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第11話 「ヒロイン追加、あと勇者の悲し過ぎてヤバイ過去の話」

「話に華がない」というご指摘を頂いたので、急遽主人公の助手として動くヒロインを用意することにしました。感想くれた人ありがとうございました。

 警備塔を出て、しばらくはアイルーと俺は並んで歩いていた。

 警備塔がそびえる中心街を抜け、パパイルーの店のある西側商店街を目指す。道なりにいくと、すでに建物の復旧のために、建築系の魔術師がわらわらと忙しげに歩いていた。


 ドムん


 ドン


 ゴウン


 土属性魔術で、地面を隆起させる"ド・ウーク"の魔術の音が、街中で響き渡っていた。


「こりゃ盛況だ。この様子じゃ、二日もありゃ復興できるんじゃねえか?」

「建物を、建てられるまで熟達した魔術師がこんなにいるなんて……やっぱり都会はスゴイですね」

「いや、魔王戦役時代は、もっと多かったと思うぜ。俺もよく駐屯地まで建築系魔術師を送る仕事をやったもんだ」


 魔王がいた時代、一番儲けられた魔術。それは土属性の魔術、"ド・ウーク"だった。

 魔王戦役以前は、石を積み上げ、漆喰で固める方法で建物を作ることが多かった。しかし、魔物が出現し、建物や城壁が破壊されることが日常化されると、より堅牢で、素早い建築が求められるようになり、土属性魔術による建築と建築物の強化の技術が発達するようになった。魔王戦役中。より緻密な建築ができる魔術師、より堅牢な壁の強化ができる魔術師はどこの国でも求められ、優遇されていた。


 しかし、魔王戦役が終わり、建物を壊す魔物がいなくなったことで、彼らの出番はなくなった。俺の知り合いでも、何人か建築系の魔術師が、仕事を失い無職になっている。今回の商店街の大破壊は、店の持ち主達にとっては地獄の所業だったが、仕事を失った彼ら土属性の魔術師達にとっては神の思し召しだったに違いない。


 まあ、こういう風だから、人間の世の中ってのは面白いものだ。

「ザバンさん、聞きたいことがあるんですけど」

「ん? 何?」


 しばらくアイルーと二人で雑談しながら歩いていたが、

 青い大きな瓦礫の山(確か、壊れる前は、小洒落た服屋だった)の横を通りがかった時、ふとアイルーは顔を強張らせ、改めて俺に向き直ってきた。


 ちなみに、振り返った時、昨日の戦闘で、チリヂリになったスカートの裾から、太ももが見えた。ほっそりしていい形してるよ。


「なんで、私を助けたんですか?」


 そんなものアイルーが可愛くて俺の好みだったからに決まってるのだが、そういうことを言うと彼女は怒るだろう。

 どう答えようか少し迷い、彼女を見返した。クリクリと輝く大きな瞳。その、あまりの真っ直ぐな視線に、俺は少し目をそらした。


「さあ、なんでだろうな。でも、昨日君に助けられたし。その恩返しって感じかな」

「でも、さっき昨日勇者さんから、貰ってたお金全て渡してましたよね? 違いますか?」

「……やっぱり昨日見てたのか」


 昨日、アイルーが、俺と勇者エイク、それと騎士アドの間に突然入ってきて驚いたものだった。


 しかし、話を聞いてみると何のことはない。彼女は最初から、俺のあとをつけていたのである。


 昨日パパイルーの店で勇者エイクから依頼を受けていた時から、彼女は俺のことを見ており、帰り道も尾行していた。

そして、ゴロツキどもと勇者の戦いが始まり、付近の建物が破壊され始めたのを見て、あわてて付近住民を避難させて回ったのである。


 だが、そもそも何故俺は彼女に尾行されなければいけなかったのか。


「すいません、あの時は……その……あまりにも、ザバンさんが悪そうな顔をしていたものですから……てっきり何か悪事をするんじゃないかと思いまして……」

「……それで、俺を尾行したの?」

「はい、そしたらザバンさんが襲われて……様子を見てたら勇者さんが暴れ出して……慌てて私は付近の人に非難するように注意して回ったんです」


 ……まあ、結果的には、それで死人も出なかったんだから良かったが、失礼な女の子だ……


「と、とにかくですね。ザバンさんに、そんなにお金を払わせるわけにはいきません!」

「そうは言ってもな……アイルーちゃんお金ないんだろ? パパイルーの店でウェイトレスやってる位なんだから」

「確かに私はお金はないです。私は、片田舎の農家の娘でしたから……畑を守るために独学で防御魔術を覚えましたが、結局生活に困って農地も全て売り払うことになってしまって……」


