第一章 第七話 真夜中の明かり
お久しぶりです。最近内容を少し変更しましたので第六部がらもういいど読み直していただけると嬉しいです。
11月12日朝、夏輝はけたたましいブザーで目が覚めた。
「総員出航準備!総員出航準備!」
夏輝は布団から出ると急いで着替え始めた。少し遅れてやまとが布団からはい出てきた。
「予定より早いですね」
「うん、まだ2時間も前だよ」
着替え終わった夏輝はやまとより先に部屋を出ようとした。
「あ、さぼるなよ」
「はーい」
やまとに念を押すと夏輝は扉を閉めて通路へ出た。
今、夏輝は艦橋にいる。朝早くから耳をつんざくほどの大音量で流れた指令により出港準備を行なっている。
「これより本艦は九州沖へ向かい違法漁船の取締を行う。今回の臨時編成を発表する」
そう言うと艦長は手元の紙を広げて読み上げた。ほかの艦でも今、同じことが行われているだろう。
「第一警戒艦隊 ひゅうが、やまと」
「第二警戒艦隊 あきづき、てるづき」
「第三警戒船隊 しきしま、あきつしま」
「高速機動船隊 あかいし、あそ、とから、かいもん」
「取締拿捕船隊 白鴎丸、白龍丸、東光丸」
少し間を空けて話を続けた。
「今回は本艦の属する第一警戒艦隊を中心に行動する。気を引き締めて行動して欲しい。以上」
そう言うと艦長は艦橋の端にある艦長席に座った。
「抜錨!」
「両舷前進強速!」
「針路270度!」
6時00分、艦隊は錨を引き上げ現場へ向けて航行を始めた。
「三尉」
やっと艦橋にやまとが現れた。
「やっときたかやまと」
「がんばりましょうね三尉」
先日とは違って今日はかなり元気だった。
「今日は元気だな」
「ええ、いつまでもしょんぼりしてるわけにはいきませんから!」
「頑張りすぎてはずすなよ」
「はい!」
やまとが答えるのを確認すると夏輝は再び窓の外へ目を戻した。
その日の夜
「三尉」
「どうしたやまと」
双眼鏡から目を離してやまとの方を向く
「夜の船って綺麗ですね」
「ん?ああ、航海灯がつくからね」
窓の外には赤と緑と白の明かりが無数に並んでいる
と、その時夏輝が声を出した。
「ん?」
「どうした」
夏輝は双眼鏡で窓の外を確認した。そこには海上保安庁の白い巡視船、そしてその向こうに大規模な漁船群があった。
「おい、あれ漁船じゃないか?」
「ん?そりゃ海だし漁船ぐらいいくらでもいるだろ。ほら、網も下ろしてるし」
「いや、でも航海灯どころか室内灯もつけてないぞ」
そういうともう一度双眼鏡を覗いて今度は漁船の船首を確認する・・・そこには日本にものではない文字で船名が書かれていた。
「前方、漁船群確認!日本国籍ではありません!」
「探照灯照らせ」
すぐにサーチライトが照らされる。
海上保安庁が警告を開始した。
『当海域における他国籍船による漁は違法です。直ちに停船しなさい。Please stop your engine and ship.』
さらに汽笛で短音1長音1短音2の信号が発せられる。これは停船命令を意味する。
だが不審船は依然停戦しなかった。それどころか集団で蛇行を始めた。振り切ろうとしているらしい。
「漁船群、西へ転針しました」
「なんとしても逃がすな!」
艦長が叫ぶ。と、その瞬間漁船群が急加速した。
「漁船群急加速、さらに逃走!」
「機関、最大戦速!」
「最大戦速、ヨウソロー!」
それとともに艦が急加速した。勢いに負けて数人が床に倒れる
『こちらひゅうが、総艦第三包囲序列に占位せよ』
巡視船がまた停船命令を行う。
『ただちに停船しなさい。Please Stop your engine and ship.请停止你的发动机和船.당신의 엔진과 배를 중지하십시오』
だが対象は全く停戦する気配はなかった。
と、その時
「火炎瓶です!」
漁船から火炎瓶が投げつけられた。火炎瓶は宙を舞い、横の巡視船に当たった。
「あそに命中しました!」
見張り員が叫んだ。
「おい、危ないぞ!距離とれ!」
「艦長、しきしまから通信です」
「なんだ!?」
「・・・・・・!、巡視船から威嚇射撃を行うとのことです!」
その言葉とともに艦橋内は凍りついた。威嚇射撃、それは止まらなければ沈める、という意味である。
『しきしま、あきつしま、威嚇、35mm機関砲、速射よーい』
