第一章 第三話 古き魂と助言
夏輝とやまとが出会った次の日、やまとは自艦の艦尾にいた。『やまと』にはヘリコプターの搭載能力が備えられており、艦尾は発着スペースとなっており、広い空間が開けられている。そのへりに座ってやまとは一人考えていた。
「なんで私はこんなに人気がないんだろう・・・」
やまとは就役してから今までずっと国民に反対ばかりされてきた。そんなやまとは自分が生まれる前の日本を知らないためなぜ自分が批判されなければいけないのかわからなかった。と、そこでやまとは東よりやや南側の方角を見ると
「あそこに行こう・・・」
と言って立ち上がった。次の瞬間やまとの体が青く光り始めた。
数秒後、やまとはどこか別の艦の甲板にいた。足元には色あせた木甲板が広がっており横には今のものと比べるととても大きい連装砲塔があった。と、その時
「やまと~」
という自分を呼ぶ声を聞いた。声が聞こえた方を見ると『三笠』の艦橋で一人の少女が手を振っている。
ここは記念館『三笠』の甲板である。日露戦争において連合艦隊旗艦を務めた『三笠』はその後記念館として横須賀に保存された。今の艦にはついていない象徴を表す菊の紋は東京、皇居の方角をむいている。この艦の上は現在残っている数少ない旧日本海軍を感じられる場所である。それは記念館となった今でも戦艦『三笠』の艦魂が生きているからなのであろう。
今もなお手を振っている少女の名前は「三笠」。彼女は連合艦隊旗艦としていくつもの戦いを乗り越え日本海海戦でバルチック艦隊を壊滅させた艦魂である。
「三笠さん、今そっちに行きますんで」
「はやくね~」
そう言うとやまとは艦橋へ足を向けた。艦橋といっても『大和』や『やまと』の艦橋とは違いあまり高くないため数分で艦橋へ行ける。やまとは階段を上るとそこにいる少女に話しかけた。
「三笠さん、ちょっとご相談が・・・」
「うーん、ここじゃあなんだからなかに行こうか」
そう言うと三笠は階段を降りていった。
今、二人は三笠の艦内にいる。そこで三笠はコーヒーを二人分入れるとやまとに椅子に座るように促したあと自分も椅子に座った。
「で、相談って何?この人生経験が一番長い私が答えてあげるわよ」
やまとは少し躊躇したようにしばらく黙っていたがしばらくすると口を開いた。
「私は・・・いらないものなんでしょうか?」
「え?」
「私は生まれてからずっとみなさんから批判されてばかりです。国民を守るために生まれてきたのにその国民に批判されたら・・・私は、何をすればいいんでしょうか?」
やまとがそう言うと三笠はしばらく「うーん」と考えたあと何かを思いついたように口を開いた。
「そういうことか・・・・・・太平洋戦争のこと覚えてる?」
「覚えてるかって言われても私はその時生まれてませんよ?」
「ああ、そうだったね、ごめん。私がその時生きてたものだから。で、太平洋戦争では日本は負けた。それは知ってるわね?」
やまとが小さく頷くと三笠は続けた。
「昔、戦時中日本の国民の多くの人は公開されている日本軍の兵器は端から端まで知ってたの。でも最近では自分の国が何にどうやって守られているのか知らない人が多い。自衛隊の装備に何があるのか知っているかって聞くと大抵はPAC-3やあたごといったニュースに出てくるものばかりになった。さらに数年前のお偉いさんたちは自分たちの装備の名前を把握していないこともあった。たしかに数年前まではそれでよかった。それは太平洋の平和がある程度保たれていたからなの」
そこで三笠は一回言葉を切ると机の上に置いてあるコーヒーを一口飲んだあとさらに続けた。
「でも、この数年でそれは変わった。周囲の国が力を付け、最近は兵器を使った高度なテロも発生してる。この状態で自衛にとどまると日本は確実に倒れてしまう。そこで政府が出したカードがあなた。昔、私の知り合いが言っていた。『兵器は人を傷つけるためにあるのではない、どこかが強い兵器を持つことによってその兵器への恐れから抑止力を生み出すためにあるんだ』って。その言葉を聞いたとき、私は今までの考えが下から覆されてしまった。私はその時まで自分は兵器として生まれてきたから、この戦いを絶対に勝利に導くんだって、そう思ってた。でもね、その言葉を聞いたときに思ったんだ。私は人を殺すためにいるんじゃない、守るためにいるんだって。だから私はその人を絶対に守ると誓った」
三笠はそこで一回コーヒーを飲み何かを思い出すかのように窓から外を眺めていた。
「やっぱりね、今の日本は平和に慣れすぎていると思うの。今の日本だって自衛隊や政府の働きがあってこそ日本の平和は守られてきた。でも国民にはその事実を知らない人がいる。なぜ日本が平和なのか知らない人がいる。なぜ平和か、それは今までの戦いで多くのものを失いそれを繰り返さないために大勢の人々が努力をしてきたから。だからあなたにはその大勢の一員として頑張っていってほしいの。あなたにはちゃんとした仕事がある。あなたにはさらに日本を平和へ導いて欲しい。そう思う。だからあなたは無意味ではないわ」
三笠はそう言うと少し笑ってやまとを見た。それに対しやまとは少し考えてから言った。
「・・・そうかもしれません。うん、私も頑張って日本をもっと平和にして三笠さんみたいになります」
やまとはそう言うと笑顔で三笠に頭を下げた。そこからは二人共無口でコーヒーを飲んでいた。と、そこでいきなりやまとが
「あ、忘れてた!」
と、言った。それに対し三笠が聞く。
「何を?」
「今日は少尉と会う約束してるんだった」
「少尉?」
「ええ、私の航海科の方で私たちが見えるんですよ。あ、ここへ連れてきましょうか?」
「ん?じゃあお願い」
「じゃあ行ってきます」
そう言うとやまとは時間へ瞬間移動した。
「大和の航海科か・・・」
三笠がそう呟いたすぐあとにやまとが帰ってきた。
「三笠さんこちらです」
そう言うとやまとは夏輝を三笠の方へ連れて行った。三笠は少年のその顔を見た瞬間凍りついた。そして数秒後やまとが声をかけた。
「三笠さん?大丈夫ですか?」
「え?ああごめん」
「記念館三笠の艦魂の三笠です」
「護衛艦やまと航海科の篠原夏輝です」
「え・・・」
三笠はその言葉を聞くとまた驚いてしまった。が、今度はすぐにやまとが声をかけたためあまり間はあかなかった。
「三笠さん?本当に大丈夫ですか?」
「ん?ああうんちょっと疲れたから一人にしてもらえるかな?」
「ああ、はい分かりました」
そう言うとやまとは夏輝と一緒に瞬間移動して消えた。ひとり残された三笠は椅子に座ると一言つぶやいた。
「・・・似てる」
第三節どうでしたか?今回は少し密度が濃くて読みにくかったかもしれません。それと中盤の話はあくまで小説ですので現実の問題とは関係ありませんからあまり気にしないでください。今回は夏輝はあまり出番がありませんでした。まあこの話は三笠主軸の話ということになります。次回からはほかの護衛艦の艦魂を出していこうと思います。
2013.4/14 題名変更 節→話