第一章 第二話 出会い
2018年、観艦式を終え『やまと』たちは横須賀に帰った。その『やまと』を待っていたのはあまりいい歓迎ではなかった。
[護衛艦やまと就役反対!やまとは違憲だ!破棄すべき!絶対に許すな!]
そんな横断幕を持った人々がしきりに『やまと』に罵声を浴びせていた。テレビカメラも来ているようだった。どうやら生中継らしい。
「今、護衛艦やまとが入港してきました。この護衛艦というのは名ばかりでほぼ攻撃艦です。今周りの方々も言っている通りこの護衛艦は違憲ではないかという意見が出ており現在・・・」
『やまと』の休憩室ではテレビがつけられていた。そのテレビの周りに数人の人が集まっている。
「ひどいもんだね、一度作った艦を破棄しろだなんて」
「それこそ税金の無駄だと思うんですけどね・・・」
「いや、僕は『やまと』はどうかと」
「なっ、お前自分の乗艦を・・・」
自衛隊の中でも意見が割れているらしい。自衛官数人が言い争っている。
ところ変わって『やまと』の艦橋では数人が前方見張りについていた。
「岸壁の人すごいですね」
「ここまでなのは初めてだな」
艦橋の窓からは横須賀基地の岸壁が見えている。
「まったく、周りが力をつけてきてる分、日本も強化しないといけないと思うんだけどなぁ」
そう言ったのは『やまと』の航海科に務めている篠原夏輝三尉である。名前からすると女性っぽいが男性である。彼は先日、海自に入ったばかりで最初の乗艦がこの『やまと』である。
その時艦長が叫んだ。
「接舷準備、繰り返す接舷準備」
「両舷前進微速、前方見張りを厳となせ」
「両舷前進微速、ヨーソロー」
岸壁に近づくにつれ艦橋が慌ただしくなってきた。
その時、夏輝は前甲板、VLSの横にひとりの少女を見た。その少女は戦闘服を着ていた。
「・・・あの子」
「え?」
「ほら、あそこの子。なんでいるんだろ」
海上自衛隊では女性の入隊が認められている。つまり艦上に女性がいてもおかしくはない。
「あそこって・・・どこにもいないぞ。それに海軍でもあるまいし女がいたっておかしくないだろ」
「いやでも・・・あの子は年が・・・」
「おい、お前ら何話してる。ちゃんとまえを見とけ!」
「は、はい!」
航海長の声に二人の会話は終わった。だが夏輝はまださっきの少女が気になっていた。
数分後、『やまと』は横須賀、逸見岸壁に接岸した。航海長の話が終わると自由時間となったため夏輝は甲板に出た。夏輝は海を眺めていた。沖では観艦式に特別出式した米空母ジョージワシントンが接岸準備をしていた。
「こんなに汚い海もどこかで沖縄の綺麗な海に繋がってるのか」
と、そんなことを言った時夏輝は艦首にさっきの少女が立っているのに気がついた。
「あんなところで何やってるんだろ・・・」
夏輝は無意識に艦首の方へ歩き出していた。艦橋、VLS、主砲の横を通り艦首についても少女は旗竿のしたでさっきと同じように立っていた。近づくにつれ少女が歌を歌っているのに気がついた。どうやら軍艦行進曲らしい。さっきも音楽隊により演奏された歌である。
「君、何してるの?」
夏輝が聞くと少女は歌うのをやめ振り返った。その顔は少し驚いているようだった。だが少女は何も喋らない。また夏輝が聞いた。
「何歳?」
そういわれてやっと少女は口をひらいた。だが夏輝が予想していた答えとは違っていた。
「篠原夏輝三尉・・・ですね?」
夏輝は予想外の答えが返ってきたので答えるのに少し時間がかかった。
「あ、うんそうだけど・・・君は?」
その質問にも少女は答えず別に話をした。
「私は観艦式が終わってからずっとここにいますが」
「ん?」
「誰にも声をかけられていません。甲板員にもです」
夏輝は何が言いたいのかわからなかった。
「・・・だから?」
「三尉は・・・」
少女はその先を答えなかった。いや、答えられなかったと言ったほうがいいだろう。なぜなら艦橋から出てきた数人がこちらに近づいてきたからである。
「篠原三尉!」
セーラー服を着たその男たちはどうやら航海科の海士らしい。
「どうした?」
敬礼をして自分の名前を呼んだ男に対して夏輝は答礼をして用件を聞いた。
「航海科おいて再度会議を行うので艦橋に集まれとのことです」
「わかった。ありがとう」
「失礼いたします」
海士は再び敬礼をして少女をちらりとも見ずに去っていった。夏輝はそれを見送ったあと少女を一回見てから艦橋へ向かった。
「以降の君たちの活躍に期待する。以上」
「敬礼!」
会議が終わると解散となったので夏輝は自分の部屋へ向かうことにした。
と、その時
「篠原!」
階段を下りていると後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた。夏輝は相手に聞こえるようにため息をつくと相手と向き合った。
「なんだよ」
「人の顔見てため息つくなよ、まったく・・・面白いような話をもっってきてやったのに」
彼は同期の桜井快斗である。彼は夏輝の反応にかかわらずとにかくしゃべりまくるためはやく部屋に戻りたい夏輝からすると少し面倒だった。
「で、面白い話って?」
「そうそう、お前艦魂って知ってるか?」
その時、夏輝はある話を思い出した。昔に聞いた話、艦船には魂が宿っているという話。
夏輝は走り出した。桜井の声ももう耳に入らなかった。艦橋を降りて甲板へ出ると艦首へ向かって走っていった。
探していた少女はまだそこにいた。照輝は全力で走ってきたため息が切れ心拍が早かった。その心臓が自分の興奮でさらに早く動こうとしていた。少女は夏輝に気づいたらしく立ったまま振り返った。
「・・・かなり急いできたみたいですね」
少女は夏輝の姿を見ていった。それに対し夏輝は自分が一番聞きたかったことを聞いた。
「君は・・・君は艦魂だったのか・・・」
少女は微笑むと頷き、言った。
「海上自衛隊護衛艦隊所属護衛艦『やまと』艦魂のやまとです」
そう言うと彼女は手を出してきた。握手をすると夏輝が言った。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
新鋭護衛艦が参加した観艦式の日、ふたりは出会った。それは偶然だったのか必然だったのか。誰にもわからないのであろう。
はじめまして。山本翔太です。一話目を投稿してから二話目が大変遅れてすみませんでした。さて、一応言っておきますが今現在は戦中ではありません。あくまで自衛隊ですのでそのへんをしっかり守っていきたいと思います。またこれからもいろいろ問題がありそうですので国名を挙げた上での国家間の戦闘はないと思います。それではこれからもよろしくお願いします。
2013.2/2 年号変更 2025→2027
2013.2/24 年号変更 2027→2018
2013.4/14 題名変更 節→話