『正面、仰角50度!』
『撃て!』
その音と共に横に赤い線が走った。巡視船2隻により威嚇射撃が行われたが依然止まる気配はなかった。
「!・・・違法漁船甲板に機銃を確認、こちらに指向します!」
「何!?甲板員退避!」
艦長の声の後、窓の外に何本もの赤い線が走った。
「さ、三尉!」
やまとが叫ぶ。あちこちから声が上がっている。
「大丈夫、大丈夫だやまと」
夏輝がなだめるがやまとは収まらなかった。
『右方あそ、被弾しました!』
スピーカーから海保の無線が聞こえくる。
『しきしま、あきつしま、対象漁船船体、35mm機関砲、速射よーい!』
その放送とともに艦橋内は凍りついた。ついに巡視船に威嚇ではなく船体への射撃指令が下った。
『うてぇ!』
両舷にいた海保の巡視船からも赤い線が走る。
「はじまっちまった・・・」
ついに海保と漁船とのあいだで打ち合いが始まってしまった。違法漁船の船体に赤い火花が散る。だが漁船は一向に射撃をやめる気配はなかった。
「このままだと巡視船が・・・」
その声と1秒の差もなく右舷の見張り員が叫んだ。
「しきしま、炎上、速力低下!序列から離脱します!」
「しきしまさん!」
やまとが叫んだ。
「しきしまさん!!」
「やまと、もうどうしようもない!」
やまとはその場に泣き崩れてしまった。が、そのあいだにも打ち合いは続いた。
「艦長、東京からです!」
不意に艦橋の後ろにいた通信士が叫んだ。
「つないでくれ」
そう言うと艦長はインカムを頭につけた。
しばらくして艦長はインカムを外すと皆に向き直り言った。
「今、東京から連絡があった・・・・・・先ほど海上警備行動が発令された」
その声と共に艦橋内がざわついた。海上警備行動、それは事案に本格的に自衛隊が加わるということである。
「これより私はCICへ入る。航海長、ここは頼むぞ」
「はい」
艦長は航海長と敬礼を交わすと扉を開けて外へ出ていった。
「海上・・・警備行動」
夏輝がつぶやいた。
「私、戦いなんて・・・」
やまとはその続きを言わなかった。いや、言えなかったといったほうが正しいだろう。なぜならその声を凌ぐ大きさの音が鳴ったからである。
『総員、対船威嚇よーい』
その声に続いてCICからの放送が艦橋にも流れる。
『威嚇砲撃、主砲、正面0度、仰角40、うちーかたはじめ!』
その声から数秒遅れて大きな音が鳴る。やまとの主砲、65口径127mm速射砲の発射音である。
『主砲弾、不明船団前方に弾着』
『そのまま続けろ』
その時、夏輝の横で双眼鏡を除いていた見張り員が声を上げた。
「おい・・・あれ、なんだ?」
「え?」
夏輝は彼が見ている方角を双眼鏡で確認した。
そこには、明かりを煌々と付けた漁船の真ん中
大きな構造物、高くそびえる艦橋、そして・・・全甲板の砲
誰が見てもわかる軍艦がいた。
「ぜ、前方!290度、戦闘艦を確認!」
その声に艦橋中がその方向を見た。
「なんだあれは・・・」
「なんでこんなところに」
全員が口々に叫ぶ
『IFF(敵味方識別装置)応答なし、所属不明!』
『見張り員、艦番号確認できるか?』
「無理です遠すぎます!」
夏輝が叫んだ。そのあいだにも艦橋はざわついたままだった。
「東京に連絡、急げ!」
強い風が吹き付ける真夜中、やまとは右舷のウイングにいた。
やまとは震えていた。寒さではなくこれからおこることへの恐怖で。
「どうなっちゃうんだろう」
やまとは遥か遠く、探照灯で照らされている不明艦を見つめていた。いまも巡視船が機銃を撃っている。それを見ていると不安は増すばかりだった。
「・・・でも、三尉と約束したんだ」
遠くを見つめながら言う。
「約束した・・・」
やまとは大きく息を吐いて「よし」と言うと艦橋の中へ入っていった。
本当にお久しぶりです。上にも書きましたが内容を少し変えたので確認お願いします。本作品は現在検討されている領海警備法が制定され海自が領海警備を行えるようになったものとして書いていますのでそのあたりのご理解お願いします。前にも書きましたが本作は敵勢力に関する国名は出しません。ですので実在する国には関係ありませんのでそのへんよろしくお願いします。
2013 3/13 つながりがおかしかったのを修正