 俺は「それじゃあ、身体で返してくれよ、グヘヘ」と言おうとして、やっぱりやめた。彼女は、腕の良い魔術師だし、先程のセラのやり取りを見る限り、非常に喧嘩っ早そうだ。


「先程のお金、すぐにお返ししたいところなんですが、今の私はお金がありません。ですから、それまでは、ザバンさんの仕事を手伝わせて下さい。それで、しばらくしてお金が御用だて出来たら返しますから」


 やはり、そう来たか。なんとなく、話の流れから、そう言い出すんじゃないかと思っていた。


 仕事を手伝ってもらう……

 となると、彼女には、今回勇者エイクから依頼されたシェーラ姫の浮気の調査を手伝ってもらうことになる。


 勇者の依頼……

 俺は、目をつぶり、昨日のことを思い出した。

 昨日、勇者がアドを倒した後の話を、




 昨日、勇者エイクの剣撃がアドの竜巻を断ち切った後、


 俺は、アイルーを抱えながら瓦礫のの中を這うように進んでいた。アイルーは勇者の剣撃の衝撃を魔術で防ぐことで、力尽きてしまったようで、気絶してしまったのだ。俺も右腕が折れていたが、他に助けを求められるものもいない。俺は、左肩だけで、彼女を何とか支え、城壁沿いスラムにある医者のもとを目指していた。

 あまり知られてはいないが、、魔術を使いすぎるということは命に関わるらしいと聞いたことがある(俺は魔術師でないので理屈はわからない)。

早く医者に見せなければ……


「うっぐ……ちくしょー」


 しばらく悪態をつきながら、ズルズル進んでいた時、誰かが立ちふさがり、俺は足を止めた。


「あ……」


目の前に立ちふさがった男、その姿に俺は息を飲んだ。勇者エイクがそこに立っていた。上半身裸、その浅黒く光る肌は傷ひとつない。


「どうだい? 俺は強いだろう?」


 何もできず、棒立ちになっていた俺に対し、勇者エイクは無邪気に笑いかけてきた。新しいおもちゃを自慢するような邪気のない、少し得意気な顔だった。


「てめえ、滅茶苦茶だ! どれだけ被害が出たと思ってんだ!」

「滅茶苦茶? ひどいなー、死人は出さないように頑張ったはずなんだけど。竜巻だって、必死に止めたんだけどな」


 色々と彼に対して言いたいことはあった。しかし俺は、そのすべての言葉を飲み込んだ。この中肉中背の、さわやか男はいざとなれば俺など捻り潰せる。いや、本当にその気になれば、この街をまるごと灰塵にできるほどの力をこいつは持っている。

 そんな奴に、どんな意見ができるというのだろうか。


「まあ、いいさザバンさん、貴方には依頼した。それをちゃんとこなしてくれれば何でもいいよ」


 勇者エイクは少しつまらなさそうにモップを地面に放った。


 この時点で、前金を持って、とっとと他の国に逃げるつもりでいた俺は、勇者を前にして、かなり焦っていた。この時点の俺の予定では、アイルーを医者に預けた後、即刻西側の門から、城壁外に出て、どこか適当な国に逃げるつもりだった。


とにかく、この場は切り抜けるしかない。

俺はとりあえず、勇者エイクに問いかけてみた。


「なあ、教えてくれよ。アンタはシェーラ姫の浮気相手を知ってどうするんだ? 惨殺するのか? アンタは世界最強なんだから、浮気相手を殺すなんて簡単にできるよな。それでどうするんだ? 依頼を受けた身としては一応聞いておきたいね」


