第一章 第八話 艦魂の心
「どこの所属だ!」
「艦種照合! ・・・データなし!」
「おい、国連に問い合わせろ」
あちこちから声が飛び交う。
『目標、距離21海里、針路280』
窓の外の水平線には今も煌々と明かりがついているのが見える。
「・・・漁船だけじゃなかったのかよ」
窓の外を見たまま夏輝がつぶやく。
「なあ、やまと。おまえは・・・」
夏輝が周りを見回したがどこにもやまとはいなかった。
「やまと?」
名前を読んだがその声に反応する人物は誰もいなかった。
「該船、停船!」
「機関停止!」
その声に続いて艦の速度が徐々に下がっていきやがて停止した。
22時13分、周辺のすべての船艇が停船している。現在は十分な距離をとっているため不審艦からの銃撃は起こっていない。そのためか先程とは打って変わって今はとても静かだった。波も静まり先程まで炎上していた巡視船も火が鎮圧され離れたところで停船している。
だが、不審艦に対する緊張状態は継続したままだった。今この時もいつ行動を起こすかわからない状況だった。
「篠原くん!」
振り返るとてるづきが立っていた。
「てるづき!? なんで此処にいるの?」
「やまとがどこにいるかわからない?」
てるづきはやまとを探しているのだ。てるづきは理由を言わなかったが夏輝はなんとなくその理由がわかった気がした。
「ここにはいません、艦内のどこかだとは思うんですが……」
夏輝が答えるとてるづきはうーんとうなってから言った。
「じゃあ、私はやまとを探してるから見つけたら連絡して」
そう言うとてるづきは外へ走っていった。
しばらく考えたあと、夏輝も外へ走っていった。
「やまと……」
数分間探して格納庫でやっと目的の人物を見つけた。壁のそば、工具棚の影にやまとはうずくまっていた。
「やまと、おまえ……」
「来ないでください!」
夏輝の言葉をやまとが遮った。
「やまと?」
「近づかないでください……」
やまとは顔を下に向けたまま続けた。
「笑っちゃいますよね、こんなに何回もいじけてたら」
「……」
そこで夏輝はやまとが震えているのに気がついた。
「私、約束したのに。三尉に、頑張るって言ったのに……」
そう言うとやまとは立ち上がって夏輝の方を見た。その目は今にも溢れ出しそうなほどに涙が溜まっていた。
「でも、いざ始まるってなると体の震えが止まらないんです!」
ひと呼吸おきさらに続ける。
「私は生まれたばかりなのに死んじゃうんじゃないか、みんなが……三尉が死んじゃうんじゃないかって」
「やまと……」
夏輝はなんと言うか迷った。だがすぐの口を開いた。
「大丈夫、お前は死なない……っ!」
「そんなのわからないじゃないですか!」
言いながらやまとが夏輝に迫ってきた。
「なんでそんなことが言い切れるんですか!?」
さらにやまとは迫ってくる。今の二人の距離は2m…いや、1mもないだろう。
「三尉にはわからないんですよ、私たちの気持ちなんて。しきしまさんのことだって……船が一隻落伍したくらいにしか思っていないんでしょ!!」
その時、夏輝は何かが切れた気がした。実際夏輝の血管が切れたのかもしれない。数秒後、表情を変えた夏輝が言った。
「おい、ちょっとこい」
「え?」
「いいからこい!」
夏輝はやまとの腕を掴んでどこかへ引っ張っていった。艦内を1週し、艦橋で目的の人物を発見した。
「てるづき」
「三尉?……と、やまと」
てるづきが夏輝の後ろのやまとに目を向けて言った。
「てるづき、しきしまに連れてってくれ」
「え?」
「いいから、早く!」
「あっうん!」
少し大きな声で言った夏輝にてるづきが急いで答えた。
「何する気ですか三尉」
やまとが夏輝に聞く。だが夏輝は何も言わなかった。
「何黙ってんですか……答えてくださいよ」
だが夏輝は何も答えずやまとがもう一度口を開こうとしたとき三人を青い光が包んだ。
数秒後、三人は緑の床の上……正確には緑の甲板の上にいた。すぐそばには白い構造物が見えるがそこはすすをかぶってほのかに黒みがかっていた。
「火は……消えたのかな?」
てるづきがつぶやく。が、誰も答えなかった。
「で、どこに行きたいの?」
「しきしまのところです」
「しきしまってだからここが……あっ」
そこまで言って夏輝が言っているしきしまがそれに宿る魂のことであることに気がついた。
「じゃあ艦橋かな」
そう言って歩きだそうとしたてるづきを夏輝が遮った。
「いや、こっちだ」
そう言うと夏輝は艦尾へ向かって歩き始めた。
数分後、三人は巡視船しきしまの格納庫にいた。
「こんなところにいるの?」
てるづきが聞くと夏輝が先導するように歩いていく。
「こっち」
そう言うと夏輝は階段を上っていった。一番上まで登り扉を開けるとそこは格納庫の上だった。空には白い月が登り遠目に護衛艦隊を見ることができる。
その後も夏輝はスタスタと歩いていき機関砲のしたに来たところで足を止めた。
「しきしま……」
機関砲の影には海上保安官の制服を着た少女が空を見上げていた。
「?……あ」
少女は夏輝を見ると小さく声を出すとともに目を丸くした。
「なんで……」
どうやら自分の船に自衛官が乗っていることに疑問を持ったらしい。
「大丈夫?」
「肩が少し、沈むことはないけど」
夏輝の質問にしきしまが答えた。彼女の制服には赤い血が滲んでいた。やまとの目は驚愕で見開かれたいる。
「え……そんな、血が」
「ただの機銃でこの様、世界最大の巡視船も役に立たないわね」
やまとに対してしきしまが言った。が、先を急ぐように夏輝が言う。
「しきしま、少し時間あるか」
「ええ、落伍したからもう暇だけど?」
しきしまがそう言うと夏輝はしきしまに近づいて何かを耳打ちした。その間しきしまは頷いていたがやがて夏輝の顔を見て「わかった」と言った。そしてやまとの方を向いて
「すこしこっち来て」
と言って機関砲の影に消えた。やまとは何がなんだか分からず夏輝の顔を見た。夏輝は普段の穏やかな顔でただ一言、「行ってこい」と言った。夏輝に対してやまとは頷くとしきしまのほうへ歩いて行った。
数分後、二人がこちらへ歩いてきた。夏輝のそばへ来るとやまとが少し考えてから口を開いた。
「え……っと」
言うか言わないかまだ迷っているようで一度言葉を切ったがすぐにまた口を開いた。
「すみませんでした、三尉」
夏輝は一度小さく頷いた。それに後押しされたかのようにまた口を開いた。
「しきしまさんと話してみて、いろいろ元気づけられました……今度こそ頑張りますから、見ててくださいね!」
やまとと夏輝はしばらく見つめ合っていたが夏輝が小さく笑うとやまとも笑って「いきましょう」と言うと周りに青い光を広げて夏輝やてるづきと一緒に自艦へ戻っていった。あとにはしきしまだけが残されていた。
「がんばれ……私も応援するからね」
三人が消えたあと空を仰いでしきしまが言った。
本当にお久しぶりです。一ヶ月ぶりです。そんだけ待たせておいてこんな内容ですみません。さて、今日から第○節だったのを第○話に変えました。なんで最初の時に節にしたのか覚えていないのですが普通に考えて話のほうがいいと思ったので変えました。また、今まで・・・だったところを…に変えました。それと予想で横須賀配属だろうと思って出していたてるづきが現実でも横須賀が定係港になってよかったです。これからもよろしくお願いします。
平成24年4月14日