰め、魔術を出させる。それに合わせて、大爆発を自作自演した。爆炎と音のためには"火爆花"を乾燥させた粉末を使った。群衆の目からは、あたかも奴の術法の大爆発で俺が黒焦げになったように見えたはずだ(実際は、隠し持っていた、黒いススを浴びただけ)。
ガチャリ
「え? 何だ?」
群衆の悲鳴、火花の弾ける音、その中で一際重く冷たく響いた金属の音。騎士アドが気づいた時、彼の手首には黒く光る錠がガッチリとはまっていた。
「いつの間に、誰だ!」
炎の影から、現れる二つの影。体全体を覆う黒いローブとフードで、その二人の顔や体格は判然としない。突如、幽鬼のごとく現れた彼らはフードの奥の鈍く光る瞳で、混乱して頭を抱えている騎士を見据えていた。
「我ら、ミーツァ・ズ王国王立警備隊。この国の法の番人であり法の執行者。貴様を"平時国内における大規模魔術執行"の罪で捕縛する」
ミーツァ・ズ王国の王立警備隊、対魔術と対人間の戦闘を想定訓練された司法執行部隊である。黒ずくめのローブとフードがトレードマーク。この国で、法を犯した者達を老若男女容赦なく捕まえる。
「ちょっと待ってくれ! この爆発は僕の魔術ではないんだ! 冤罪なんだ!」
「しかし、さっきのはどう見ても君が魔術をやっているように見えたが……」
「いや、だから出そうとしたけど、まだ出していなかったんだ。僕は風の術法しか使えないから、こんな爆発起こせないし……それに、こんなに大きい魔術を出そうとはしていなかった」
「故意でなかったとしても、魔術制御が出来ていないのに、こんな大きな魔術を使うのは十二分に罪だ」
「だから、僕はあのチンピラみたいな男に椅子で……あれ?」
騎士アドは不思議そうな顔をして辺りを見回す。
多分、この俺の死体を探しているんだと思うが、俺はすでに、店の物陰に隠れている。死体のはずの俺をあらためられれたら、この大爆発が俺の自作自演だとバレてしまうからだ。
「死体がない! どういうことだ!」
「これほどの大規模な爆発だったからな、おそらく魔術を受けた相手の肉体は爆散し、木っ端微塵だろう、可哀想に」
「え……おい……ちょっと待てーーー!」
手錠で自由にならない腕を振り回し、自身の冤罪を叫ぶ。しかし、どんなに叫んでも黒衣の二人は、聞く耳を持たず、騎士アドに掴みかかっていく。
「とにかく警備塔まで来なさい」
「この! くそ! 離せえ、王族の犬共が! 僕はやっていない! 少なくとも、今回はまだやっていないだぞ、アイツにはめられたんだ!」
「いいから来なさい」
「この……これは小型の魔術封じの結界!? こんなモノまで……くそ! 離せ! 離せええええ! 僕はやってなああああああああい!」
騎士アド・スクァンディア・ティクルーは王立警備隊の二人に両脇を抱えられ、ズルズルと引きづられていった。行き先は、おそらく警備塔であり、塔内の監獄。"平時国内における大規模魔術執行"の罪は最低三年、最高十年の投獄である。
「行ったみたいだな……」
パパイルーの店の中。俺は、カーテンの隙間から、ずっと外を覗いていた。やっとあの騎士は警備隊に連れて行かれたようだ。
かくして魔法剣士アドとの戦いは、この俺様の勝ちという結果で幕を閉じたわけである。
「ざまあ、見やがれ! 俺の勝ちだ!」
勝利の雄叫びを上げ、右手を高々と上げた。
そう、この俺様こそ"常勝無敗のザバン"幾千の決闘、戦争、全ての戦いにおいて無敗の"ザバン・ジ・スミヤキスト"なのだ!
「いや、今のは勝ちとか負けとかじゃなえよ! それより、外が滅茶苦茶じゃねえかよ! どうすんだよ! 壁も店先もススまみれでさーあああー! 誰が掃除するんだ! これなら、あの騎士に素直に慰謝料払っておいたほうが安くついていたよ、もー」
パパイルーは、頭を抱えながら何やらワケのわからない文句を言っているばかり、給仕をしてくれる様子はない。仕方なしに、俺はカウンターの中に行き、自分で、大瓶からコップへ、琥珀色の液体を注ぎ、店の隅のソファーに深々と腰掛けた。
「ふはははははは! パパイルー、お前は何を暗い顔をしているんだ。いいから何か食い物を作れ! 料理人が料理しないでどうする?」
その後、俺は死ぬほどメシを食い、浴びるほど酒を飲んだ。空きっ腹に酒とメシを突っ込んだから、何度か吐くことになったが、それでも、ここ数ヶ月の中では一番気持ちの良い日だったよ。
いつの間にか、ルーツェが俺の横でタダ食いタダ飲みし、せっかくの俺の報酬を掠めとっていたことには若干の憤りがあったが……この日はそれほど気にならなかった。