 俺にとっては、適当に聞いてみた質問だったが、どうもこの質問は勇者エイクの、何かした琴線に触れてしまったらしい。質問を投げかけた瞬間、彼はふっと顔を陰らせた。最初から最後まで、異常に陽気だった勇者が始めて見せた苦悩の顔だった。


「初めて俺がシェーラの寝所に入った時の話だ。初めては緊張したよ。二人で見つめ合って、シェーラの頬も少し赤くなっていて、俺はその赤くなった頬を軽く撫ぜてあげて……その後、キスもして、俺達は抱き合った……二人の全身全霊の愛をこめて抱き合ったんだ。その結果……」

「ほお……」


 突然のエロ話で俺は吹き出しそうになった。しかし、よくよく勇者の顔を見ると至って真剣である。空気を読んだ俺は、黙って彼の話を聞くことにした。


「シェーラの上半身の骨がバキバキと嫌な音を立てて、折れたんだ」

「え……」

「緊張し過ぎてたんだろうな。……力を封じる呪印も身体に引いてたんだが……ふふふ初夜で緊張して力が入りすぎてしまった。俺の初キスの味は、シェーラの吐血した血の味だったよ、鉄臭い血の味さ」

「おいおい……」


 中々シュールな話を聞いてしまった。勇者が国のお姫様の骨をベアハッグで折ったということか……傍から見ていたら、かなりショッキングな映像であったであろう。


「それ以来、俺とシェーラはお互い愛し合っていると言葉を交わしながら、指一本触れ合うことすら出来ないでいる」


 呆れるほどバカらしい話だが、ちょっと可哀想な話だ。抱いた女の子が、血を吹いて倒れたら、そりゃあトラウマになるだろ、この勇者童貞っぽいしな。


それで、ショックを受けてた所で、好き合ってたはずの女が、他の男の子供を孕んでいたということだ。これはキツイ


「でもよ、好き合ってたんだったら、姫様のお腹の中の子ってのは直接聞けばいいと思うぜ。俺なんかが調べたら余計話がこじれるかもしれない」

「シェーラには、何度も尋ねたよ。そうしたらこう返すんだ『貴方のことは愛している。だけど、私はこの国のために世継をうまなければいけない』ってね」


 ふと、俺は左肩に抱えているアイルーのオッパイをもんだ。

ボリュームはないが、フニっとしたささやかな感触が心地良い。やはりオッパイはいいもんである、それが小さいものであれ、大きいものであれだ。


しかし、この勇者には、このオッパイを揉むことすら許されない。オッパイを手で握りつぶす覚悟があれば揉めるのかもしれないが、この男はそんなことはしないだろう。


 俺は、勇者エイクの肩を叩き、笑いかけてやった、チャーミングポイントの犬歯を見せてやりながら。


「わかった。いいだろう、俺に任せな。シェーラ姫のお腹の子の親、バッチリ見つけてやるよ!」


 そうして、勇者エイクとの依頼を成し遂げると、彼と固く誓い合った後、

商店街の崩壊に慌てて駆けつけた王立警備隊に、俺とアイルーは捕まった。警備塔では、無料で治癒術法もかけてもらえたし、結果的には俺もアイルーちゃんもこの時捕まって良かった。

「ザバンさん、どうされましたか?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をね」


 昨日の勇者との約束を思い返し、考え事をしていた俺の肩をアイルーはお盆で叩いてきた。


「俺の仕事を手伝ってくれるって話だけどね、ありがたくお願いしたい。まあ、パパイルーの店が暇な時でいいから手伝ってくれたらありがたい。あーでも、さっき全財産セラに渡しちゃったから、給料は出ないけど」

「ありがとうございます! 私頑張ります!」


 満面の笑みで。アイルーは喜んでくれた……この様子では昨日気絶してる隙ににオッパイを揉んだことは言わないほうがよさそうだ。


ふと、倒れた街路樹の脇をスタスタと歩くブロンド髪のメイドが目に止まった。



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