第一章 第五話 始まり
次の日、演習を終え横須賀に帰ったやまとの艦橋で夏輝が外を眺めていた。そこへやまとがやってきて同じように外を眺めた。
「なあやまと」
「なんですか?」
「護衛艦ってなんのためにあるんだろうな」
「え?」
やまとは本当に驚いたように口と目をまるくあけた。まさか夏希からそのような言葉が発せられるとは思っていなかったのである。
「いくら護衛艦って言っても装備は軍艦と同じだろ。お前に至ってはもう護衛どころじゃないし」
「私は生まれたばっかだからよくわかりませんけど・・・」
「はは、そうだったな。子供には難しすぎたかな」
「む!子供って・・・これでも艦魂なんですよ!少しは敬ってくださいよ!」
「いったい!!」
「ふん」
やまとは夏輝に平手打ちを浴びせてどこかへ行った。
「はあ・・・外に出ようかな」
そう言うと夏輝は後ろのラッタルを降りていった。
しばらくして夏輝は『やまと』の艦尾にいた。
「・・・一服するか」
そう言うと夏輝はポケットからタバコを出して口にくわえた。そして火をつけようとしたとき後ろに気配を感じて振り向いたためタバコを海に落としてしまった。
振り向いた先には一人の少女がいた。その少女はやまとと同じくらいの年で髪は短く、綺麗な黒髪であった。少女は夏輝が振り返ると小さく笑った。
「ええと、君は・・・」
「篠原三尉ですね。はじめまして。ずいかくです」
「え?ずいかくなんていう護衛艦あったっけ」
「ふふ」
「なに、その笑いは」
「あれです。ずいかくは」
「え?」
ながとが指さした方は米海軍の基地であった。
「あれは米軍の空母だよ?」
「あれです」
夏輝はもう一度ながとが指をさしている方を確認したがそこにはやはり空母しかなかった。
「空母・・・なの?」
「そう、海自初の航空母艦ずいかくです」
「でも・・・聞いたことないよ。それに今の日本は自衛に留めてるから空母持っちゃいけないんじゃ・・・」
護衛艦の進水式とあらば雑誌などで取り上げられるのが普通である。現に『やまと』の進水式もテレビで取り上げられるほどだった。
「公表するといろいろ問題がありますから」
「・・・見つからなければいい、ってこと?」
「わかりません。私、まだ生まれたばかりで・・・って、どこ行くんですか?」
「艦長室」
「え?」
そう言うと夏輝はどこかへ行ってしまった。
「はぁ・・・今の日本って大変だなぁ」
そう言うとずいかくは瞬間移動で帰っていった。
「失礼します」
今夏輝が『やまと』艦長室の扉を開けたところだった。
「篠原か・・・そこ、座れ」
「はっ」
艦長は夏輝が座るのを見届けてから口を開いた。
「で、何しに来た?」
「はい、空母のことです」
「空母・・・っていうと、ジョージワシントンのことか?」
ジョージワシントンとは現在横須賀基地に停泊している米空母のことである。だが今回の目的はそれではない。
「いえ・・・『ずいかく』のことです」
「え?」
夏輝の言葉に艦長は数秒間目を丸くしていたがしばらくして真剣な顔になって夏輝に聞いた。
「お前、どこでそれを知った」
「言っても信じませんよ」
今度はさっきより少しきつめに聞いた。
「どこで知った!」
「・・・・・・艦魂に聞きました」
「艦魂・・・だと?」
「はい」
「つまり・・・あれか?お前は艦の魂が見えてそれに『ずいかく』の存在を聞いたっていうのか?」
「はい、それで、海自が空母を持っているというのはどういう事なんですか!?」
「どうしてもしりたいのか?」
「はい」
「・・・・・・ちょっとまってろ」
そう言うと艦長は隣の部屋へ入っていった。
しばらくすると艦長がひとつの書類を机の上においた。
「なんですか」
「読め」
書類の表紙には『第三四一次調査報告書』と書かれていた。
「海自の諜報部が作成した書類だ」
「諜報部?」
「自衛行動に必要な情報収集を目的とした部署だ」
書類を開くと『戦力報告』と書かれていた。
北方
スキージャンプ式空母確認、カタパルト装備は確認できず。核保有確認。潜水艦防音性、中の上。艦艇攻撃射程中、長距離。脅威度A4
西方
スキージャンプ式空母確認、カタパルト装備は確認できず。潜水艦防音性、下の上。艦艇攻撃射程短距離。艦艇世代。2世代前。脅威度C4
西半島北
空母確認できず。潜水艦防音性下の上。核保有確認。艦艇攻撃射程短距離。戦略弾道ミサイル確認。米、豪射程圏内。本隊BMDにて迎撃可能。脅威度B3
西半島南
空母確認できず。潜水艦防音性中の下。艦艇攻撃射程中、長距離。米国との有効有り。脅威度C3
「これって・・・」
「つまり、そういうことだ。すでに周辺国は脅威が出てきている。この状態で軍拡しなければ取り残されることは否めない」
「でも・・・そうだ、もし攻めてきたらアメリカが・・・」
「いつまで平和ボケしている気だ!」
艦長が艦内にほ引き渡るほどの大声で怒鳴った。
「アメリカがいつでも助けてくれるわけじゃない。日本駐留もアジアへの警戒がきくからだ。安保条約だって必ず守られるわけじゃない。そうなったら自分たちで守るしかないだろ!!」
「でも・・・日本は・・・もう戦争は」
「いい加減気づけ!今の世界はもう平和じゃないんだ!」
そのあとは艦長も夏希も喋らなかった。数分間静寂が続いた。そしてやっと夏輝がしゃべろうとしたその時、静寂を破ったのは夏輝の声ではなく機械音だった。艦内にうるさいほどのブザーが鳴り響いた。
「艦内通報、艦内通報、横須賀本部より通達。これより本艦は東シナ海へ向かい水産庁と合同で違法漁船に対する警戒を行う。乗組員は直ちに出港準備をせよ」
夏輝の動きが数秒間止まった。が、そこへすぐに艦長の怒鳴り声が響いた。
「なにやってる!早く持ち場に付け!!」
「あっはい!」
そう言うと夏輝は艦長室を出て艦橋へ走っていった。
さて第五節、終わりました。いよいよ本題に入ってきました。次回より少しずつ作戦へと入っていきます。前にも述べた通り国名は挙げません。が、装備などは実際のものを使うと思います。
それとできるだけ早く更新しようと思っていたのですが今週から期末テスト一週間前なので更新が遅れるかもしれません。本当にすみません。では、これからもよろしくお願いします。
2013.2/20「不明艦数隻が展開中」を「不明艦数席を確認」に変更
2013.2/24「日本海、新潟沖EEZラインより西方200km地点にて不明艦数隻を確認。これより本艦は該当海域へ出動、警告を発する。以上。終わり」を「これより本艦は東シナ海へ向かい水産庁と合同で違法漁船に対する警戒を行う。乗組員は直ちに出港準備をせよ」に変更
2013.4/14 題名変更 節→話